二章 第九十四話 エレメント城戦8
ロイとザンの戦いもかなり激しいものだった。
「「大炎々円陣」!「光粒子砲」!」
「はっ、くっ、。」
ザンが魔法を何度も発動させる。
その光景はまるで魔法の嵐を吹き起こしているようだった。
それを幾度となく避けながら、ロイは状況を整理する。
最近魔法使いとの戦闘が多い。
テルルとの戦闘もそうだし、一週間前はフリルラルと戦ったばかりだ。
魔法使いと戦うとなぜかロイの場所が知られたり、ロイの加護が使い辛くなったりするので、非常にやりづらい。
だが、この過去二回の戦闘でロイも学んだことがある。
魔法使いに対しての戦闘方法だ。
それは、
「くそっ!当たらない!」
ザンが叫ぶ。
ロイが新たに学んだことは、加護の新たな使用方法だ。
いや、使用方法というよりかは、加護に対する考え方といったほうがいい。
ロイはあまり『影の加護』に頼らないことにした。
今まで『影の加護』に頼っていたからこそ、その加護が使えない戦場では苦戦したのだ。
それならばいっそ加護を使わないという制約を自分に設けた方がかえって戦いやすい。
「はっ、ほっ。」
「ちょこまかと小賢しいわ!!」
魔法に対して必要最低限の動きで交わすロイにザンは激昂する。
ちなみに余裕そうに魔法を避けているロイだが、これでもかなり厳しい。
一つ一つの動きに全神経を集中させなければすぐにロイは死んでしまう。
そんな極限状態が続いていたら、疲れてしまうのは当然だろう。
加護を使っていれば、ただ影に潜るだけで全てをやり過ごせた。
だが今は違う。
加護に頼り切ってきた弊害がここに出てしまった。
それに、ロイはまだザンに対して一度も攻撃できていない。
魔法攻撃がかなり激しいからだ。
ザンは底無しなんじゃないかと思えるほどに魔法を使いっぱなしだ。
そんな怒涛の攻撃を、ロイは躱すので精一杯だ。
反撃にナイフを一本投げる、なんてこともできそうもない。
ロイは考える。
どうすればザンを倒せるか。
それだけをずっと考えて考えて考えて…
だが、その思考は唐突に終わりを告げた。
突如ザンとロイがいるところの隣、ヒムラとカテール、テーラードが戦っているところから凄まじい闘気を感じたのだ。
驚き、ロイはそちらの方に目を見やる。
その闘気の原因はどうやらカテールとテーラードのようだ。
そして、一瞬遅れて彼らから不快なオーラが漂い始めた。
まさか…。
彼らはひどく陰湿でどす黒い笑みを浮かべながら、名を名乗り、
ヒムラ達がエレメント城内で戦っている瞬間。
城下の兵達の戦争もさらに苛烈なものになっていた。
ファントム兵 → クロノオ兵 ← エレメント兵
クロノオは前と後ろからファントム兵とエレメント兵に攻められている。
そして、この状況を打破しようとアカマルとテルル、ドルトバの三人でうまく場を動かしていた。
「押せ押せ!!」
左右を前進させようとしているのはアカマルとドルトバだ。
クロノオ兵の左右をファントム側にもエレメント側にも前進させている。
フク←→クエ
フフククエ
フフククエ
フフククエ
フク←→クエ
(見にくくてすみません。フがファントム兵、クはクロノオ兵、エはエレメント兵です。)
そして、
「下がって下がって!!」
中央あたりでクロノオ兵を引かせているのはテルルだ。
徐々にクロノオ兵を後退させることでエレメント兵とファントム兵を内側に誘い込むのだ。
後退し終わった兵から順に左右に移動し、今度は敵兵に向かって前進していく。
つまり、
フククククエ
フフククエ
フフフエ
フフククエ
フククククエ
それをしていくうちに次第に中央あたりでファントム兵達とエレメント兵達が出会う。
だが、彼らはお互い相手が味方だとは認識していない。
なぜなら彼らにとって自分の国の旗や武器を持っていなければ全員敵として写るのだ。
ファントム兵が突如現れるエレメント兵を味方と認識はできず、逆も然りだ。
よって、中央あたりで味方同士の殺し合いが始まる。
これこそこの作戦の狙いの一つだった。
上下で挟まれているのなら、その二つの敵勢力を引き合わせて仕舞えばいい。
いきなり味方が現れたことを彼らは認識できず、そのままの勢いで味方を殺してしまう。
だが、これだけではまだ弱い。
いずれお互い味方同士だと彼らは悟り、こちらに対する攻撃を再開してしまう。
よって、このまま彼らを包囲しなければならない。
そのためには左右のクロノオ兵がファントム軍、エレメント軍を突破しなければいけないのだ。
↓ ↓
フククククエ
フフククエ
フフフエ
フフククエ
フククククエ
↑ ↑
(↑のところを突破しなければならない。)
四つ突破しなければいけないところが生まれるのは必然だろう。
一つはドルトバ率いる騎馬隊が、一つはアカマル率いる志願兵精鋭軍が、
そして残り二つは、
「私の出番ってわけね。」
「大丈夫かい?テルルの嬢ちゃん。」
ドルトバがテルルを心配する。
だが、
「大丈夫よ。ここが頑張り時だもの。」
決意に満ちた声を聞いてドルトバがにっこりと笑う。
どうてことはない。
ただドルトバは確信したのだ。
テルルなら大丈夫だと。
そしてテルルに向かって拳を近づける。
「必ず勝とうぜ。」
拳と拳をかち合わせる。
その動作は人とのつながりをあまり持たなかったテルルにとって新鮮なもので、少し嬉しくなってしまう。
テルルは同じく自身の拳をドルトバの拳に近づけ、
「——ええ、必ず。」
拳をコツンと合わせたのだった。
前の前の男が憎い。
それだけをずっと考えている。
どうすれば良い?
どうすればこの怒りは解消される?
どうすれば私は救われる?
「ふざけんなあ!人をいだぶる側の僕が、ごんなごとになっていいはずがあ…。」
「うるさい。」
ペレストレインに対して、レイは渾身の蹴りを入れる。
苛立ちに任せて攻撃を繰り返す。
顔を、腹を、手を、足を、胸を、首を。
どうすればいい?
どうしたらいい?
「ああああああああああ!!!」
今はペレストレインの悲鳴がうるさい。
こんなことに悩むのならば、いっそこの思いと一緒に彼を始末してしまって、
そう思った時、レイの左側から凄まじいオーラを感じた。
風が吹き荒れる。
そこには、カテールとテーラードがいて、
「なっ!?」
彼らから発せられる異様な気配に、レイは思わず眉を潜める。
それは、簡単にいって仕舞えば嫌悪感だった。
心の底からどうしようもなく現れる不快な感情。
それに思わずレイは眉を潜める。
見ると、最愛の姉も同じような表情をしていた。
この嫌悪感、覚えがある。
確か、四ヶ月ほど前。
あの時の戦いで…。
「まさか…!?」
レイは考えて、ある答えにたどり着いてしまう。
そんなはずはない。ここは天人国家のはずだ。奴らがのうのうと生きて、しかも国の幹部として働いていいはずがない。
彼らは、お互い顔を見合わせると、
「デトミノ王国南軍最高戦士、カテラール・コロノイド。」
「デトミノ王国西軍最高戦士、テラド・イマドウ。」
ここにいるはずのない役職を名乗ったのだった。
やっと伏線回収ができました。
感づいていた方も多いと思いますが。