三章 一話 現状把握
三章始まります。
ドアからノックの音が聞こえてきた。
このノックの音で、俺は誰が叩いているのか判別できるほどにまでなってきた。
「アカマルか。いいぞ。」
「失礼します。」
そこには、志願兵訓練を終えて少しぐったりしているアカマルがいた。
まあ彼はいつもこんな感じだ。
威厳を出すのに神経を使っている感じだ。
俺もその点に関しては共感できるぞ。
だが、そのようなことを言うとアカマルは「いやいや、その怖さは素でしょう?(笑)」みたいなことを言うのだ。
全く理解できない。
そんなことはおいといて、今回は少しアカマルと重要な会議がある。
密談というほど怪しくはないが、国の最重要項目の一つであることについて話あうのだ。
「では、これが軍部総出でまとめた資料です。」
「ご苦労。」
アカマルから束の紙を受け取り、それをペラペラめくる。
そこに書かれているのは、クロノオが最も秘匿しなければならない情報、つまり兵力が書かれている。
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クロノオの現在動員可能兵力
志願兵3500(歩兵2000騎馬500魔道1000)
徴兵可能兵30000(歩兵26000騎馬4000)
…
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とまあ色々書かれているが、とりあえず大事なのは最初のところだけだ。
「徴兵可能兵の数の増加は?」
「合併したファントムエレメントシネマルーンの二十歳以上四十歳以下の男性の数です。」
「なるほど、で、この中から志願兵になりたい者はいるか。」
「ええ、次のページに。」
パラっとめくってみる。
ふむふむ、どうやら30000の男性の内10000人ほどが志願しているらしい。
ん?
一万?
いやいや、多すぎでしょうが。
「おい。アカマル。」
「は、はい。」
「1万人もいる理由はなんだ?」
「あ、いえ。」
アカマルは少したじろぐと、咳払いをして、
「それは、今までファントムで騎馬隊として働いてきた者たちや、今回の戦争で貧しくなってしまった者、そしてエレメント時代には埋もれていた、腕に覚えのある奴らを集計した結果です。」
「ほう。」
まあ、それじゃあ納得だな。
ファントムの騎馬隊は、それ自体を職業としてファントムに従事していたので、ファントムが滅んだ今、仕事はクロノオ志願兵くらいしかないわけだ。
なので徴兵可能兵の騎馬4000が丸々こっちに流れてきたのね。
そして、今回の戦争で貧しくなってしまった者、ファントムやシネマルーンに多いだろうか。
農作業をしながら戦争で稼いだ人達。
戦争に負けてしまったら稼ぎはもちろんゼロだ。
そしてクロノオ軍が、ファントムへの進軍途中に陥落させた村たちの人々は、住処すらないのかもしれない。
ファントム進軍途中の村には出来るだけ降伏勧告をする様にしたのだが、アカマルによるとペレストレインの命令で徹底抗戦しなければならなかった村もあるらしい。
その時は被害を最小限にして村を陥落させるよう指示した。
そして、その被害として農作物を掘り起こしたり家を壊したりしたらしいので、そこに住んでいる人々は困っているらしい。
そして、唯一すぐに金を稼げるのが志願兵となるわけだ。
マッチポンプ感が否めない。
…彼らには出来るだけ長い間志願兵として残ってもらいたいものだ。
そして、エレメントにいる腕の立つ者。
彼らは武力をあまり好まないエレメントという国に生まれてしまったからこそ、あまりエレメントで頭角をあらわせずにいた。
傭兵になれば戦えるのだが、やはり家の事情や色々あるのだろう。
不満を持ちながら農作業をしたり鉱山を掘り起こしてたりしていたらしい。
そして、そんな彼らを起用したわけだ。
合計1万名。
併せて一万三千名。
そして、
「捕虜となっているエレメントの魔法使いや「師」と呼ばれる人々、そしてエレメント城に残っている魔法使いたちも、使えるかもしれません。」
「そうだな。」
今捉えているエレメントの魔法使いたち。
エレメントと平原で戦った時に、ザンが見捨てた魔法使い三千名ほどだ。
それを出来るだけ多く捕らえている。
「彼らはとりあえずクリスには従うだろうから、手放しても反抗してくる可能性は低いだろう。」
「ですが、うまく志願兵にさせたいところですね。」
「そうだな。最悪クリスに説得させればいけると思うけど、エレメント地域の反感を買う可能性が高い。」
今、クリスはエレメント地域の知事のような役割を果たしている。
だが、ここで一つ問題なのが、クリスよりもクロノオ国王や俺が上の立場という構図が出来上がってしまっているのだ。
これに不満を覚えるエレメント民も多い。
だから、エレメント民にはそこの立場関係はごまかしている。
だから、あまり無闇にクリスに命じるなんてことをしたら、その誤魔化しが効かなくなるのだ。
「…はあ。まあ彼らは非常時に手を貸してもらうくらいで精一杯かもな。」
「そうでしょうね。ですが軍部でもユーバに命じて出来るだけ説得をしてもらう感じで行きましょう。」
「ああ、…とりあえずエレメントの捕虜は解放する方針で行くか。」
彼らがイルマーみたいな馬鹿ではないといいが。
こんなもんか。
色々確認を終えて、俺たちは一服しようと席を立つ、が
「…?おい、アカマルどうした。さっさと飯食いに行くぞ。」
「え?飯?飯ってご飯のことですよね。」
何を言い出すのだろうか。
飯、メシ、めし
明らかにご飯しかありえない。
「当たり前だろ。」
「え、でも今日はドルトバの飲んできて…。」
ん?
ドルトバと飲んでいた?
もしかして、ぐったりした様子でこの部屋に入ってきたのもまさか!?
「おいおい。アカマルくん。ちょっと待とうか。」
「な、何がで…………あ、!」
自分の失言に気づき、慌てて口を塞ぐアカマル。
だが、もう遅い。
あとで真面目なユーザリアくんに、アカマルがいつから飲みに行ったのか教えてもらおう。
勤務中に飲みに行くとは。
…まあ、最近は皆色々忙しくて疲れているし、別に仕事が終わったなら飲んでもいいんだけどさ。
せめて俺に言おうぜ。
だって、俺も飲めるかもしれないじゃん。
「いや、そもヒムラ様!これはですね、全部ドルトバが悪くて…。」
「よしじゃあドルトバも呼んでこい。」
今日も平和な軍部なのでした。
前回と前々回と、黒幕は結局デトミノに行き着いた。
つまり、クロノオを滅ぼそうと仕向けたのはデトミノだ。
なにが、どうなってデトミノはクロノオにちょっかいをかけたのか。
それはわからない。
だが、デトミノの攻撃を受けていたのはクロノオだけではない。
クロノオからルーンを抜けて南西の方角。
そこにはかなり大きめの国家が存在していた。
英雄国ユースワルド。
そしてここが、二国目の被害国である。
やっと本格的に物語が展開していきますよ。
今回の章は敵を見つけて倒すだけではないのでお楽しみに。