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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
間章 all side story
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2話 レイの信じた世界

今回の間話はレイに関してです。

間にグロ表現挟んでいるので、そこは飛ばして読んでくれても大丈夫です。

 闇結社サザン。

 それがレイとロイ、そして二人の母親が所属していた闇組織だった。

 

 様々な国家を動きまわり、たくさんの権力者から汚い仕事を受けもつ。

 人殺しなんかが大半で、盗みや脅しの依頼なんかもある。

 それらを高額の報酬と引き換えに命をかけてすることが彼らの仕事だった。


「今日はどこどこの貴族が…。」


「屋敷への侵入経路が…。」


「ナイフは一番上等なものを…。」


 物騒な会話が様々なところから飛んでくるが、これがサザンのいつもの光景だった。

 地下にある酒屋の隠れ通路の最奥にある小汚い部屋で、十数名のメンバーが互いに顔を突き合わせて話し合いをする。

 

 意外とこのサザンに所属している人たちは多い。

 レイが知っているだけでも百人くらいだ。

 皆過去に何かしら闇を抱えた人だ。

 それは当たり前な話で、だいたいまともに生きていたらこんなところにこない。


 権力の暴力により社会的に死んだ人もいる。

 犯罪を何度も犯し、様々な国から指名手配を受けている人物もいる。

 借金を様々な人たちに担がされ、必死にそれを返している。

 そんな人たちでも、この場所では対等だった。


「ロイちゃんはとりあえず侵入まで手伝ってね。レイは出会った人たちを片っ端から殺して。」


「わかったわ。」

「了解しました。お母様。」


 母の命令にロイは不服そうに、レイは従順に従った。

 

 ロイは昔から母親に対して突き放した態度をとるのだ。

 そして母もロイのことはちゃん付けして呼ぶ。

 二人の間にある隔たりを、レイはなんとなく察していた。

 だが、レイは深く追求しない。


 何よりも母親とロイがそこにいてくれれば、レイにとって他のことはどうでもよかったのだ。

 

 この闇組織サザンでは、ロイは侵入のための道具、レイは戦力として数えられる。

 ロイが幼い頃から授けられた『影の加護』により、誰にも気づかれることなく様々なところに侵入することができる。

 正直ロイに頼っている部分も多々あり、彼女がいなくなったらサザンという組織は相当弱体化してしまうだろう。

 

 そしてレイがいなくなったとしても、サザンが今まで活動できなくなる可能性が高い。

 彼女の戦闘センスはかなり高く、年が一桁であるのに母親と同程度の戦闘力を持つのだ。

 そして先頭に対する膨大な知識から、レイがこの組織の中で一番効率的に人を殺めることができる。

 その知識も全てサザンの皆のためにとレイが必死で身につけた知識なのであるが。


「じゃあ、それで。リーダーはどうすんのさ。」


「アタシは状況偵察かな?いつも通りだよ。」


 母親が気ままにそう答える。

 

 そう、レイの母親はサザンのリーダーなのだ。

 この闇組織を作り上げ、様々な人たちを配下として加えた。

 そして様々な国家から頼りにされ、嫌われ、畏怖される一大組織まで発展させた。


 なぜわざわざ闇組織を作り出したのかはレイも知らない。

 でも、レイの母親には闇組織で生きるための才能があった。

 彼女がサザンとして活動を始めて間もない頃、ある危機を乗り越え、それによって『静寂の加護』を手に入れたのだ。

 その名の通り、周囲の空気の振動を止めることができるという加護なのだ。

 他にもそれを応用することで、周りの微かな音波でさえも感知でき、敵の接近にいち早く気付くことができる。

 

 これとロイの加護で安全に侵入し、レイが速やかに邪魔者を排除、そして目的に合わせてそれぞれ得意な人が自分の役割を果たす。

 それがいつものサザンの光景だった。


 だが、それは唐突に終了する。

 母親から直々に命令されたからだ。


「あなたはクロノオに侵入しなさい。ロイと一緒に。」


「…え?お母様?」


「クロノオの国王ともともとパイプを作りたかったんだけど、機会がなかったのよ。でも、あの国王が今度軍部というものを作るらしいの。ロイとレイにはその軍部の中に入ってもらいます。」


「え?では、サザンは?私はサザンを離れるのですか?」


「そうよ。」


 母親のあまりにも淡々とした物言いに、レイは軽くショックを受ける。

 サザンを離れる。

 任務としてはごくごく当たり前にあることだった。

 様々な国への潜入調査をするものサザンの仕事だ。


 でも、それがよりにもよってリーダーの娘にまで回ってくると思わなかった。

 レイが悲しそうな表情をすると、母親は少し慌てたようにレイの頭を撫でる。

 少しいい香りがした。

 そして、こちらをあやすような目で見つめ、


「仕方ないの。私だって嫌だけど、これはレイが立派に成長するための一つの壁なの。これからサザンで活躍するための。」


 母親はレイと話すときだけ一人称が私になる。

 それがすごく特別な感じがして、レイは少し機嫌を取り戻した。


「…わかりました母様。私は姉様とともにクロノオに向かいます。」


「それでいいのよ。」


 レイは覚悟を決めてそう誓う。

 それを母親は満足げに見つめると、レイを抱きしめてくれた。

 慈愛に、親愛に満ちた目でレイを見て、儚く優しい手でレイを撫でる。

 その手が少し動くたびに、レイはあまりにも膨大なカタルシスを感じる。


 もうすでにレイは母親なしでは生きていけなくなっていた。

 

 そして、


「…アレに汚染されるなんて、レイがかわいそうだわ。」


 物陰からロイがその光景を見つめ、思わずそう呟いたのだ。




 そして、目の前には母親の死体がある。

 四肢は輪切りにされ、胴体は原型を留めているとは言い難い。

 だが異様なことに、顔だけ傷一つ付けられていなかった。


 おそらくは、苦悩に満ちた表情を見たかったから。


 あの二人の性悪さに、思わずレイはカッとなりそうになる。

 落ち着け、冷静に。

 今ここで怒りをぶつけても仕方がない。

 今は母を丁寧に弔わなければ。


 くちゃり、くちゃり、


 一つ一つ、母親の断片をつなぎ合わせる。

 指を形作り、手をつなぎ合わせ、腕を見つけてはつなぎ合わせる。


 くちゃり、くちゃり、


 歪な音を立てて、肉片は母親へと戻っていく。

 その経過、手つき一つ一つがレイにとっては愛おしいものだった。


 くちゃり、くちゃり、


 足をつなげて、足を作り、胴体とつなげる。


 くちゃり、くちゃり、


 そして、体を形取ると、最後に顔をつなぎ合わせた。


「これで…。」


 レイは作業を終えると、母親の全体像を眺めようとし、


「…うっぷ。」


 吐き気がした。

 思わず脇に蹲って嘔吐する。

 

 さすがに、今の精神状態で母親のなりはてを見るのは無理だ。

 人の形を作ったことで、母親の痛みや苦しみが直接レイの脳内で炸裂したような錯覚を覚えたのだ。

 切断されているのだ。

 

 切断、輪切り、死体、母親。

 

「あああああああああああ!!!!!」


 もう何がなんだかよくわからない。

 怒りも愛おしさも全て忘れて、何にもない感情が爆発する。

 名前のない、でも確かに存在する感情。


 あるいはこれは人間としての本能かもしれない。

 ただただ感情が爆発する。


「あああああああああああっっ…ゴホッ、ゴホッ!」


 叫びすぎて喉が潰れる。

 そのまま血を吐きながらレイは膝をつく。


 母親はいない。

 その事実を飲み込むのに、喉を犠牲にするだけで済んだのは僥倖だ。


 もう、レイの感情は爆発しない。

 今度はなぎさのように、静かな感情が心の中に居座る。


「…っ…っ…。」


 かすれた声でなんとか魔法を発動する。

 青魔法の最下級のはずの魔法、でも才能のないレイにはそれだけで身体中の体力がゴッソリ抜かれた。

 でも、


「…はぁ、しゃ、喋れる。」


 声は元どおりになった。

 そして、もう一度母親の亡骸を見つめる。

 その姿はやはり悲惨で、でももうレイは取り乱さない。


「後で迎えに行きます。待っていてください。」


 そう言って、レイは重い足を引きずって部屋のそとにでる。

 残された敵、ペレストレインを討つために。


 ———だが、エレメント城戦が終わってファントム城に戻ろうとしたとき、レイの母親の亡骸はなかった。

 そうして、レイの母親をめぐる戦いはまだ続くのだった。




「オレにコレをソセイさせようってのか?シットめ、ナめてるのか?」


「いえいえ、そんなことは。ですがこれが出来るのはあなただけでしょう?」


「まあそうだけどよ。コレはひどいな。ワギりにされてるし、ワキにゲロまでついてんじゃん。」


「そう言わずに。不完全でも構いません。コレを復活させれば面白いことになる。」


「まあ、シットがオモシロいとオモうことはタイテイオモシロいからな。」


「ええ、ボクはボクの欲望に忠実なのですよ、それは我々のリーダーである傲慢を使ってでも。」



いかがだったでしょうか。


間話の3話目は、7/22に投稿します。

次回はお馴染み天使会議です。

天使たちはわりと後半活躍する重要なキャラですので、皆様が忘れないようにちょくちょく天使会議の話を入れると思います。

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