7話 〜風と神速4〜「アジト」
白で統一された服。
肌の色も白っぽい。
だからこそなのだろか。
その揺れる緑の髪が一層目立って見えた。
「…お前は…。」
「ああ、それって僕っちのこと?」
飄々とした様子で答えるソイツ。
だが俺は彼から感じ取っていた。
隙のない強者の風格に。
間違いなくこいつは強い。
俺はソイツに向かって剣を引き抜こうとして、
「ちょっと待った待った!僕っち今日戦う気ないからさあ。できれば戦いたくないんだけど、…」
掌をこちらに向けながらブンブンと首を振る。
妙な男だ。
ここまで強者の風格を出しておいて、行動は雑魚そのものだ。
もしかしたらこいつは意外と弱いんじゃないか?
ならあまり警戒する必要はないかもしれない。
俺は一旦剣を腰に戻す。
それを見るとソイツはほっとしたように胸を撫で下ろし、
「んとじゃー、とりあえず話をしよう。僕たちっち、頭のいい生き物でしょ。」
「僕たちっちって…」
テルルが冷めた目でこの男を見る。
確かに、どこか鼻につく男だ。
テルルが不快感を示すのもわかる。
ソイツはこちらに未だ短剣を向けている半裸の男たちに向かって、
「じゃあ、そゆことだからアジトにこの人たち案内してね。」
「ですが頭…。」
「大丈夫。僕っちが誰かに負けたことある?」
そう言ってソイツは得意げに笑う。
つまり、この半裸の男たちのボスがこいつか。
それに今アジトと言ったか?
それは俺らが探していた盗賊団のものなのだろうか。
そんな疑問が、次にソイツが発した言葉で確信に変わった。
「ああそういえば自己紹介してなかったね。聞かれてたのにごめんごめん。」
そう言うとその緑の髪をかきあげて、
「———僕っちはスウェース。「風の剣士」なんて呼ばれてるけど、そんな警戒しなくても大丈夫だよ。」
ソイツ———スウェースの部下たちに案内されて、彼らのアジトまで案内された。
と言うか、あのテントはアジトではなかったらしい。
つまりあのテントはコケ脅し。
警報を鳴らして誰かが来たことを仲間に知らせるためのもの。
意外と考えられているな、と思った。
本当のアジトはそのテントのもっと先にあった。
さらに奥の小道を抜け、洞窟のようなところから地下に潜り、そこからさらに進んだところにアジトはあった。
洞窟の最奥には大きな広場があり、そこにはいくつかの机が置かれていた。
そしてそこに座る何人かの人物は、皆安酒を飲んで酔いまくっていた。
明らかに無法地帯。
汚物がいろいろなところに散乱している。
なるほどこれがアジト。
明らかに良いことをするような集団のアジトではない。
盗賊団のアジトと言われればしっくり来る。
それにスウェースが、「風の剣士」がこのアジトのトップだとしたら、もうほとんど決まりだ。
ここは俺たちが相手しなければならない盗賊団のアジト。
自然と緊張が高まる。
ここで平和的な解決ができれば良いが。
そう思ってスウェースを見ると、やはり彼は飄々とした感じだ。
意外と口車に乗せれば交渉はできるんじゃないか?
いやいや、と俺は一人その考えを否定する。
先ほどのテントのトラップを見るに、油断ならない人物であることは確かだ。
それに先ほど気がついたことなのだが、こいつはわざと自分を弱く見せている。
俺たちが襲いかかってこないように、うまく交渉に持ち込むために。
なかなか頭の切れるやつだ。
「じゃあ、ここらへんでいいかい。クロノオ軍師さん。」
「ああ。」
そう言ってスウェースが指差したテーブルは、他のよりかは幾分か綺麗だった。
まあ、相手がこちらを軽く扱ってはいないと言うことだ。
俺たち五人(ロイレイは影の中)はそれぞれ腰掛ける。
そして対面にはスウェース一人が座った。
彼はこちらを見ながら終始ニコニコしている。
なんだと言うのか。
まあいい。
交渉の基本は相手のペースに惑わされないようにだ。
意思を強く持て、黒澤飛村。
自分を叱咤し、俺はスウェースをみた。
「…じゃあ、始めよっか。なんでこんな辺鄙なところに軍師さんが来てんのかってことよまず聞きたいのは。」
スウェースは不意につまらなそうにこちらから目線を外すと、ぶっきらぼうにそう聞いてくる。
なんかいきなり態度が変わったな。
なんと言うか、扱いづらい。
「なんでも何も。この団の調査に来ただけだ。その上でスウェース殿と話がしたい。」
間違ったことを俺は言ってない。
だが本当のことを言ったわけではない。
だって俺たちの本当の目的はこの暫定盗賊団の排除なのだ。
だが、それを最初に述べて仕舞えばすぐに交渉のテーブルをひっくり返されると思ったのだ。
よって、そのことは最初に言わない。
だが、俺のその考えも、
「…殿なんてつけなくていいよ。それに本当の目的は違うでしょ?僕たちっちが人様に迷惑かけてるのは知ってるから。」
「なら…!」
「やーだね。俺たちっちにはこんなことしかやることがないのさ。」
真意を見破られ、その上で交渉に応じる気はないと言う。
これはかなり厳しい戦いになるだろうな。
武力衝突の可能性がかなり高まった。
「…だがクロノオとしてもそれは困る。最悪武力衝突になるぞ。たかが盗賊団が国家相手に勝てるとでも?」
「なめて貰っちゃ困る。こっちのは僕っちがいるんだよ?その意味わかってる?」
お互いに威圧をかけながら交渉を進める。
だが、このままでは拉致が開かない。
お互いの強さを披瀝し合い、この場で今小競り合いを起こしてしまう可能性がある。
それはできるだけ避けたい。
とそこで、今まで黙って話を聞いていたアカマルが、
「少しいいですか。「風の剣士」様。」
「あ、えーっと将軍だっけ?なんだ?」
「なぜ「風の剣士」様が盗賊団の頭なんかをやっておいでなのでしょうか。」
そう問うアカマルは憧れの人物を見つめるようでもあり、それでいてどこか失望を抱えているようだった。
なぜ、英雄のような人物がこんな辺鄙なところの頭なんかやっているのか。
その問いに対してスウェースは目を閉じると、
「面白いから。」
「…は?」
「僕っちは面白いことに興味があるんだよ。好奇心ってやつ?それが大好物で、それである時盗賊団が楽しく思えてさ。自分で始めたってわけ。」
「そうなんですね!」
自分のしでかしたことを自慢げに語るスウェース。
アカマルよ、お前はこんなやつに同調してどうする。
まるで英雄を見るかのような目でスウェースを見つめる。
なぜ今の発言で彼を英雄視できるのか。
全くわからない。
だが、自分の好奇心のままに生きるって言うのは、確かに憧れかもしれない。
それが盗賊団に繋がったのなら話は別だが。
「もちろん人は殺したことはないし、貧しい人を狙ったりはしないよ。さすがにそこまでクズじゃないさ。」
弁明するようなスウェース。
そして一通り語り終えると、スウェースは指を一本立ててこう言う
「だからさ。もし盗賊団を辞めさせたいなら、僕っちの娯楽を用意してよ。」
そんなわがままなことを言ってくる。
娯楽を用意か。
こいつにどんな娯楽を用意すればいいのだろうか。
盗賊団に興味を持つ奴が興味を持つものなんて想像したくもない。
「例えばなんだ。」
「おっ、話を聞く気になったんだね。嬉しいな僕っち。」
そう言うとスウェースは一呼吸おいて、
「じゃあ、軍師さん。僕と勝負しようよ。」
次回は八月六日です