15話 揺らめく蝋燭の中で
揺らめくのは、何本か設置された蝋燭だった。
全くの密室。
暗くて、深くて、黒い。
蝋燭がなければ自分自身すらも見失ってしまうほどに。
「オイ、どうするんだってイってんだよ。」
「ワタクシが全て潰して差し上げましょうか。」
「お前雑魚いじゃねーかよ」
三人の悪魔——比喩ではなく正確に——がそんな会話を交わす。
そんな言葉が今まで何回あったか。
数えるほどバカらしい益のない言葉に、『嫉妬の悪魔』はため息を吐く。
「そろそろ話を進めましょう。傲慢に強欲に、暴食。」
「おいシット。おマエがシキるバじゃねえだろう。」
「ですが、このままでは進みませんよ。来る天魔大戦まであと少しなのですから。」
「じゃあオレタチなんかより、もっとどうにかしなきゃいけないヤツラをどうにかしろよ。」
その『傲慢の悪魔』のもっともな発言に、言い返せず黙り込む。
暗すぎる部屋の光の当たらない場所には、一人の悪魔がずっと祈りを捧げている。
「アアアアアクラムボン様!!アタシは、光明の名の権能を胸の左の携え、貴方様のために…。」
何に祈っているのか、ずっと彼女はそんな感じだ。
ずっと何かに対して怒り、その救いをありもしないものに求める。
『憤怒の悪魔』
そして、
「殺す?殺すならいいぞお!ワッチに任せた!」
ずっと残酷なことしか考えていない少女。
救いようがないくらい汚れた瞳は純粋に光っているように見える。
『色欲の悪魔』
そして、席にはついているが目を閉じている。
『怠惰の悪魔』
まとまりがないこととはこのことだ。
『嫉妬の悪魔』はふうとため息をつくと、
そのまま手に強大な魔法陣を作り出した。
「オイ!シット!」
「ふん。愚かな。」
赤魔法。
それが発動される。
手には人の背丈ほどもある炎が。
揺らめき、色を変えていった。
そして、その炎の向き先は、祈りを捧げる『憤怒の悪魔』へ。
「いいでしょう。まとまりのないものには仲裁を。嫉妬の何かけてあなたに灸を据えるとします。」
「シット!そこまでやるか?」
「切れてんじゃねーよ!」
傲慢と暴食が止めにかかるがもう遅い。
そのまま炎は真っ直ぐに憤怒の方に向かっていく。
部屋が明るくなり、その光源はかなりのスピードで憤怒に向かっていく。
そして、憤怒はそのまま炎を直撃し、
そのまま炎は一瞬で焼失した。
そして、憤怒は何食わぬ顔でそこに立っていた。
一瞬だけ惚けた顔をして、彼女はすぐに顔を怒りに染める。
「…ア、ア、ア、ア、アタシの祈りを踏みにじるな!貴様に、貴様に、貴様にい!その権利が信頼が関係が信仰があると思っているのか?」
「ふむ、死なないのですね。図太いことだ。」
「ハ!アアアアアアタシは、貴様と格が違うのよ!」
「まあいい。とりあえず祈りなど後でにしなさい。」
「無理よ。アアアアアアタシの考えや思想を踏みにじって揉みくちゃにして殴り倒す権利があるとでも?」
全くもって人の話を聞こうとしない憤怒。
さらに攻撃を加えて鉄槌を下そうと魔法陣を生成する嫉妬だが、
「オイ!さすがにやめておけ。おマエはミサカイがないぞ。」
「…傲慢。…分かりました。あのウジ虫はおいときましょう。」
「今はキョウリョクすべきとこじゃねえのかよ。」
「ええ、一部を除いて協力すべきですね。ですから傲慢、あなたには協力しますよ。」
全く噛み合っているようで噛み合ってない嫉妬と傲慢の会話。
傲慢はチッと舌を鳴らすと、そのまま席に着く。
傲慢は悪魔のリーダー的存在だ。
それはただ強いからってだけではない。
一番良識があるからだ。
強欲は自信過剰すぎる。
暴食は何かに対して切れることしかできない。
怠惰はその名の通り怠惰すぎるし、色欲は残忍すぎる。
憤怒は悪魔のなかで一番扱いづらい。
嫉妬はまともそうに見えて一番大切な部分を失ってしまった。
一番良識を持っていてまともなのは必然的に傲慢だ。
だが、
「まア、おマエのキモちもスコしわかる。」
「でしょうね。あなたもボクと似たモノでしょうからね。」
「キモちわりいな。」
完全に異常に振り切った悪魔六人。
その悪魔たちと似たモノ同士だなんて、吐き気がする。
「で、ハナシをモドすぞ。」
「ええ、確かワタクシが天使全てを滅ぼす話でしたっけ?」
「違うっつってんだろうがよ。」
「そうですよ強欲。問題はクロノオとユースワルドのことです。」
そういうと三人は少し訝しむ。
「それはあなたの問題でしょう?嫉妬よ。」
「はい、ですがこれはボクだけの問題にはならない。クロノオの軍師は、悪魔の資格を有しています。」
「それは前聞いたっつってんだろ!」
「ええ、ですから、そろそろ時が来たのですよ。情報は手下に集めさせましたからね。」
「トキ?なんだそれは?」
首を傾げる三人に、得意げに嫉妬はいう。
「軍師ヒムラを悪魔に仕立て上げて、憤怒や怠惰あたりを悪魔の座からズリ落としましょう。」
悪夢は、この時から始まった。
さて、明日から三章始めます。
毎日投稿を目指していきます。
あと投稿時間についてなのですが、おそらく21:00くらいになります。
後ですね、all side story2話の最後の部分で一部修正しました。
2話を書いた時の勘違いを直した感じです。
では、お楽しみに。