3話 天使会議〜天魔大戦話し合い〜
天使というのがいつ生まれたのか、どのようにして生まれたのか。
その他彼らに関する様々な情報が秘匿されている。
彼らが表舞台に出てくることは少ないからだ。
だが、百年に一度の天魔大戦では彼らが大活躍する。
天人の中でも最強の七人なのだ。
戦闘力においては最弱であっても全盛期のザガルやクラリスよりも強い。
当然天魔大戦では大きな戦力の一つとして数えられ、全天人から重宝される。
彼ら自身も天魔大戦には乗り気なので、その時は天人国家も天使国家も協力して魔人に対抗しようとするのだ。
そして、天魔大戦は近づいている。
最近天使会議が多いのは、そのせいなのかもしれない。
いや、それもあるが主な理由はもう一つある。
「まさかクロノオがかなり大きな国家として成長するとは…。」
「いいじゃん!さいこー!さいこー!」
ノクアシスの憂鬱なため息とは裏腹に、小柄な少女ハナビが楽しげに走り回る。
それははた迷惑な騒ぎであるが、それを咎めるものは一人もいない。
なぜならハナビは怒るとと手がつけられなくなるのだ。
主に戦闘力の面で。
ハナビに対抗するには、まず今いるノクアレン城が燃え尽きるのは覚悟しなければならない。
そして天使全員が総力を持ってハナビの怒りを沈めなければ、この天人の住う地域は焦土とかしてしまう。
ノクアシスや謙譲の天使テゥオシアがハナビを殺す気で対抗すれば、あるいは彼女の暴走は止められるかもしれない。
でも、なんだかんだ言って皆この自由な少女ハナビを愛おしく思っている。
だから殺すのが躊躇われるのだ。
もしハナビが怒りのままに魔人国家に飛び込んだら、とノクアシスは一人仮定してみる。
もしそうなったら、そうなったとしても、ハナビは何国か燃やし尽くしてからすぐに殺されてしまうだろう。
つまり、魔人側にはハナビを実力を超えるものがそれなりにいるということ。
代表的なものとしては、
「傲慢の悪魔、ですかね。奴は別格だ。」
忌むべき名前をあえて口にして、ノクアシスは顔をしかめる。
とりあえず、今はクロノオのことについてだ。
これからの天魔大戦を乗り越える上で、クロノオの存在は非常に重要になってくる。
クロノオの、軍師ヒムラの存在が。
「なあ、なんでクロノオをそんな重要視してるってんだよぉ。」
「なんだねコルガ。貴様に発言を許した覚えはないが?」
「はあ!?ノクアシスっ!少し強いからって調子のんじゃねえぞ!」
突然話しかけてくるのは背の低く目つきの悪い少年だった。
いや、見た目が少年なだけでこれでも三百年間生きてきた天使なのだ。
彼の名はコルガ、あるものは「節制の天使」なんて呼んだりする。
もっとも、そんな謙虚な二つ名に似合わぬほどぶっきらぼうな人物ではあるが。
ノクアシスのすげない対応にコルガがキレて、掴みかかってくる。
だが、
「ふっ。」
「グハアっ!」
ノクアシスが軽く捻り潰す。
二人の間には越えられない大きな力の壁がある。
それを自覚していないコルガは、ただの馬鹿というべきだろう。
「はあ、あんまり会議で揉め事を起こされても困るのだけど?」
「すみません、テゥオシア。ただの教育ですよ。」
ノクアシスは丁寧な口調に戻り、テゥオシアを見つめる。
テゥオシアとコルガ、二人の扱いが変わったものになってしまうのもある意味仕方のないことだ。
天使は基本的に力の強さでヒエラルキーが決まる。
これは決め事でもなんでもなくて、ただノクアシスや他の天使たちがそうあることを好んだのだ。
だから、弱小国家である天人国家に耳は貸さないし、天使最弱であるコルガには丁寧に接しない。
これは天使間では当たり前の摂理だ。
「なぜ私たちが軍師ヒムラを重視するのか、貴様には教える時が来たのかもしれませんね。」
「…っはあっ!いってーじゃねーかよ!…で、なんであの軍師にこだわるんだよ。あぁ?」
「それは、彼が要になるからです。」
喧嘩腰でこちらを睨みつけるコルガを、ノクアシスは冷たい敬語で答える。
それを聞いたテゥオシアはニヤリと笑い、黙っていたノムはいつも通り黙ったまま。
ハナビは首を傾げる反応をし、フォールンは何やら確率の計算をし始めた。
ちなみにメタルヴァイジャンはこの会議には参加していない。
そしてコルガは少し考えるように目を閉じ、
「0%。」
「はっ!確かにあの国はデトミノに近いしな。強欲が動くってんならあの国が狙われるだろうぜっ。」
フォールンが確率を言い当て、コルガの反応を見てニヤリと笑った。
対してコルガは、疑問が解けたかのようなすっきりとした笑みを浮かべる。
それを見たノクアシスはため息をつくと、
「…そうです。強欲対策にはクロノオとユースワルドの二国が要となります。そしてヒムラはクロノオの中でも最強の戦士です。…貴様よりもよっぽど。」
「ククク。言ってくれるじゃねえかノクアシス。」
コルガはノクアシスの煽りに対して不適に笑い、
「オレは「節制の天使」コルガ・レトニアだぜ!たかが天人に負けるわけがないだろう?」
「はあ、まあなんでもいいです。とりあえずあなたはここから去りなさい。」
コルガの言葉を軽くいなすノクアシス。
その言葉に不快な感情を顔に浮かべ、コルガは悔しそうに部屋を出ていく。
扉が閉まる。
それを見届けたノクアシスはため息をつくと、
「はあ、馬鹿の相手というものも疲れるのもですね。」
「あら、あなたくらいになってもそんなことに悩むのね。」
ノクアシスをテゥオシアが茶化す。
緑色の妖美な髪をかき上げ余裕そうに事態を静観していた。
そこで、今までうんうん悩んでいたハナビが、ノクアシスを不思議そうに見つめると、
「ねねー。なんでコルガの代わりにヒムラを用意したって言わなかったの?」
「ああ、先ほどの私の話ですね。」
先ほどノクアシスとコルガが話している時。
コルガが発した「なぜヒムラが必要なのか。」という質問の答えを、ノクアシスは正直に答えなかった。
なぜなら、その答えは「コルガの天使の座をヒムラに譲らせるため」だからだ。
それは、ヒムラ以外の六人の天使の間では周知の事実だった。
コルガだけが知らされていないのだ。
「そうですね。もしヒムラがコルガの天使の座を狙う可能性があるとコルガが知ったら、彼はクロノオを滅亡させてしまうでしょう。彼は天使の座に固執するでしょうから。」
「なるほどー。っつーことはクロノオがなくなっちゃったらアタシたちの計画はおさらばー!になっちゃうのかー。」
なるへそなるへそと騒ぐハナビ。
能天気でいいものだと、ノクアシスはまたしてもため息をつく。
最近考えなければいけないことが多すぎる。
まず大きな問題は天魔大戦をどのようにして生き残るか。
それに伴い天使国家だけでなく天人国家のパワーアップも図りたい。
そのためにはまず、
「二十年ぶりのヨルデモンドですか。ザガルとかいう王は元気にしているのでしょうか。」
ノクアシスは考える。
最善へ導く方法を。
そのためにはどんな駒でも用意する。
「ああでも、百年ぶりの高揚感ですね。楽しみです。ええ、非常に。」
楽しげに彼は笑うのだった。
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