三章 六話 襲来は勘違い
昨日は投稿できず申し訳ありません
クロノオとユースワルド会談が行われていたちょうど同時期に、ヨルデモンドでも事件が起こっていた。
ヨルデモンドの堅牢な城が、激しく揺れる。
外から見てもわかるほどの、激しい揺れだった。
地震ではない。
そもそもこの世界の人々は地震なんてものを知らない。
城が揺れて、地鳴りが響いて。
城の中も大惨事だった。
様々な調度品が音を立てて揺れて、不安定なものは破壊される。
床や壁には亀裂が入る。
そして城の中にいた大抵の人は、なんらかの怪我を負う。
そんな揺れにいち早く気がついて、警戒体制に入ったのは、「白竜の剣」団長、クラリス・レートクリスだった。
ちょうど昼食をザガルやその側近と一緒に食べていた時に、それを感じて、
「ザガル様。」
「ああ、わかっている。」
「なにかがきています。」
すぐさまザガルの隣に立ち、彼を庇うように動く。
「騎士よ!全員警戒せよ!」
ザガルがそうやって命令を飛ばし、他の「白竜の剣」達も遅ればせながら警戒態勢に入る。
なにかが来る。
それはこの場にいる全員が感じでいたことだ。
そして、
食堂の入り口のドアが軽く開かれる。
その人物の歓迎する雰囲気ではないのにもかかわらず、入ってきた男は白い髪の毛を書き上げて、
「総出でお出迎えとは、感謝いたしますよ。ヨルデモンドの国王様。」
「…やはりお前は…。」
「ええ、その通りです。」
優雅に一礼をすると、その人物は、まるで世界に敵は居ないとでもいうかのような余裕の表情で名乗った。
「初めての方はお見知り置きを。私はノクアシス・アング・デルタミーニャ。天使の一柱です。」
「謙譲の天使」が、現れたのだった。
「「謙譲の天使」がなんでここにきてるんだ。」
「別に。少しあなたとお話がしたいだけですよ。」
ザガルの質問に、興味なさそうに答えるノクアシス。
ザガルは、考える。
彼の狙いを。
二十年前の戦争の時は、彼の赴くままに一対一の決闘をやらされた。
彼がその結果に興味を持ったからだ。
つまり、ノクアシスは自分の心の赴くままに行動することがあるというわけだ。
もしかしたら、今回の襲撃も、彼がただやりたかっただけなのだろうか。
「…城が少し破壊されたが。話をするだけなら大人しくきてくれればいいものを。」
「ええ、確かにそうですが。この城の耐久度を測りたかったので。」
「…。」
馬鹿げた回答だった。
城の耐久度を測りたいなど。
城を攻撃することは明らかに宣戦布告に等しい。
それを感じ取ったのだろうか。
ザガルの右端で、動く影が一つ。
「ヨルデモンドを、舐めるなああ!」
「おい!」
「やめろ!」
「白竜の剣」の一人が、怒りに任せてノクアシスの剣を振り下ろす。
そのスピードは天下一品、さすがはヨルデモンド最高の騎士と言える。
が、
「なっ、俺の剣が…!」
ノクアシスが、その騎士の剣を片手で受け止めた。
その手は切断もされておらず、傷一つ付いていない。
その事実を理解できないまま、オロオロする騎士。
そこで、ノクアシスはフッと笑って。
「そろそろ殺して欲しいですか?」
右手の人差し指を立てて、それを兵に向かってスライドしようとする。
なにをしようとしているのか。
前にノクアシスと戦ったことのあるザガルだからわかった。
「やめろノクアシス!」
「…あなたが私を名前で呼ぶなんて、なかなか稀有だ。」
「きりかかった代償は払う!だから頼む!」
ザガルが必死にノクアシスを宥めようとする。
ここで彼が暴れてしまったら、きっと皆塵一つ残らない。
そんな事態はなんとしても避けなければならない。
ノクアシスは何気なく騎士を見て、
「別に私はどっちでもいいですけどね。要求するなら、あなたと二人で話す権利、ドでもいいましょうか。」
「二人で…護衛は…。」
「もちろん外させてもらいます。盗聴されては溜まったもんじゃないですからね。」
「…、了承した。」
「ザガル様!危険です!」
ザガルの承認を、クラリスが止める。
クラリスにはわかった。
城を揺らし、先程の騎士の攻撃を素手で受け止めたのだ。
そしてそれが「謙譲の天使」
天使最強の七人。
最古と言われる力を持つノクアシスの伝承は、クラリスも聞いたことがある。
だが、今の光景をみて、自分がノクアシスを過小評価していたことをなんとなく察した。
明らかにそんな危ない奴と敬愛するザガルを一緒にさせるわけにはいかない。
だが、ザガルはクラリスに向けて大胆に笑った。
まあ大丈夫だと
俺がなんとかすると。
皆が逃げれる時間は稼げるはずだと。
クラリスはそれを読み取って、少しため息を吐いた。
ザガルは国王だというのに、かなりのチャレンジャーだ。
そんなこと、生まれた時から一緒にいるんだから、わかってるはずなのに。
「…わかりました。」
「うむ、それでいい。」
そんなクラリスを見届けて、改めてノクアシスに向き直る。
「なんの話だ。」
「わかっているのでしょう?」
「まあな。天使なんて、基本この時期しか動かないからな。」
「そうですね。あと、貴方達に攻撃されたい時も働きましたよ。」
「…っ、まあいい。天満対戦の話だろう?」
自分に不都合な話題になりそうだったので、ザガルは急いで本題に入る。
「ええ、天使国家と天人国家の協力は必要不可欠です。」
「肩を並べて歩くしかない。な、」
「ええ、ですから、肩を並べて歩けるように、そちらの歩くスピードを上げるために、ここにきたのですよ。」
「ふっ、戯言を。」
大体内容は把握した、
ノクアシスに敵意はない、
話し合う内容も、かなり重要な話だ。
なら、交渉のテーブルにつける。
「わかった。部屋に案内しよう。」
「ええ、」