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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第百話 王として

少し遅れました。

二章最終話です。

「まずはさっきのことなんだけど、いきなりあんなことを聞いてごめん。」


「いえ、私は…。私が未熟なだけですから。」


 ヒムラに何を言われようとも、この気持ちは変わらないだろう。

 彼自身が「台本外のことを話すのは当たり前」と言ったのだから。

 もし彼がその言葉を否定してくれたら、あるいはクリスは立ち直れたかもしれない。


 まだ私は国王としてやっていけると言い張れただろう。

 でも、そんなことは起こらず。


「さっきのことは君が俺たちクロノオを誘導するような台本を作ったかどうか確かめようとしただけだよ。俺の言葉も…まあ君の本音を引き出すためのものだから、そこまで落ち込まずに…。」


「先ほどの言葉は否定してくれないのですね。」


「…。」


「どうなのですか!私は…。」


 クリスの感情が昂り、ヒムラに食ってかかる。

 それをヒムラは見て、やけに大人びたため息をつくと、


「…ああ、さっきの俺の言葉は間違っていた。君を疑うあまりありもしないことを口走ってしまった。本当に申し訳ない。」


「…。」


「とでも言ったら満足かい?」


「なっ…!」


 ヒムラはそこで笑みを深めると、


「君だって薄々感づいているはずだ。国王になるには知識や貫禄が全く足りていないことに。」


「…そうですよね。」


 ヒムラに言われてしゅんとなるクリス。

 クリスは王になるための何もかもが足りない。

 そんなことはわかっている。


 でも、他人に面と向かって言われたのは初めてだ。

 それがさらにクリスの心を圧迫し、


「なんで…?」


「ん?」


「なんであなたはそんなに凄いのですか?」


 思わず本音が漏れた。

 

 なぜヒムラはこんなにも大人びているか。

 なぜ自分とあまりにも違いすぎるのか。

 才能という一言で片付けられるのならそうしてほしい。

 ただクリスの努力が足りないのなら、そう嘲笑って欲しい。


 なんでもいい。

 ただ答えが欲しい。

 エレメントの皆はクリスを肯定してくれた。

 逆にいうとクリスを肯定しかしてくれなかった。


 だからだろうか、自分を否定してくれるヒムラに答えがある気がして。

 その答えは、


「…もしかして、俺が君と同年齢に見えるからってこと?」


「…はい…。」


「それは、…すごく言いづらいんだけどね。」


 ヒムラはその理由をいうのを渋る。

 クリスはなんとか彼にそれを話させようと、


「お願いします!私はもっとちゃんとした王になりたくて!」


「…んー。誰にも言わない?」


「はい!!」


 ヒムラはそんなクリスの様子を見て観念したようにため息をつくと、


「俺、実は大人なんだ。」


「…………へ?」


「本当は二十九歳くらい。いや、トラックに轢かれた時から歳を固定するなら二十六かな?」


 ヒムラの口からでた言葉はあまりにも馬鹿げていて。


「もっと真面目に答えてください!!私は本当に、!」


「本当のことだよ。あんまり人に言いたくなかったけど、俺は見た目は十歳くらいなんだけど、本当は二十九なんだよ。」


「そんな…!」


 ヒムラは自分の言葉を否定しない。

 そしたら、そしたらどうなる。

 子供でも国王としてやっていける方法を聞いたというのに、その彼が実は大人だったら。

 クリスが求めた救いは一瞬で瓦解した。


「俺は異世界て…、いやそれをいうと紛らわしくなるな。俺はどうやら体が成長しなくてね、いつまで経っても十歳の体のままなんだよ。」


「では、十数年間子供の体のままなのですか?」


「あ、まあそんな感じかな…?」


 ヒムラがどうやら嘘をついてないことを悟る。

 だがヒムラは、もうクリスにとっての救いを持っていないヒムラはそれでも言葉を紡ぐ。


「だから君がそんなに気負う必要はないはずさ。俺は大人だからこんな大変な仕事もなんとかやれているだけだ。だから…。」


「そんなことが聞きたいんじゃない!」


 クリスはそれでも言葉を並べるヒムラに怒鳴り返してしまった。

 

 クリスの希望を潰しておいて、なおもこちらを諦めさせようとしてくるヒムラ。

 それが嫌で、嫌で!


「私は諦めたくないです!国王として生きていきたいのです。あなたを見習って、それでこれからやっていこうと思ったのに、あなたが本当は大人だったなんて、とんだ悪夢です!」


「…。」


「今すぐにでも、エレメントの皆の期待に応えなければならない。その方法があるならなんでも教えて欲しいと思ったのに…。」


 クリスはまた泣きそうになる。

 答えを探して、掴みかけたものが紛い物だと知って。

 誰に対してもこんな感情をさらけ出してはいけないのに、よりにもよってヒムラにその感情をぶつけてしまう。

 そんな愚かさも、今はもうどうでもいい。


 でも、ヒムラはこちらをしっかりと見つめ、


「でもクリス。君はまだ子供で、何もかもが足りないのは当たり前なんだ。」


「当たり前がそれなら、私は当たり前なんていらない!特別でもなんだっていい!ただ…エレメントの皆のために…!」


「エレメントのためと君はいうけど、エレメントの皆は君に何を望んでいるのか君は知っているのか?」


 持論を並べ立てるクリスに、ヒムラはピシャリと言った。

 その言葉は温かみもあったが、突き放すような口調が主に感じられ、


「それは…。私が国王として完璧に働くことで…。」


「俺は違うと思うよ。」


「…!!」


 違うとはどういうことだろうか。


 ヒムラは人差し指を立てると、


「国王っていうのは誰もが国民のために働くわけじゃない。ペレストレインなんかが例だな。そしてそれを審査してついていくのが国民。」


「…。」


「つまりは、君の自由にやっていいってことだよ、クリス。君がエレメントのために働きたというのなら、それを肯定するのが国民の望みだ。」


「…!私が自由に…。でも私はエレメントのために…。」


「そうだね。でもそんなことはエレメント民は望んでいないはずだ。本当に望んでいるのは、君が楽しそうにその目標に向かって歩き続けること。」


「…!」


 知っていたはずだった。

 だが、ヒムラに知らされて改めて思い知る。

 

 自分がエレメント民に愛されていたことに。

 様々な場面でエレメント民と言葉を交わしたが、彼らは皆クリスを肯定してくれた。

 国王になること、そしてエレメントのために働くことを伝えると、涙を流して喜んでくれた。


 エレメントは、何よりもクリスを、ヴィルソフィア・クリスを尊重している。

 

 ならば、


「私はどうすれば…。」


「君のしたいように。とりあえずはまだ君は幼いんだから、いろいろなことを勉強していけばいい。焦る必要もないし、誰も君を急かさない。エレメント民だって、自分たちのために国王が勉強してくれているのを知ったらきっと喜ぶさ。」


「…。」


「近道なんてないし、遠回りもひどいものだらけだろう。でも、それならゆっくり歩いていけばいいさ。自分のペースで歩くことがまだ許される歳だし、みんなだって君が生き急ぐことは望んでないよ。」


「…!!。」


 ゆっくり歩いていく。

 今まで感じなかった選択肢だ。

 

 エレメントのために一時も早く国王にならなくてはならない。

 早く王になってエレメントに尽くすのがエレメント民の望みだと思っていた。

 でも、そんなことはなかった。

 ヒムラにそう教えられた。


 私がどれだけノロマで、遅くて、泣いてしまっても、エレメント民は私を信じてくれている。

 いつか目標に向かって歩き始めるのだと信じている。


 それを知ることができた。

 それだけでクリスは涙が溢れそうで、でもヒムラの前では必死にそれを拭う。


 そして、クリスは立ち上がり、それに合わせてヒムラも立ち上がる。

 クリスは少しだけ赤い目でヒムラを直視しながら,


「私のいきたい方向にいくことを皆が肯定してくれるのなら、私はエレメントのために働くことをやはり選びます。これだけは何を言われても変わりません。」


「…うん。」


「でも、今はまだ勉強します。これから皆の役に立てるように、精一杯勉強します。」


 今まできっとクリスは自惚れていたのだろう。

 自分ならできると思い込んで、できないことを知って泣きだす。

 それでもまた高い理想を掲げる。

 

 でも、それは幼い私には早すぎた。

 まだ私が国王として本格的に働くべきではない。

 様々な人の力を借りながら、どうにかやっていくので精一杯だ。


 それでも、皆がそれを許してくれるのなら。


 クリスは歩き続けることを、今決めたのだった。


「ですから、ヒムラ殿を私の教育係に任命します。」


「おう、…ってええ!」


 突然の教育係任命に驚くヒムラ。

 

 こうでもしなければヒムラの驚く顔が見れないのだ。

 今まで偉そうに説教したツケだと、クリスはクスッと笑う。


 こうして、一人の少女は決意を固めたのだった。




 そして、会談は終わった。

 いや、展開早すぎって?

 

 でも、それくらい話すことが特にないほどスムーズに進んだのだった。


 クリスは今までの毅然とした態度から一変、会談では自分のわからないことは次々に質問をして、様々なことを吸収している。

 皆もその豹変ぶりに驚いていたが、それでもやはり嬉しそうだった。

 

 え?

 教育係の話だって?

 もちろん断らせていただく。

 俺が王女様の教育ができるわけがなく、教えられることと言ったら兵法くらいだ。

 そんなものをクリスに教えるわけにはいかない。


 だが数日後、俺はメカルから色々なことを吸収して、それを必死にクリスに教える日々が続くのだった。


 さて、これでめでたくクロノオ対エレメント・ファントム戦争は終結したのだった。


 色々なことがあったし、様々な課題も山積みだ。

 でも、俺はこの世界でまだ生き続ける。

 現代なんかと比べ物にならないほど過酷で、痛くて辛くて苦しい。


 でも、俺は皆のことが大好きだ。

 それらを失って現代に戻りたいなんてもう思わないだろう。

 

 だから、まだまだ慣れないところもあるけれど、俺はクロノオ軍師として生きていくと硬く誓ったのだった。




 だが、ヒムラはまだ知らない。

 厄災が近づいていることに。

 

 百年に一度起こるとされている天魔大戦。

 その前哨戦がクロノオにも近づいてきている。


 悪魔の国デトミノが動き出す。

 それはヒムラにとって、長く苦しい不幸の始まりでもあった。


はい、というわけで2章が終わりました。

いかがだったでしょうか?

今回は色々と人物の内面描写が難しく、少し伝えきれない部分も多々ありました。

そこは反省しています。

 

では、三章に移る前に間話を何話か設けたいと思います。

15話ほど使って色々とクロノオの内政について色々と書いていきたいと思います。

15話も間話に使うんだったら、一つの章にしろとも言われそうですが、あくまで本編よりかは重要度の低いものとして扱うつもりですので悪しからず。

よって三章再開はおそらく九月ごろになるでしょう。


そして、三章についてのお知らせです。

三章は二章より少し短い七十話ほどを予定しています。

敵は最後の方で匂わせた「あの国」です。

ヒムラやクロノオ軍部の皆、そして様々なキャラクターの生き様を解くとご覧あれ!


最後になりますが、二章についての感想が欲しいです!

自分でも色々反省点はたくさんあるんのですが、皆様にもそれを指摘してもらいたいです。

ここがダメとか、ここが変とか(もちろんここが良かった、とかでも大歓迎です!)を感想欄に書いてくださればなと思っております。


それでは、今後とも『神速の軍師』をよろしくお願いします!!!


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