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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
間章 all side story
142/161

12話 軍部いろいろ2

「ユーバ殿。お茶はいかがされますかね。」


「あーまあそこらへんに置いといてー。」


 城壁の上で座っていると、下からメカルが声をかけてくれる。

 彼の手には一杯のお茶があった。

 少し喉が渇いてきた頃なので、ユーバもちょうどそれを欲していた。

 

 だが、彼はすぐ飲もうとはしない。

 とりあえず目の前の仕事を終わらせてから一息つこうと思ったのだ。

 

 その仕事とは、


「うーんやっぱ魔法と合わせるのはキツそうだね。とりあえず俊敏性を高めて!」


「「「はい!」」」


 千人あまりの魔導隊の隊員が、ユーバの命令に従う。

 

 なぜユーバが魔導隊を指導しているのか。

 それは、本来この仕事をすべきテルルがいないからである。

 彼女は今日は欠勤なのだ。


 欠勤とはいっても、


「ヒムラ様と出かけてるとか。」


「…?テルル殿のお話でございますかな?」


「あーうんそうそう。」


 そういうとメカルは少し頬を緩める。


「それは、恋ですかな?」


「恋―?うーん多分違う。ただ気になっただけだよ。」


 ユーバは基本的に全く他人に興味がない。

 なので、気になる人がいるだけでもユーバにとって特別ことなのだ。

 

 だが、おそらくこれは恋なんていうものではない。

 どちらかというと、仲間意識だろうか。

 

 自分の感情について考察していると、魔導隊の一人が鈍い動きをする。


「そこ頑張って!あと少しだから!」


「は、…はい!」


 檄を飛ばすと、その隊員は辛そうに返事をする。

 

 ユーバは城壁をひとっ飛びで降りて、軽やかに着地する。

 そして、メカルの入れたお茶を指差し、


「このお茶って冷えてる?」


「冷えておりますとも。」


「じゃあ、さっきの疲れてる人にあげてくれる?」


「…ふっ。了解ですぞ。」


 そのユーバの気配りにメカルはまた頬を緩める。

 

 若造も成長しているのだと感じて。




 そして、クロノオ郊外。

 ある一つの村に、俺とテルルは来ていた。

 

 テルルの過去のしがらみを終わらせるために。

 それをテルルが望んだのだ。


 じゃあなんで俺がついてきているのかって?


「だってヒムラがいなきゃ軍部にいるって信じてもらえないじゃん。」


 確かにそれもそうか。

 なので、ちょうど暇な日に俺とテルルは休みをとって、こうしてテルルの生まれ故郷に赴いている。

 なんか家庭訪問みたいだ。

 問題児の家を訪問するというあれは、俺も前世で経験した。


 まあ、テルルのためになるようにうまく立ち振る舞うしかないな。

 俺は余計なことを言ってはいけない。

 これは三、四年顔を合わせてなかった親子の再開なのだから。


 村に入った。

 

 至って普通の村だ。

 子供は遊び、大人は農作物を必死に育てている。

 特に栄えているわけでも、逆に廃れているわけでもない。


 俺があたりを見回していると、テルルが俺の裾を引っ張り、


「早くいきましょう。御忍びで言ってるのよ、」


「確かにそうだな。」


 俺たちがこの村に行くという事実は、秘匿されている。

 軍部の皆にも、この村の人たちにも何も伝えていない。


 全てテルルが望んだことだ。

 誰にも迷惑をかけず、自分の問題は終わらせたい。

 なのに、俺を連れて行く。

 それ一応俺にも迷惑かかってんだぞと言ってやりたくもなるが、いってもなんの益もないのでやめた。


 実際迷惑だとも思ってないしね。


 村を歩く。

 村の皆が俺たちを誰かと見つめてくる。

 ちなみに俺たちはフードをかぶっているので、俺の顔を知っている人でも俺が軍師ヒムラだとはわからないだろう。


 そんな感じで進んだ村の一角。

 そこには周りより少しボロい家が一軒立っていた。

 その家の前で立ち止まるテルル。

 

「ここよ。」


「…そっか。じゃあ行くのか?」


「………ちょっと自信ない。」


 そりゃそうだ。

 決して良い別れ方をしたわけではない。

 そんな二人の再会が楽しみであるはずがない。


 緊張やその他もろもろ。

 負の感情が渦巻いているのだろう。

 俺は事情を詳しくはしらないが、それでもテルルの感じていることを少しは予想できる。

 

 テルルの額に汗が流れる。

 呼吸が荒くなり、膝をついてしまう。


「!大丈夫か?」


「はあ、…はあっ、大丈夫。」


「嫌なら無理しなくても…」


「そんなこと言わないで!!」


 怒鳴るテルル。

 それは俺に対して、そして自分に対しても怒っているようだった。

 顔を真っ赤に染めて、


「ここで諦めたら、きっと一生やり直すことはできないわ!わかってるのよ!逃げて逃げてこんなところまできた!でも、…もう一度過去に向き合わなくちゃいけなくて。それで、」


 テルルは少しだけ、俯く。

 眉を下げて、悲しそうに。


 今にも泣いてしまいそうだった。

 大粒の涙が目尻にたまり、でもこぼれない。

 それが彼女の決意を表しているようで、俺は今更ながら間違いに気がついた。


 彼女を諦めさせるような言葉。

 先程言ってしまった言葉は、決して言ってはいけない類のものだった。

 彼女の決意。

 それを捨てさせようとしていたのだろう。


 でも、それはテルル自身が許さない。

 ここで親に会う決意を捨ててしまったら、もう一生その決意を取り戻せないだろうから。

 今やらなきゃ、これから一生できない。


「今だけは本気で。私を応援して。無理しないでとか、そんなこと言わないで。ヒムラに応援してもらいたい。」


「わかった。」


 応援。

 この目の前の少女にぴったりの言葉を俺は知らない。

 わからない。

 親と決別し、それを復縁しようとしているテルル。

 そんな彼女にかける言葉を、俺は思いつかなかった。


 だから、


「…!」


「…。」


 テルルを思いっきり抱き寄せた。 

 彼女の方が背が高い、でも俺にとって腕の中にはまったテルルは小さく思えた。

 

 なんでこんなことをしたのか自分でもわからない。

 でも、テルルがすごく儚いものに思えたのだ。

 なくなってしまいそうで。


「俺はここにいるから、怖がることはないよ。」


「…、うん。」


 そう言って俺は彼女を解放する。

 テルルは少しだけ頬を赤らめて、でも満足したような顔で、


「じゃあ、行ってくる。」


「ああ、行ってこい。」


 そう言って彼女は玄関の前に立つ。

 微かな不安、恐怖、緊張、それらを思い浮かべて、でも少しだけ頬を緩める。

 そして、


 ノックを二回。


「はーい。今開けます。」


 くぐもった声が中から響き、扉が開けられる。


 そこには老人の女性が。

 手には洗濯物を持って立っていた。

 テルルを見て、一瞬不思議そうな表情を浮かべ、


「ママ。」


「……!」


 洗濯物が音を立てて地面に落ちた。


 


 


もう1話続きます

8/22が次回です。


あと、第3章の報告をいたします。

第三章は予定では9月1日から始まります。

50話構成(75になるかも)です。

戦争はおそらく2回ほど起こりますので、何卒よろしくお願いします。

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