一章 第十三話 対シネマ軍事会議
その頃、シネマ国。
「ほう。クロノオ王国が再戦の準備をしているだと?」
「はい、クロノオに忍ばせた間者によると、軍師試験が行われた模様であります。そして、我が国への宣戦布告は、おそらく一ヶ月後。」
「フン!グランベルはクロノオを滅ぼしたいのか?」
そう言ってワインを飲むのは、シネマ国の王、カスタル。
大きなお腹が彼の贅沢な暮らしを示している。
それが重税によって作られたものであり、百姓の肋の見えた腹と比べるのも些か滑稽であるほど。
「我が国が徴兵できる数は?」
「王よ、一万二千の歩兵に、二千の騎馬、千の魔法使いでございます。」
「ふはは。あちらの兵力はせいぜい1万。殲滅じゃ。」
「しかし、王よ。少し気がかりなことが…。」
そう進言する王の側近、パラモンド。
パラモンドは頭の切れる貴族として有名で、ただただ私服を肥やすだけのカスタルの補佐を引き受けている。
パラモンドのおかげでなんとかシネマ国は国体を維持している。
領土の隣には魔人の国家があるので、常に見張りをつけなければなるまい。
かなりの金をそれで使っているので、いつかは底をつく。
その金を補填するためにパラモンド、引いては小国シネマがした決断は、クロノオ国からの領土略奪。
これが見事成功し、とりあえずの危機は回避したのだが…。
戦争を仕掛けて来られるならば、黙ってはいられない。
「クロノオが軍部を組織したのですが、トップがその…子供、10歳ほどの少年らしいのですが…。」
「はあ!?」
王が思わずワインを吹き出す。
そしてそれを奴隷の人が拭く。
奴隷を国境で働かせれば金が少しは浮くのに…と、パラモンドは思うが言わない。
「本当でございます。その少年はヒムラといい、軍師の役職についています。クロノオの目的が掴めませんが…。」
「心配するなパラモンド。人手不足なのだろうよ。そんな子供が指揮できまい。結局はあのグランベルの指揮で動くだろう。お前の指揮の足元にも及ばんよ。」
「それだといいのですが…。」
パラモンドは一度クロノオに潜入した時に、ヒムラという少年を一目見たことがある。
パラモンドは戦慄した。
見た目はただの少年だが、瞳には少年とは思えない、理性、落ち着き、強かさが見られた。
パラモンドは気付いてしまった。
あの少年はヤバい。
直感が悟るが、根拠も乏しいので、王には言わない。
このようなことは、自分で解決してしまった方がいいのだ。
パラモンドは、王室を出ると、配下を呼び寄せ、
「クロノオ軍師、ヒムラの過去を探れ。」
と、言うのであった。
「承知しました。我が主人よ。」
と言った配下の顔に、パラモンドへの忠義の色はなかった。
「これより、第二回クロノオ軍部会議を始める!!」
クロノオ軍部の9人が揃った部屋に、メカルの声が響く。
うんうん、なんか雰囲気出てていいね!
俺は完全に軍事会議なるものにそわそわしていた。
だって、戦争ファンタジーなんかでよく見るこの状況。
地図を広げて、実際に作戦を決める。
戦術、引いては戦争オタクの俺がどれほどこの時を待ち望んだことか!
…ゴホン。まあ、そんなことは置いといて始めよう。
「ヒムラ様。嬉しそうですね。」
「ばっ!そんなわけないだろう。」
ユソリナの指摘に慌てふためく俺。
ユソリナは、最近会話に入ってきてくれるようになった。
外交担当は、他の部門より下だと言う勘違いがあったのだろう。
俺が、外交の重要性をトコトン聞かせると、それを理解してくれたのか、口を開いてくれるようになったのだ。
「…ゴホン。では、今回のシネマ国襲撃だが、まず奇襲するのか、宣戦布告してから攻めるのか、意見のあるものはいるか?」
「はい。」
「おっ。ユーバ歩兵隊長。」
と、俺がいうと、
「…何よその言い方。」
テルルから苦情が入る。
いいんだよ、なんかぽいだろ。
それにしてもユーバが真面目にこういうところで意見してくれるようになるなんて、歩兵隊の指導で大人になったのかな。
うんうん、俺は嬉しいぞ。
「えっと、奇襲とか宣戦布告って何ですか?」
…ん?
そこからかよ!
俺の感動を返してくれ!
俺はユーバに懇々と、奇襲や宣戦布告について抗議する。
まあ、確かにまだユーバは10歳ちょい、知らないのも無理はないかもしれない。
周りを見渡すと、テルルやドルトバ辺りは分かってない様子。
本当にこの国の戦争って王任せだったんだな、と思い知らされた。
「はい!」
「おっ。なんだアカマル将軍。」
やはりここで将軍が来たか。
素晴らしい意見を聞かせてくれ…。
「何で奇襲か宣戦布告かで迷わなければいけないのですか?奇襲の方が絶対有利でしょう。」
「おい!」
お前も分かってないんかい。
「…つまりだな。クロノオとシネマが戦争をすると、それが周りの国にも知れ渡るだろう。ここで俺たちが奇襲をしたら、俺たちはそういうことをする国、つまりはいつ襲ってくるかわからない国と思われる。これでは今後その国との外交もやり辛い。先のことを考えるのも戦争の醍醐味なのだよ。」
「…なるほど。その考えにこのアカマル、感服いたしました。」
と言い、他の人も、
「ヒムラ様は物知りだよねー。」「ふん、知識だけは認めてあげるわ。」「戦争の後ね、考えたこともなかった…。」「さすがマスター。」「知見の深いお方。」「ホッホッホッ、私の加護を超えたお考え、感服ですじゃ。」「ヒムラ様なら当然であります。」
と、言ってくれる。
とりあえずはこんなふうに俺の知識で信頼を得ていこう。
というかみんな知らなかったのか?
本当にこの国の戦争って(略)
「で、まあ先ほどの答えだが…ロイ、レイ。」
「ハッ!マスター、こちらでございます。」
と言って俺に一枚の紙を差し出すロイとレイ。
「それは?」
「ああ、シネマ国内の地形だよ。」
メカルの問いに答える。
そう、これはシネマ国が戦場で使っている地図である。
シネマ国のパラモンドという部屋にあったらしいので、ロイとレイに取らせた。
それにしても、頼んだのが1日前だっていうのに、驚異的な速さだ。
どうやらパラモンドの配下になりすまして、騙し取ったらしい。
なんていう怖さ。
うまくレイの3つのスキル「空間変形」「虚像」「振動変化」を駆使して、バレないようにしたらしい。
「空間変形」で雰囲気を、「虚像」で身長を、「振動変化」で声色を変化させる。
…本当にこの姉妹が味方でよかった。
「それに伴い、一つ重要な情報が…。」
そういうレイは、皆の前に立って、言う。
「配下として侵入した際に、クロノオ軍師、ヒムラの過去を調べろと言われました。それと、シネマ国王とパラモンドの会話から、クロノオの陰謀に気づいている模様です。」
そういうと皆驚く。
俺も最初聞いた時驚いたが、よく考えればそれなりに公の場で言ってたしな。
間者に聞き取られていても不思議ではない。
「と、まあこのように相手国に知られているので、奇襲は意味がない。となると宣戦布告からの戦争がふさわしいだろう。」
このように俺は締め括ったのだ。
「ってことは、俺らがシネマ国内に侵入し、迎え撃つ敵を倒すってことか。」
「ああ、その通りだ。」
ドルトバの言葉に、俺はうなずく。
「そのために、ロイとレイにシネマ国内の地図をとってもらったんだよ。」
そう言って俺は地図を広げる。
すると、メカルが手をあげる。
「メカル。」
「ハッ!おそらく敵が待ち構えてきそうなのは、ここでしょうか?」
そう言ってメカルは地図の一点をさす。
そこはたくさんの山々に囲まれた中にある、広い草原だ。
クロノオの首都からシネマの首都へと向かう時、必ず通らなければならない場所である。
「ああ、俺もそこになると踏んでいる。」
「…相手は何か仕掛けてこないの?」
テルルが聞いてくる。
「いい質問だ。相手はおそらくこちらを低く見積もる。前の戦争で国力はシネマの方が上になった。わざわざ奇策を練る必要もなく、ただただ殲滅すれば良い。」
兵の差は1.5倍。
かなり有利なはずだ。
まあ、相手が俺でなければの話なんだけど。
「つまり、相手は油断してるということだ。この隙につけ込んで勝ちに行こう。」
「ハッ!」
一斉にみんなが返事をする。
「とりあえず二週間後にシネマ国との交渉を行う。ただし、これは決裂が前提だ。」