三章 八話 「「神」」
昨日は投稿できず申し訳ありません
水曜日は忙しいので、おそらく投稿できないです
「「神」」
その言葉。
それを呟いた時のノクアシスの顔は、何かにうっとりするようで。
本当に心から「神」を敬愛しているようで。
「「神」の恩恵を皆さんは受けているのに、それに気がつかない。愚かなことですが、仕方ない。憤怒のような者も現れてしまうのでね。」
「…は?」
「言って仕舞えば、本当の神です。私や天使なんかは、人々に神と奉られているだけのこと。特別な力はなにも持ちません。ですが、「神」は違う。」
「…。」
「あのかたは、正真正銘の、……言葉を当て嵌めづらいですね。ただただ「神」としか言いようがありません。」
「…いまいち要領を得ないな。先ほどからなにを言っているんだ?」
「今は分からなくていいですよ。私自身とてもふわふわした定義しか知りませんので。」
こちらを煙に巻くように、そういうノクアシス。
「では、続けましょう。とにかく、貴方には天人国家に呼びかけてもらわなければならないことが多々あります。」
「…あ、ああ。何だそれは?」
「先ほど言った戦争停止や戦力把握、そして天使国家と手を組むこと。天魔大戦は国家間の戦争ではありません。天使と悪魔、天人と魔人の生死をかけた、いわば種族戦争です。国家間で分裂してしまえば、すぐさま魔人に滅ぼされます。」
「了解した。…そういえばお前は天魔大戦を何度も経験しているのだろう?」
「?ええ、百何回ほどですかね。」
「では、その時に各国に呼びかけたことを資料としてまとめてもらえないか?」
「雑用を押し付ける気ですか?」
ムッとした顔をするノクアシス。
こんな時だけ、本気で嫌そうな顔をする。
「ほかの天使に頼んでもらっても構わないが、長命種のお前たち天使しか、前回の天魔大戦の情報は知らないだろう。」
百年に一回起こる天魔大戦。
その期間を生き延びれる一般天人などいない。
寿命は基本的に60くらいなのだ。
「…はあ、わかりましたよ。フォールンに頼んできます。」
「…ほかの天使に頼む癖して、やけに気が進まない感じだな。」
「天人に言われてやる作業は、何だってめんどくさいものですよ。」
本当につまらなそうに、ノクアシスは足をぶらぶらさせる。
どう返事をすればいいのか。
それが分からずに、ザガルは戸惑っていると、
「あ、そういえば伝えなければならないことが。」
「?何だ?」
「今度の天魔大戦とも関連がありますが…、天使内で少しだけ事を起こすつもりでしてね。」
「何だ?戦争でもするのか?」
「そんな事をしたら、周辺に多大な被害が出るので、やりませんよ。そんなつまらないことではなく、少し頭脳を使った駆け引きです。」
まるで戦争が。頭脳を使わないつまらないことだと言っているようだ。
面白さは人それぞれだが、頭脳は使うとは思う。
ザガルはそんな反論を心の中でして、
「駆け引き、か?それは俺が知ってもいいものなのか?」
「ええ、ある意味貴方にとって重要なことですよ。」
「ほう。」
ヨルデモンドの国王が関わると。
それはどういう事態なのだろう。
こちらの協力を必要としているのか。
それならば内容によるなと考えていたザガルに対して、ノクアシスが放った言葉は衝撃的なものだった。
「事は、クロノオの台頭、軍師ヒムラのことについてです。」
「………何だと?」
軍師ヒムラ。
ここで彼の名前が出てくるか。
ノクアシスは続ける。
「軍師ヒムラを、天使に仕立て上げるという計画を、今立てているのですよ。それで、ヨルデモンドにも協力してもらいたいのですが…。」
「待て待て待て!!」
「何ですか?」
「さっきからなにを言っているんだ!?ヒムラを天使に?だと!?」
ヒムラを天使にする。
ヒムラを天使にする。
ヒムラを天使にする。
何度繰り返して考えてみても、なにを言っているのか分からない。
天使にするだと?
どうやったらなれるんだ?
それは他人が決めていいものなのか?
分からない。
四十年そこらしか生きてないザガルには、なにも分からなかった。
「混乱しているようですね。」
「…聞きたい事はたくさんある。だが、本当に聞きたい事は二つだ。」
「何でしょう?」
「なぜそれを俺にいう?何か俺に、ヨルデモンドに何かしろと?」
「ええ、」
ノクアシスは本当に楽しげに笑うと。
「先程の戦争禁止令、クロノオとユースワルド、そしてどうせ命令しないと思いますが、天使コルガの戦闘国家を対象外としてください。」
「…何だと?まさかそこで戦争でも起こす気か?」
「いえ、クロノオとユースワルドは戦争させようとしてはいません。戦闘国家は、今後の出方次第ですが。」
「戦闘国家、カラダル・ポラリスか?」
「ええ、舌を噛むような名前ですからね。」
舌を噛むかどうかは不明だ。
そんなことより、
ノクアシスはこう言ったのだ。
もしかしたらクロノオとカラダル・ポラリスを戦わせるつもりだと。
そして、カラダル・ポラリスを支配する天使の名を。
それを思い浮かべて。
少しだけ、ヒムラが心配になる。
「では、もう一つだけ質問を。」
「ええ、いくらでも?」
「そのお前の…いや、お前たちの試みは、ヒムラを悲しませるか?」
「…。」
「奴に何か不幸なことが降りかかる作戦か?」
そこだけは譲れない。
ザガルにとって、ヒムラは可愛い孫のようなものだ。
孫にしては、可愛げはないが。
そんなヒムラを悲しませたくはない。
ノクアシスはフッと笑うと、
「ええ、もちろん。彼は幸せになるでしょう。」
「……。」
幸せになる。
何だその曖昧な表現は。
その発言の真意を探ろうとした時に、ノクアシスはいきなり席を立つ。
「これで話は終わりです。では。」
「…っ、待て!」
ザガルが引き止めるよりも早く、ノクアシスは部屋の窓をひょいっと開けて、そのまま窓のそとにでた。
行ってしまった。
ことの真意が聞けないまま。
天使、クロノオ、カラダル・ポラリス、ヒムラ、軍師、
「幸せ。」
それをいうノクアシスは、もしかしたら彼自身気付いていないのかもしれないが、本当にヒムラの幸福を願っているようだった。