8話 〜風と神速5〜「風と神速」
感想で度々指摘を受けましたが、序盤の主人公の性格が今の感じとかなり異なるので、少し修正をしようと思います。
おそらく3、4話を変更します。
物語の本筋には全く影響はないので、ご了承ください。
「僕っちを楽しませてよ。せいぜい戦いにはなるように。」
盗賊団アジトの一角。
大きな広場の中心には円が描かれている。
その円の中で、俺とスウェースは互いに向き合っていた。
互いに互いを睨みつけながら、いや、スウェースは楽しむように見つめていた。
「軍師さんが僕っちを楽しませてくれんなら。この盗賊団は畳んでもいいよ。」
「…発言の撤回はできないぞ。」
「いいよ。僕っちは生まれてから一度も嘘をついたことがないもん。」
そんなことを言いながら、自身の刀を振り回すスウェース。
その刀は、端的に言って仕舞えば異常に細かった。
刀身すらギリギリ見えるほどだ。
その鋭さは、想像するまでもない。
レイピアということすら憚られる、正真正銘の細剣だ。
もし突き刺されたら、たやすく深い傷となってしまうだろう。
それを少し想像し、思わず顔をしかめる。
この世界に来て、出血をしたことはほとんどない。
だからだろうか、出血することを極端に怖がっている気がする。
これではダメだ。
あの細い剣にびびってはいけないのだ。
俺は自分に喝を入れ直すと、自分の懐からも剣を抜く。
日本刀、この世界では珍しいという形だ。
そこに魔力を込めると、言いようのない漆黒のオーラが周囲に立ち込める。
こちらも戦闘態勢に入ったということを示したわけだ。
軍部の皆が俺を不安そうに見つめている。
盗賊団の奴らのほとんどは気楽そうに戦いを見守っている。
もしスウェースが負けたら、彼らは盗賊稼業をやめなければならないというのに、随分と余裕そうだ。
もしかしたら、スウェースが負けるとは毛頭思っていないのかもしれない。
だが、勝利条件は俺がスウェースに勝つことではなく、スウェースを楽しませることができるかだ。
スウェースが少しでも俺たちに興味を持ったら俺たちの勝ちなのだ。
もしかしたらその部分を彼らは知らされていないのかもしれない。
まあいい、とりあえずこの盗賊団をなんとかするためには、この勝負でしっかりこちらが「勝利」しなければならない。
そこに全力を注ぐべきだ。
俺の刀から溢れ出るオーラを見て、スウェースは少し驚いたようなそぶりを見せる。
眉を少し上げて、まるで意外なものを見たように。
そして、程なくして彼はにやりと笑う。
「そうか、軍師さんのもヨルデモンド産か…。」
「…?なんか言ったか?」
「なんでもないよ。早く始めよう。」
そう言ってスウェースは円の外に立つレイを見る。
彼女はそれに首肯し、
「わかりました。では、」
静寂が訪れる。
皆がこの戦いの結果を見届けようと、息を飲む。
そして、
「初め!!」
直後、俺の正面からいいしれぬ突風が吹き荒れた。
風が吹き荒れ、その源を見るとそこにはやはりスウェースがいた。
彼の周りからものすごい風が吹き荒れる。
それは荒れた風というよりかは、真っ直ぐ伸びやかに流れる風というべきだ。
だが、その強さは生やさしいものではない。
これが、「風の剣士」と言われる所以。
奴から溢れ出る何かがその二つ名を浮き彫りにさせた。
「じゃあ、行くよ!」
「こい!!」
その掛け声と同時に、スウェースは一瞬で消える。
どこに向かったのか。
正面を見て、右を見て、左を見て、
「上か!!」
見上げると、人の跳躍力を超えた高さにスウェースが飛び上がっている。
彼は空中で細剣を独自のポーズで構える。
そしてそのまま、
「はああああ!!!」
勢いをつけながら俺に向かってそれを突き刺さんとする。
その細剣は目を凝らしても見えない。
それほどまでの鋭利な刀を向けられ、
「「次元一閃」!!」
惜しみなく切り札を切った。
『神速の加護』を加減を調節しながら使用し、そのまま魔力を込めた俺の剣は刀身から漆黒のオーラを出す。
そのオーラが波動となり、スウェースを切り裂かんとする。
速さはかなりのもの、一般の人では認知することすらできない。
だが、それを見たスウェースは、一瞬の判断の後攻撃をやめて地面に着地する。
もちろんその「次元一閃」は空中で消散した。
「…へえ、そんな技は見たことがないな。」
「俺が作ったんだ。当たり前だろ。」
スウェースがやはりこちらを好奇の目で見つめる。
見ると、彼の腕が少しえぐられて血を流していた。
明らかに先ほどの俺の攻撃を受けたからだ。
「こんな傷は何年ぶりかな。いや、何十年ぶりかな。」
「楽しめたか?」
そういうとスウェースはにっこり笑い、
「そこそこ。でもまだまだだよ。」
そういうとスウェースの体からまた突風が吹く。
先ほどよりもかなり強い。
なんとか目をつぶらないように耐えながら、
「じゃあ。この攻撃を受けれたら認めてあげるよ。」
「…くっ、くるならこい!!」
「じゃあ遠慮なく。命の保証はしないからね!」
そういうとスウェースはまた細剣を構える。
そして、その瞬間。
風の向きが変わった。
真っ直ぐの風から、それがどんどん円を描いていく。
俺を中心として渦ができる。
俺自身はあまり風を感じない。
台風の目にいる気分だ。
風はさらに巻き上がり、上昇を始める。
そして、
「「球状乱舞」!!!」
風に音をかき消されながらも、聞こえた声はスウェースの声。
それが何かを解釈する暇もなく、そのままスウェースがこちらに突進してくる。
直後、風がさらに巻き上がる。
あまりの強さに俺の足が宙から離れようとしている。
ヤバイ。
地に足がついていない状態で攻撃は受けたくない。
だが、
「うああああ!!」
風が足を掬い取り、果てには宙に浮かび上がってします。
それを見届けたスウェースはそのまま先ほどまで俺が立っていた場所に潜り込み、そのまま彼も上昇を始める。
今俺は宙に浮いている。
そしてスウェースも俺の下から上昇している。
つまり、下から突き刺される可能性があり、
「「空気固定」!!!」
そうなる前に俺は上にある空気を足場にかえ、そこに足をつけることで態勢を変える。
ちょうど下から上昇してくるスウェースと向かい合う形だ。
「いいね!楽しませてよ!!」
下から向かってくるスウェースが、細剣を構えて高速でこちらに向かってくる。
だが、俺にとっては遅いとさえ言える速度だ。
日々自分の加護に鍛えられているのだ。
風でスピードをつけたからって言って、俺の「思考加速」は破れない。
剣が交錯する。
俺の振る剣はスウェースの細剣をしならせるだけだ。
だがそれによってスウェースの剣は一切俺に当たっていない。
「「火力弾」!!!」
「魔法も!?」
下に向かって魔法を打ち、少しでもこちらを優勢に持ち込む。
スウェースはその攻撃に戸惑っているようだ。
だが、魔法は彼の細剣のひとつきの前にはチリでしかない。
すぐに魔法は消されて、せいぜい時間稼ぎにしかならない。
風はどんどん強くなる。
上むきに風がどんどん吹き荒れる。
酔いそうな、吐きそうな感覚に襲われ、思わず意識を持っていかれそうになる。
だが、歯を食いしばりそれに耐える。
ここでこいつの攻撃に耐えなければならない。
その一心で。
風はどんどん俺たちを巻き上げ、もうすぐで竜巻の外に出る。
それを察したスウェースは、
「じゃあ、これで最後だ!」
そうこえを上げる。
直後、彼自身から最大規模の風が吹いた。
コントロール無視、純粋に俺を上に打ち上げるための風。
それを俺は真正面から受け、そのまま空中に飛ばされる。
風のない、空中。
そこで宙ぶらりんとなった俺は、敵にとって格好の餌だ。
スウェースはそのまま竜巻を抜けて、ただ一突き。
純粋なその攻撃は、
「があああ!!!」
「…!!!なんだと!」
俺は剣を投げ捨てる。
そのまま、空になった手で細剣を掴む。
手が摩擦で擦れた。
悲鳴を上げる。
神経の全てが焼けるような電気信号を発した。
熱い!熱い!
でも、その手は決して話そうとはしなかった。
掴んで、掴んで、掴んで、擦れて。
「ふっ、君はやはり見込んだ通りだ。」
スウェースがそう呟いた。
それと同時に、手の痛みが不意になくなる。
風も消える、耳障りも消える。
そして、
二人でもつれながら、地面に落ちた。
次回は8/9です。