三章 第二話 英雄国の危機
英雄国ユースワルド
小国とはとても言い難い。
だが大国というには何かが足りない。
そんな国である。
何千年前ほどに現れた英雄ユース。
彼の逸話は世界中に何千と存在している。
記録では4200年前の天魔大戦に彼が悪魔の国の一軍を退けたとあるほどだ。
実力では天使レベル。
だが、彼はその天魔大戦が終わってすぐに行方をくらましているのだとか。
彼はその時三十歳に差し掛かろうとしていた時なので、年齢による老衰とは考えづらい。
では、なにが彼を行方不明にさせたのか。
それを研究しようとしたものは過去に誰一人としていなかった。
なぜいなかったのだろう。
だが、ユースの研究をする気が皆起きないのだ。
彼があれだけ英雄的な人物で、どれほど有名であったとしても。
話がそれた。
そして、その英雄ユースが二十歳の時に対魔人用に作った国家が今の英雄国ユースワルドだ。
彼の十年にも満たない統治、だがその頃の統治方法から今のユースワルドの統治体制はあまり変わっていない。
それほど彼の統治体制が先進的であった証拠だ。
それから、彼の血を引き継ぐ者が代々王として君臨している。
揺るぎない地盤と英雄国という看板。
そして世襲制という安定した国家。
着々と国を広げていき、今では天人国家五本の指に入るほどだ。
だが。このような国であっても、全く歯が立たない存在がいる。
悪魔の国デトミノと英雄国ユースワルドの大戦。
この戦いは、はっきり言って絶望的だった。
デトミノ側がなぜか途中で兵を退却させ出したので、ユースワルドをは滅亡を逃れたが、一つ間違っていたら城が陥落していただろう。
王であるホライゾン・ユースが、デトミノの攻撃の報告を受けたのは深夜であった。
ユースワルドの城は、もともと対魔人用に作られたので、デトミノとの国境近くに位置している。
それが裏目に出てしまい、デトミノ軍は特に苦もなく城下町にたどり着けたのだ。
奇襲。
もともと魔人の方向を見張るために、深夜にも常駐している兵たちがいる。
その兵たちを急いで呼び寄せて、なんとか彼らと戦わせた。
そして一般市民はすぐに避難させる。
常にこのような場合に備えて準備をしていたので、スムーズにことは進んだ。
ただ、ユースワルドの全員の兵を呼び寄せられたわけではない。
全力とは言い難い状態での戦いを強いられたと、ホライゾンは舌を打つ。
だが、もしユースワルドが全勢力を持ってして彼らと戦っていても、きっとデトミノには勝てなかっただろう。
それほどまでに強大だった。
デトミノ軍、認識できるだけでも2、3万の兵。
明らかにこちらを滅ぼしにきている。
そしてこちらの兵は五千程。
だがどれも英雄ユースに憧れて兵となった、志も実力も高いものたちばかりだ。
そしてこちらは籠城している。
なんとか耐え切っている間に他の国に救援要請を送ろう。
一番頼りになるのはヨルデモンド、悪魔の国が動くなら天使たちも動いてくれるかもしれない。
まだまだ光明はある。
そう思っていたのも束の間。
戦争は始まった。
城の上から巨大な石や魔法を打ちまくる。
だが、それもあまり効いていないようだ。
「天使や悪魔の国の民の強さは、その天使悪魔への信仰力に比例する、か。敵に回すと厄介な。」
ホライゾンは現状を把握し、また舌打ちする。
「なんとでも耐え凌げ!!救援が来るまで!それまでは…。」
「国王様!!!!奴らが城の中に!!!」
「なんだと!?」
もう城の中に入られたか!?
まだ籠城戦を初めて一時間ほどしか経っていない。
兵たちはどうした!?
「城の前で構えていた兵は全員殺されています!!ここは危険です!!早くお逃げを!!」
「クソ!!どうすれば…。」
状況は悪くなるばかり。
デトミノは一般兵でもユースワルドの精鋭軍と相手できるのか!?
異常な強さだ。
そして、
「王よ!!お逃ぇ!…。」
「なんだなんだ!オレ様を置いていくなんて連れないだろうがよ!!」
兵の一人が胸から血を流して倒れている。
間違いない、刺されたのだ。
そして、下品に笑う声。
そしてこの不快なオーラ。
間違いなく魔人だ。
「き!貴様…!!」
「オレ様はデトミノ中央軍最高戦士、ゾムアス様だ!!ユースワルドの国王よ!!今貴様を終わらせてやろう!!」
自己紹介をするなりいきなり斬りかかるゾムアス。
それをなんとかみきり、ホライゾンは腰に携えた金属の棒で対抗する。
重い衝撃が伝わり、そのままホライゾンは吹っ飛んだ。
だが、ゾムアスからしてみればホライゾンが自分の攻撃を受け止めたこと自体が不思議で、
「ククク、やるな。そんな豚みたいな体型なのにな!」
「ふ…くっ…!ふっ、これでも英雄ユースの血を受け継いでいるのでな!」
「誰だそいつ?まあ天人のことなんかなに一つ知らんがな!」
ニヤリと凶悪に笑うと、ゾムアスは刀をくるくる回す。
「さあ、どの部位を切って欲しいか言えよ。首は痛くないぞ。」
「貴様の首を切って欲しいものじゃな。」
「ハッ!!じゃあ精一杯痛いところを切ってやるよ。」
「なめるでない。ワシはそこらの腰抜けではないわ!」
金属棒を右手に、ホライゾンは精神を統一させる。
実力差は明確。
だが、ここで退くのであれば英雄国の名が廃る。
そんなホライゾンの決意は。
「じゃ…」
「ゾムアス様!!東軍から伝達が!!」
「んだと?」
ゾムアスが手下を睨むが、そんなことはお構いなしに手下は続けた。
「東軍最高戦士アマンチア様から、撤退の命令が!」
「はあ?今押せばこの城落とせるんだぞ!?」
「ですが、どうやらクロノオ方面での工作が失敗したので、念のため、と。」
「クロノオ側は気になるが、なんでそれで撤退しなきゃなんないんだよ!」
「アマンチア様は、もしもの時に備えて、だと。」
「ふざけんな!あいつはいつもそうなんだよ!」
地団太を踏むゾムアス。
そして、
「撤退だ!クソ!あいつが一応この場での司令官だ。従うしかない!」
「了解です!」
「おいユースなんとかの国王サン!必ずお前と再戦する。首を洗ってまってろ!」
そういうとゾムアスは紫色の魔法陣を発生させ、その魔法陣の中に消えてしまった。
消えた。
だが、その事実よりもホライゾンは息をはあと吐き、
「命拾い、…したな。」
ホライゾンは周りを見渡してみる。
城は激戦の故所々が倒壊している。
そして床には、沢山の精鋭たちの死体が転がっていた。
五千の兵のうち、殆どが死亡。
避難した人たちは、どうやら見つからずに済んだようだ。
「く、く、く、クソ!やられた!」
悔しさがこみ上げる。
ユースワルドはこの日、初めて滅亡一歩手前まで追い詰められたのだ。