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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
間章 all side story
138/161

8話 〜風と神速5〜「風と神速」

感想で度々指摘を受けましたが、序盤の主人公の性格が今の感じとかなり異なるので、少し修正をしようと思います。

おそらく3、4話を変更します。

物語の本筋には全く影響はないので、ご了承ください。

「僕っちを楽しませてよ。せいぜい戦いにはなるように。」


 盗賊団アジトの一角。

 大きな広場の中心には円が描かれている。


 その円の中で、俺とスウェースは互いに向き合っていた。

 互いに互いを睨みつけながら、いや、スウェースは楽しむように見つめていた。

 

「軍師さんが僕っちを楽しませてくれんなら。この盗賊団は畳んでもいいよ。」


「…発言の撤回はできないぞ。」


「いいよ。僕っちは生まれてから一度も嘘をついたことがないもん。」


 そんなことを言いながら、自身の刀を振り回すスウェース。

 その刀は、端的に言って仕舞えば異常に細かった。

 刀身すらギリギリ見えるほどだ。

 その鋭さは、想像するまでもない。


 レイピアということすら憚られる、正真正銘の細剣だ。

 もし突き刺されたら、たやすく深い傷となってしまうだろう。

 

 それを少し想像し、思わず顔をしかめる。

 この世界に来て、出血をしたことはほとんどない。

 だからだろうか、出血することを極端に怖がっている気がする。


 これではダメだ。

 あの細い剣にびびってはいけないのだ。


 俺は自分に喝を入れ直すと、自分の懐からも剣を抜く。

 日本刀、この世界では珍しいという形だ。

 そこに魔力を込めると、言いようのない漆黒のオーラが周囲に立ち込める。

 こちらも戦闘態勢に入ったということを示したわけだ。


 軍部の皆が俺を不安そうに見つめている。

 盗賊団の奴らのほとんどは気楽そうに戦いを見守っている。

 もしスウェースが負けたら、彼らは盗賊稼業をやめなければならないというのに、随分と余裕そうだ。

 もしかしたら、スウェースが負けるとは毛頭思っていないのかもしれない。


 だが、勝利条件は俺がスウェースに勝つことではなく、スウェースを楽しませることができるかだ。

 スウェースが少しでも俺たちに興味を持ったら俺たちの勝ちなのだ。

 もしかしたらその部分を彼らは知らされていないのかもしれない。


 まあいい、とりあえずこの盗賊団をなんとかするためには、この勝負でしっかりこちらが「勝利」しなければならない。

 そこに全力を注ぐべきだ。


 俺の刀から溢れ出るオーラを見て、スウェースは少し驚いたようなそぶりを見せる。

 眉を少し上げて、まるで意外なものを見たように。

 そして、程なくして彼はにやりと笑う。


「そうか、軍師さんのもヨルデモンド産か…。」


「…?なんか言ったか?」


「なんでもないよ。早く始めよう。」


 そう言ってスウェースは円の外に立つレイを見る。

 彼女はそれに首肯し、


「わかりました。では、」


 静寂が訪れる。

 皆がこの戦いの結果を見届けようと、息を飲む。

 そして、


「初め!!」


 直後、俺の正面からいいしれぬ突風が吹き荒れた。




 風が吹き荒れ、その源を見るとそこにはやはりスウェースがいた。

 彼の周りからものすごい風が吹き荒れる。

 それは荒れた風というよりかは、真っ直ぐ伸びやかに流れる風というべきだ。

 だが、その強さは生やさしいものではない。


 これが、「風の剣士」と言われる所以。

 奴から溢れ出る何かがその二つ名を浮き彫りにさせた。


「じゃあ、行くよ!」


「こい!!」


 その掛け声と同時に、スウェースは一瞬で消える。

 どこに向かったのか。

 正面を見て、右を見て、左を見て、


「上か!!」


 見上げると、人の跳躍力を超えた高さにスウェースが飛び上がっている。

 彼は空中で細剣を独自のポーズで構える。

 そしてそのまま、


「はああああ!!!」


 勢いをつけながら俺に向かってそれを突き刺さんとする。

 その細剣は目を凝らしても見えない。

 それほどまでの鋭利な刀を向けられ、


「「次元一閃(ディメンションカット)」!!」


 惜しみなく切り札を切った。

 『神速の加護(ゴットアクセル)』を加減を調節しながら使用し、そのまま魔力を込めた俺の剣は刀身から漆黒のオーラを出す。

 そのオーラが波動となり、スウェースを切り裂かんとする。

 速さはかなりのもの、一般の人では認知することすらできない。

 

 だが、それを見たスウェースは、一瞬の判断の後攻撃をやめて地面に着地する。

 もちろんその「次元一閃(ディメンションカット)」は空中で消散した。


「…へえ、そんな技は見たことがないな。」


「俺が作ったんだ。当たり前だろ。」


 スウェースがやはりこちらを好奇の目で見つめる。

 見ると、彼の腕が少しえぐられて血を流していた。

 明らかに先ほどの俺の攻撃を受けたからだ。

 

「こんな傷は何年ぶりかな。いや、何十年ぶりかな。」


「楽しめたか?」


 そういうとスウェースはにっこり笑い、


「そこそこ。でもまだまだだよ。」


 そういうとスウェースの体からまた突風が吹く。

 先ほどよりもかなり強い。

 なんとか目をつぶらないように耐えながら、


「じゃあ。この攻撃を受けれたら認めてあげるよ。」


「…くっ、くるならこい!!」


「じゃあ遠慮なく。命の保証はしないからね!」


 そういうとスウェースはまた細剣を構える。

 そして、その瞬間。

 風の向きが変わった。

 

 真っ直ぐの風から、それがどんどん円を描いていく。

 俺を中心として渦ができる。

 俺自身はあまり風を感じない。

 

 台風の目にいる気分だ。

 風はさらに巻き上がり、上昇を始める。

 そして、


「「球状乱舞(ドームダンス)」!!!」


 風に音をかき消されながらも、聞こえた声はスウェースの声。

 それが何かを解釈する暇もなく、そのままスウェースがこちらに突進してくる。

 

 直後、風がさらに巻き上がる。

 あまりの強さに俺の足が宙から離れようとしている。

 

 ヤバイ。

 地に足がついていない状態で攻撃は受けたくない。

 だが、


「うああああ!!」


 風が足を掬い取り、果てには宙に浮かび上がってします。

 それを見届けたスウェースはそのまま先ほどまで俺が立っていた場所に潜り込み、そのまま彼も上昇を始める。

 

 今俺は宙に浮いている。

 そしてスウェースも俺の下から上昇している。

 つまり、下から突き刺される可能性があり、


「「空気固定(AirHarden)」!!!」


 そうなる前に俺は上にある空気を足場にかえ、そこに足をつけることで態勢を変える。

 ちょうど下から上昇してくるスウェースと向かい合う形だ。


「いいね!楽しませてよ!!」


 下から向かってくるスウェースが、細剣を構えて高速でこちらに向かってくる。

 だが、俺にとっては遅いとさえ言える速度だ。

 日々自分の加護に鍛えられているのだ。

 風でスピードをつけたからって言って、俺の「思考加速」は破れない。


 剣が交錯する。

 俺の振る剣はスウェースの細剣をしならせるだけだ。

 だがそれによってスウェースの剣は一切俺に当たっていない。

 

「「火力弾(FireBall)」!!!」


「魔法も!?」


 下に向かって魔法を打ち、少しでもこちらを優勢に持ち込む。

 スウェースはその攻撃に戸惑っているようだ。

 

 だが、魔法は彼の細剣のひとつきの前にはチリでしかない。

 すぐに魔法は消されて、せいぜい時間稼ぎにしかならない。


 風はどんどん強くなる。

 上むきに風がどんどん吹き荒れる。

 

 酔いそうな、吐きそうな感覚に襲われ、思わず意識を持っていかれそうになる。

 だが、歯を食いしばりそれに耐える。

 ここでこいつの攻撃に耐えなければならない。

 その一心で。


 風はどんどん俺たちを巻き上げ、もうすぐで竜巻の外に出る。

 それを察したスウェースは、


「じゃあ、これで最後だ!」


 そうこえを上げる。

 直後、彼自身から最大規模の風が吹いた。

 コントロール無視、純粋に俺を上に打ち上げるための風。

 それを俺は真正面から受け、そのまま空中に飛ばされる。


 風のない、空中。

 そこで宙ぶらりんとなった俺は、敵にとって格好の餌だ。

 

 スウェースはそのまま竜巻を抜けて、ただ一突き。

 純粋なその攻撃は、


「があああ!!!」


「…!!!なんだと!」


 俺は剣を投げ捨てる。

 そのまま、空になった手で細剣を掴む。

 手が摩擦で擦れた。


 悲鳴を上げる。

 神経の全てが焼けるような電気信号を発した。

 熱い!熱い!

 

 でも、その手は決して話そうとはしなかった。

 掴んで、掴んで、掴んで、擦れて。


「ふっ、君はやはり見込んだ通りだ。」


 スウェースがそう呟いた。

 それと同時に、手の痛みが不意になくなる。

 風も消える、耳障りも消える。

 そして、


 二人でもつれながら、地面に落ちた。

 


次回は8/9です。

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