一章 第十五話 この世界の魔法
「はあ、魔法学校行ってきなさいよ。」
あっさりと断られた。
魔法学校とは、魔法の道を志したものたちが集まる魔法使い養成学校だ。
つまり、そこで一から勉強してこいとすげなく断られたということだ。
「いやでも、軍師の俺が魔法学校に入ると悪目立ちするだろ。」
「そんなの知らないわよ。」
そう、俺は兵士たちの間では最上位魔法が使えると言う設定なのだ。
ちなみに最上位魔法とは、見たことのあるものすら世界で100を下回ると言われている、伝説の魔法だ。
つまり、完全に神話級の魔法使い扱いされている。
そんな俺が魔法学校にいたら、俺に失望して俺の命令に背く輩も出てくるかもしれない。
俺はこの噂を利用して、うまく立ち回っていきたいのだ。
「それにそんじょそこらの魔法学校の先生より、テルルの方が魔法うまいだろう。」
「まあ…そうよ!そんなの当たり前じゃない!」
テルルは嬉しそうに答える。
うん、ちょろいな。
「その大魔法使いのテルルさんに教えてもらえたら嬉しいなー。」
「えっ…まあ、しかたないわね!この大魔法使いテルルが教えてあげるわよ!」
隠して、俺は大魔法使いテルルの教えを乞うことができた。
「魔力っていうのは、元々魔法界ってところに存在してるの。そこから魔力を引っ張り出して、うまくこちらの世界に適応させたものが魔法と呼ばれるのよ。」
んーわかったようなわからないような。
「先生、魔法界ってなんですか。」
と俺がいう。
ちなみにテルルのことを先生と呼んでいるのは、テルルの命令だ。
俺一応上司なんだが…。
「いい質問ね。魔法界っていうのは現実と並行して存在している世界のことよ。そこには魔力以外のものが一切存在していないというわ。かつて天人や魔人は、その魔法界と現実世界を繋げて、魔力をこちらに注入する方法を考えたわ。それが魔法陣よ。」
ああ、なんとなくわかった。
例えば元の世界の車はガソリンや電気で動く。
家電も電気で動く。
そのほかにも熱で動いたり、力で動いたりするのだろう。
その、なにかを動かすエネルギーというカテゴリーの中に、魔力というのがあるのだろう。
魔法界というところにある、未知なるエネルギー。
それを使って、火を生み出したり光を生み出したり、癒しを与えたりするのだろう。
となると、魔法陣というのはその中継地点。
前世で言う、コンロや電球などのことなのだろう。
「その魔法陣は誰にでもかける。でも、魔法陣と魔法界をつなぐもの、それが私たち生物なの。」
となると、魔法において俺たちは、コンロの元栓、電球の導線ってことか。
「そして、そのつなぎ方をうまく運用すれば、素晴らしい魔法が使えるし、逆にうまく使えなかったら下級魔法しか使えない。その使い方を学ぶのが魔法学校ってこと。」
ほうほう。
俺が頷いていると、テルルが訝しんでこちらを見る。
「本当にわかったの?これ、魔法学校で一年かけて教わるんだけど。」
「んーまあなんとなくわかったよ。」
歴史教師という頭を使う役職についていたからかもしれない。
それに、ラノベで魔法自体は色々と知っていたからな。
「じゃあ、魔法を使ってみよう。」
テルルがそう言うと、魔法陣を紙に書く。
ちなみにこの世界では紙は貴重だ。
書くもの自体はあるのだが、紙というよりヨレヨレの布に近い。
だから俺が無理言って軍部にたくさんおいてもらったのだ。
「はい、これが赤魔法の基本的な魔法陣。これを覚えて。」
そう言われて俺はその幾何学的な円形を覚える。
割と覚えやすい。
円を二つ書いて、間に簡単な模様を書くだけ。
ここでおさらいしとくと、魔法は基本的に4つの系統があって、
赤魔法
世界の粒子の運動に関与する。粒子運動の増大によって温度変化をもたらす。
青魔法
生物の体内に関与する。生物に必要な粒子を生み出し、それによって怪我の治癒などを行う。
緑魔法
世界の浮遊物質に関与する。浮遊している粒子に速度を生み出し、風を起こす。
黄魔法
大地に関与する。固定されている粒子の変形。地形の変形など。
となっている。これの他にも天使系魔法、悪魔系魔法があるが、それは別の機会に紹介するとしよう。
…というのが俺がメカルに教わったことだ。
つまりは赤魔法を使いこなせれば炎を生み出したり、逆に何かを凍らせたり出来る。
「この魔法陣を書けば基本誰にも魔法は使えるけど、その魔法陣の形を覚えることで、書かなくても魔法が使えるようになる。」
と、テルルは言う。
なるほど、これから出てくる魔法陣をいちいち書いていたら、キリがない。
自分で覚えれば、魔法はいつでもどこでも使えるらしい。
「試しに、この魔法陣を覚えて「火力弾」と言ってみて。」
「わかったよ。」
魔法陣を頭に思い描くと、目の前の床に魔法陣が浮かび上がる。
なるほど、こう言うことか。
そのまま念じると、自分の中に魔力が流れ込んできて、それが魔法陣に流れ込んでくる感覚が出てくる。
「火力弾は赤魔法でも最底辺の魔法。特に訓練をしなくても使えるわよ。」
なるほど、そのまま俺は言う。
「火力弾」
魔法陣の上で、炎が生成される。
「おお!」
すぐにその炎が発射される。
あ、ちょっと待って、発射した炎ってどうすんの。
炎はまっすぐテルルの部屋の扉に向かっていく。
木製だし、燃えたりするんじゃ。
「この部屋は半魔法をかけているから大丈夫よ。」
なんだ、それなら扉にあたっても消えるだけだ。
安心安心と思った時、扉が開いてドルトバが入ってきた。
「いやーヒムラ様探しまし…ってなんだこれ!!」
次の瞬間、火力弾がドルトバに当たり、ドルトバをコンガリと焦がしていく。
「アチアチー!」
「ヤバイ!治癒再生!冷却!」
テルルが青魔法と赤魔法をかける。温度を下げて傷を癒す作戦だ。
魔法を必死にかけるテルルと、まだ痛みが引かないのか叫んでいるドルトバ。
そして俺は…。
「あ…すまん。」
ただただ申し訳なく思うだけだ。
俺はテルルに部屋を追い出され、とぼとぼ自分の部屋へと帰っていく途中である。
ちなみにドルトバはテルルの必死の治癒のおかげでとりあえず回復したらしい。
一日中安静にしたら大丈夫とのことだ。
すまんなドルトバ。
そして俺の手には魔法書が握られている。
とりあえず魔法陣を覚えて来いということらしい。
「はあ、この量を覚えろと!?。」
この魔法書、広辞苑以上の分厚さだ。
「あんた、これでも下級魔法のC級魔法なんだからね。これを覚えるのは基本よ!」
とテルルに怒られてしまった。
ちなみに下級魔法はA級B級C級と分かれていて、ABCの順に難しいらしい。
パラっとめくってみると、風を生み出すとか土を作るとか、しょうもないものしかない。
もっとすごいのを使いたかったら、しっかり覚えろということか。
「まあ、頑張るか。」
こうして俺は、マルベリーに剣を教わり、ドルトバに馬を教わり、テルルに魔法を教えてもらいながら一週間が過ぎた。
しかし、そんな平穏な時はすぐに終わる。
ある日俺が軍事棟の廊下を歩いていると、俺の影からロイが出てきた。
ロイとレイには国内の警備も任せている。
「ヒムラ様、パラモンドと名乗る男から接触が。」
「…!わかった!用件は?」
「戦後処理らしいです。」
ついにきたか。
シネマ国とクロノオ王国の間で起こった二ヶ月前の戦争。
シネマ国の勝利に終わったその戦争の後始末をするためやってきた男パラモンド。
様々な陰謀が絡まりあい、事態は急速に変化していくのだった。
ちなみに魔法に関しては振り仮名は英語で、それ以外の振り仮名は片仮名で表記しています。