二章 第九十三話 エレメント城戦7
カテールとテーラードの連携は、はっきり言ってやりづらかった。
前衛としてカテールが槍を振り回し、後ろからテーラードが矢で援護射撃をする。
かなり強力な連携だったので、うまく崩せないのだ。
「オラオラオラオラ!!!」
「ぐっ!!」
「口程にもないぜえ!」
カテールの高速槍捌きが炸裂し、それの対応で精一杯となる。
そして彼の対応をしている間に、
「ふっ。」
テーラードが後方から高速の弓を打ち込んでくる。
それを俺はなんとか避けると、矢が地面にそのまま突き刺さった。
そして、爆ぜる。
弓の威力に耐えられなくなり、地面が崩れ出す。
いくらなんでもやばいだろ。
弓で床って崩れるんだと、呆気にとられる。
「…ふう。逃げてばかりの愚民が。貴様、愚だな。」
「愚、愚うるせえテーラード。涼しい顔して矢打ってないで、もっと必死こいて戦えよ。」
「カテール。それは僕のやり方ではないんだ。」
二人がそんなやりとりを交わす。
そこからわかった事は、
「…お前たちはかなり仲が良さそうだな。」
「はっ!それで俺たちに勝ったつもりか?」
俺の考えはカテールに一蹴される。
圧倒的優位にいる奴だからこそ言える強者の言葉だ。
だが、彼らはまだ気がついていない。
今まで一度も彼らの攻撃が当たっていないことに。
これまでの攻防の数々で、彼らは俺の敵ではないことが判明した。
ならば、早々に蹴りをつけてしまうだけだ。
俺は『神速の加護』を使用する。
「…おいおいおい。なんか雰囲気変わったじゃねえかよ。」
「愚かな。ここで切り札を切るなど。」
俺の加護を雰囲気を察し、それですら余裕でいる二人。
このことで俺はさらに新たな確信を得る。
もしかしたら彼らも力を隠し持っているのかもしれない。
それを使われたら俺が勝てる確率は減ってしまう。
ならば、早期決着をつけるのみ。
つまりはこちらが本気を出し、相手がまだ本気を出していないこの瞬間。
ここで様々な決着をつけなければな。
そう思い、俺は一歩踏み出したのだった。
そしてその一歩は、加護使用中では相手の喉元に届くほどの距離となる。
一瞬で間合いを詰めた俺に、二人は反応できていない。
そしてそのまま、俺はカテールの首に刀をピタリとつけて、そのままスライドさせる。
カテールの首に鋭利な刀が滑り、赤い血がツーと流れてきた。
『神速の加護』使用中でも刀はここまで扱えるようになったのだ。
「なっ?」
ここになってカテールは初めて俺が消えたことを悟る。
その瞬間にはすでに首を傷付けられたのだとも知らずに。
そしてそのまま俺は後方のテーラードに向かっていく。
テーラードは何か起きると思っていたのだろう。
予め手には鉤爪をはめている。
彼の近接戦闘方法なのだろう。
だが、そんなものでは俺は止められない。
その鉤爪を殴り、俺は鋭利なその爪を吹き飛ばす。
もしかしたら指が何本か吹っ飛んだかもしれないが、死んでなければとりあえず大丈夫だ。
そして、俺が一連の攻撃を終える頃には、
「はっ?首が…。」
「鉤爪が…。待て、指も…!」
二人が自身の傷に驚いている。
まあ彼らにとっては一瞬で自分の体が傷付けられたんだ。
防ぐ間も無くお前たちの命をたやすく刈り取れるぞ、と言う意思表示だ。
まあ命を奪うつもりなんてないんだけどね。
あくまでただの脅しだ。
おそらく俺が人を殺したくない的な情報はエレメント側にも伝わっているから、あまり脅しに意味がないかもしれない
だが、まあそれでも俺に勝てないことはわかるだろう。
予想通り二人はこちらを見て混乱しているようだ。
「どうするテーラード。このままじゃ。」
「ああ、僕たちの命はないかもしれない。」
そうそう、そこを理解してさっさと降伏してくれれば…。
「どうだ?降伏する気になったか?お前たちは俺に勝てない。」
俺は彼らを催促する。
だが、
「ふっ、カテール。どうやら僕たちではあの愚民に勝てないだろう。作戦は失敗だ。直ちに本国に帰るぞ。」
「待てテーラード。それではあの御方に顔むけが…。」
「情報は揃った。任務完了だ。」
「確かにそうだが…。」
二人が何やら話をしている。
と言うか、本国とか御方とか任務とか。
何やらスパイが使いそうな言葉を使う。
そんな俺の疑惑は、次の瞬間確信に変わる。
「…くそっ!!わかったよ。任務完了。直ちに離脱する。」
「それでいい。」
「…おい、ちょっと待て!なんの話を…。」
彼らを引き止めようと俺は声をかけようとすると、その瞬間。
凄まじいほどの気配が二人から発せられる。
それは今までの彼らのそれとは格が違うとも言える。
これが彼らの隠していた力。
そして、彼らはどことなく目を合わせると、その本当の名前をこちらに名乗り…。
憎しみの感情を込めて相手を見やる。
そこには膝をガクガク震わせて覚えたように尻餅をつくペレストレインがいた。
あまりの弱さに手応えをなくしてしまう。
心の中を相手への苛立ちが支配し、頭が焼けるような怒りがレイの中で生まれる。
「貴様が母様を!!母様を!!」
「こんな…はずじ、ゃ!俺は強い…、そうだ!それなのにこんな少女、に!」
息も絶え絶えで、なんとか立ち上がったペレストレイン。
だが、レイさらにナイフを投げると、その持ち手の部分がペレストレインの腹にのめり込み、そのまま吹っ飛んでしまう。
未だレイはペレストレインに傷一つつけていない。
全て打撃系の攻撃を繰り返し、それでも彼を圧倒していた。
レイがペレストレインに向かって足を一歩踏み出しただけで、ペレストレインは顔を引きつらせて、
「もうやめてくれ!痛い、痛い、痛ぃ、よ!」
「黙れ!!母様が感じた痛みは、こんなものじゃなかった筈だ!」
ただ目の前の男が憎くて、ナイフをさらに強く握る。
———この感情は、目の前の男を殺したら治るのだろうか。
レイはただそのことだけ悩んでいる。
ユーバはただ階段を駆け上がっていた。
エレメント城の最上階、そこに目当ての人物がいると信じて、
「貴様がクロノオの…ここで成敗してグハアアアアア!!!」
「ごめんね!急いでるから!!。」
『電撃の加護』で目の前に現れた兵士を痺れさせる。
ユーバがよく使う敵の無力化の方法の一つだった。
「待て…!ぐっ、その先の部屋には…!」
「バイバイー。」
兵士がユーバを止めようと声を振り絞るが、それを無慈悲に両断するユーバ。
そして、今の兵士のセリフで確信する。
目の前には一際豪華で大きな扉。
この先に、目的の人物が…。
「…どうやって開けようかなー?」
その大きな扉には、何重にも鍵がかけられていた。
まるで中に大切なものでもあるかのように。
ユーバはこの鍵の解除方法を考えてみるが、うまく思いつかない。
結局、
「はあああああああああ!!!!」
ありったけの力を込めて加護を使用し、扉を焼け尽くした。
幾ら不燃性の扉であっても、膨大なエネルギー量の前にはただ崩れることしかできない。
そしてそのまま扉は爛れ落ち、ちょうど人一人が通れる隙間が開く。
そしてその中には、
「…!あなたは!」
ユーバを見て、嬉しいような落胆したような声を出す少女。
この国の現人神、ヴィルソフィア・クリスがそこにいた。