三章 十話 悪魔会議「適合者」
事態は動きつつある。
それは天使天人側が大慌てで準備しているのと同様に、悪魔魔人側も大慌てで準備していた。
だが、違いはいくつかある。
最も大きなものは、天使と天人で揉める、なんてことが起こらない点だろう。
魔人の中では、絶対的に魔人よりも悪魔の方が強い。
戦闘力でも、経済面でも。
なので、基本的に魔人の国は悪魔たちのいいなりだ。
魔人国家を代表するような国もない。
よって、決め事は割とスムーズにすすむのだ。
だが、それは魔人と悪魔の間だけ。
悪魔同士は常に敵対関係にあると言ってもいい。
今日も相変わらずそんな感じだ。
「拉致があかねえっつってんだろ!」
「いえ、ですから例年はですね…。」
「強欲よ。例年通りにはいきません。私たちは常に最善を尽くして…。」
「オイ!ハナシがマとまってないゾ!!」
口論は交わされるが、どれもどうでもいいことだ。
ちなみに、今は天使と誰が戦うのかという話だ。
出しゃばる強欲が「謙譲の天使」の相手をするといいだし、それを皆がなんとかして止めようとしている。
暴食がキレだし、宥めようとして火に油を注ぐ嫉妬。
「お前にノクアシスは無理っつってんだろうがよ。」
「いえいえ、それは私という存在をあなたがはかれていないだけ。超越した力というものは、孤独なものですよ。」
その、他人を馬鹿にした言葉に、また暴食が突っかかりだす。
いつも通りの景色だ。
だが、少しだけ違う点もある。
今日は、怠惰が薄目を開けて起きていおるという点だ。
「ぅうるさいよお。はやくぅすることしてよぉ。」
やる気のなさは健在だ。
深い桃色の髪をだらしなく下げて、机に突っ伏しながらそういう一人の少女。
いや、少女というには大人っぽすぎる。
だが、子供とはいえない。
魔人の年齢基準で言えば、十代後半ほどの見た目だ。
なぜ彼女が起きているのか。
それは、傲慢が無理やり起こしたからだ。
毎回寝てもらっては困るというので、とりあえず今日だけ。
これから毎日無理やり起こそうかと思っている。
が、今までの経験からして、彼女が三日以上起きていた日はない。
傲慢は頭を悩ませる。
兄弟な強さを持つ傲慢が、こうやって頭を悩ませているのも滑稽な話だ。
力で全てをねじ伏せられる、最強の権能を持っているのにもかかわらず。
「オイ、おマエらのコウドウはオレがキめる。」
「では傲慢よ。なぜボクたちを集めたのですか?」
嫉妬が、傲慢に質問する。
なぜ悪魔全員を集めたのか。
もっというと、こんな無駄な時間をなぜわざわざ作ったのか。
その答えはある。
悪魔、または天使にとって、もっと言えば全世界の生物にとって重要なことを伝えに来たのだ。
傲慢がこの情報を手にできたのは、本当にたまたまだ。
この情報を有利に使えば、天使に対して大きなアドバンテージを作ることができる。
それは、
「いいか、よくキけ。」
「ええ。」
「早くねぇ。」
「私に命令など…。」
「うっせえ!!」
「なに?殺すの?」
「アアアアア…。」
全員の存在を確認し、了承も一応は確認した。
傲慢は、ニカっと笑い。
「テンシガワに、「適合者」がアラワれた。」
その瞬間、音が止まる。
嫉妬の屁理屈も、怠惰の寝言も、強欲の自慢も、暴食の怒りの声も、色欲の残酷さも、憤怒の祈りも。
全てが止まる。
それほどの重要な情報を、傲慢は話したということだ。
「適合者」
それは、それほど重要な意味を持ち、
「それは…本当ですか?」
動揺を隠し切れてない声で、嫉妬は尋ねる。
「あア。オレのカゴは「適合者」にハンノウしやすい。マチガいないだろうよ。」
「ってててことはさ!もしかしたら、その人は人間だったってこと?」
「あア。」
「創造物の方じゃなくて?」
「あア。そうだ。」
色欲が、執拗に聞いてくる。
本当に情報が正しいのか。
自分たちの聞き間違えなのか。
「適合者」は現れたのか。
そして、その答えを聞いて真っ先に反応したのが、憤怒だった。
「アアアアア、ア、ッア祈りが…っ!祈りが!!」
「憤怒よ。今のあなたの気持ち、このワタクシでもわかりますぞ。」
「なんでこんな時だけ素直なんだよ!」
顔を掻きむしり、髪を振り出す憤怒。
それは彼女なりの喜びの表現だった。
長年の思いが実った瞬間。
以上に甲高い声を高らかに上げて、体を変な方向に捻り出す。
誰からもわかる以上性を、今は誰も指摘しない。
皆が歓喜に打ち震えていた。
傲慢がそれらを満足げに見つめ、
「いよいよだ。だがヒトつモンダイがある。」
「…天人側にいるということですか?」
「あア。なんとしてもこちらガワにヒきヨせたい。」
「適合者」は滅多に生まれない存在だ。
だからこそ、このチャンスを伸ばすわけにはいかない。
決して天人側に取られたりはしない。
「キョウはそれだけをツたえにきた。そして、このことはシンチョウにショリしないといけない。まだコウドウはオこすな。」
「ええ。」
「みとめましょう。」
「ああ!」
「了解ぃ!」
「やったあ!!」
「―――――ッ!!」
それで、悪魔会議は解散となる。
だが、
「ふふふ。」
一人、誰にも知られずに笑う者が。
「ええ、「適合者」ですか。」
堪えられないわらい。
「傲慢は、慎重に、と言っていましたが…」
笑う、笑う。
「傲慢はぼかして言っていたようですが、考えればわかる。「適合者」は軍師ヒムラのことでしょう?」
止まらない。
だから。
「手に入れましょう。今度の天魔対戦までに。」
少し伏線を貼りすぎました笑