二章 第九十一話 エレメント城戦5
なんとか2章を100話ぴったりで収められそうです。
現状を整理しよう。
今クロノオが対応しなければいけない部分は二つ。
一つはエレメントの傭兵四千名。
これはクロノオ志願兵歩兵隊、「白竜の剣」半分、そしてシネマ・ルーン兵が対応をしている。
このまま放っておいても勝てそうではある。
ここの指揮権をアカマルに任せるしかないな。
そしてもう一つの問題。
城から飛び出してきた一万名ほどの兵。
みる感じではファントム兵だ。
ここはクロノオ兵八千人ほどを向かわせて対処するしかないな。
クロノオ兵八千と、「白竜の剣」残り半分、か。
これでいくしかないな。
ここの指揮は…、やっぱりアカマルしかいない気がする。
どうしようか。
…待てよ、もしかしたらクロノオ志願兵の方の指揮はテルルにもできるんじゃないか?
エレメント戦でも出来たと言っていたのだから、今回もできるだろう。
よし、戦力配分はとりあえず決まった。
この二つの問題には、「白竜の剣」、クロノオ歩兵隊、志願兵歩兵隊、シネマ・ルーン兵が対処することになるだろう。
そのような旨をアカマルとテルルに指示すると、
「いくつか疑問があります。」
「なんだ、アカマル。」
「なぜ、騎馬隊や魔導隊はこの問題に対処しないのでしょうか。」
まあ、その疑問は浮かぶわな。
今回の問題に、クロノオ騎馬隊や魔導隊は対処しない。
だが、彼らは何もしないというわけではない。
「この二つの隊には城の中に潜入して戦ってもらう。」
「城の中?この緊急事態になぜ城の中にまで意識を向けなければならないのですか?」
「アカマル。相手の思惑を考えてみろ。」
そう言って、アカマルに考えることを促す。
難しい顔をするアカマルの顔を見て、
「クロノオ兵たちはこの攻撃に対処するために包囲を解かなければならない。もしそれが奴らの狙いだったとしたら…。」
「…!まさか…。」
「そう、脱走だ。」
ハッとするアカマルとテルル。
この状況で、相手がしそうなことと言えば脱走くらいだ。
包囲され、日々威圧をかけられ、城を崩され。
そんなことをされたら脱走したくもなるだろう。
だが、アカマルはまだ腑に落ちないようだ。
「ですが、そんな決断をあの傲慢なペレストレインがするとは思えません。今城の中の指揮権は彼にあるはずです。その彼が、敗走なんていうことをするとは考えられません。」
「まあ、俺もその気持ちはわかる。」
ペレストレインが敗走を選ぶのは、確かに奴らしくない。
絶対に最後まで逃げなさそうな男なのは同意だ。
だが、
「…ここで一つ疑問なのだが、ザンがペレストレインに従っているというが、それはペレストレインが仕向けたことなのか?」
俺の質問に二人は一瞬呆気にとられると、
「状況的にそうじゃないの?」
「でもさ、ペレストレインが誰かを言葉巧みに操り、思いのままに動かす。これほど奴に似合わなそうなことがあるか?」
「それは…。」
「確かに…。」
「そこで俺はこう考えるのさ。ペレストレイン自身も誰かの言いなりになってしまっている、と。」
「…!そんなことが。」
「ありえないとは言い切れない、だろ?ペレストレインが操られているとしたら、ザンが操られたのも納得がいくし、今回の狙いが敗走の可能性がある。」
全ては、ザンでもペレスレインでもない第三者の意思が介入しているから起こったこと。
そして、今回の狙いが敗走だと仮定すると、
「俺たちはその敗走を止めなければ勝利することは難しいだろう。よって城の攻略にも人員を割かなければならない。」
「そういうことですか。」
「相変わらずギリギリの戦いね。」
「まあそういうわけで、エレメント兵に対してはテルルが、ファントム兵に対してはアカマルが指揮をして対処してくれ。俺たちはその間に城に乗り込む。」
「わ、わかったわ。」
「承知しました。」
二人の頼もしい声を聞いて、俺は安心する。
頼りになる部下を持ったものだと。
さて、城へ攻め入るメンバーはどうしようか。
騎馬隊は突撃隊として向かい、エレメントの魔法使いには魔導隊で対処する。
そしてエレメント傭兵に対応するのは
「相手ができそうなのは、レイ、俺、ユーバあたりかな。速さで言えばレイの加護だな。」
となると、レイの加護で早々に無力化してしまった方がいいな。
そして、エレメント城に残っている強い奴らにうまく対処し、ザンとペレストレインを捕らえる。
ここまで言ってミッション完了だ。
厳しい戦いだが、やるしかない。
俺は覚悟を決めると、
「では、指示通り動け!!」
最後の大作戦を開始したのだった。
エレメント城内。
ペレストレインが大声を立てて笑っている。
「アハハハハハハハ!!!この国は僕のものだ!!ああ、楽しいな楽しいな!ああ何をしようか何をしようか!」
楽しそうに、狂ったように笑い続けるペレストレイン。
だが、今やザンすらもその奇行に対して何も言わない。
ザンを従えた。
これはエレメントという国家を手中に入れたも同然である。
エレメントの全てはペレストレインのもの。
その事実が今彼にとって喜ばしくて仕方がない。
「目障りなクロノオには消えてもらって、早くこの国を楽しもう!!」
「ペレストレイン様。」
「…ん、ああ?カテールか?」
カテールが呼びかけると、ペレストレインは機嫌を損ねて、
「俺は今とてもとてもとても!楽しい気分なんだよ!それを邪魔するなんてふざけてるのか?お前の主君は誰だ?俺だ。そう、俺だよ!!それを邪魔するなんて家臣失格じゃないか?」
「申し訳ありません!!」
ペレストレインの機嫌を損ねぬよう、カテールは平身低頭で接する。
「ですが、どうしても伝えなければならないことが。」
「…まあいいさ。家来の意見を聞くのも主君の務めだ。言うがいい。」
「ええ、そろそろエレメント城を出る時間でございます。御支度を。」
その言葉を聞いたペレストレイン。
彼が何を言おうとしているのかを理解すると、思わずカッとなって近くにあった皿を投げつけた。
「ふざけんなよ!!!俺は今この城でいい気分なんだよ!そんな俺の気持ちを尊重してくれないと困るわけ!!なぜここから引き剥がそうとする!ふざけんなよ!ふざけんなよ!ふざけんなよ!!」
「ですが、まだグルーム様の埋葬が終わってません。彼があのまま砦で転がってしまっているのは浮かばれません。どうか…!!」
カテールが必死の懇願をする。
初めはそれを全く聞いていなかったペレストレインだが、グルームの埋葬という言葉を聞いた瞬間、少しだけペレストレインの考えが揺らぐ。
———確かにあいつの埋葬もしなければ。
一瞬でもペレストレインがそう思ってしまったら遅い。
思考は汚染され、全ての彼の行動は制御される。
「…わかった。グルー、むの埋葬は、確かに大事だ。」
「そうでしょう。今すぐいきましょう。」
ペレストレインを洗脳し終わったカテールはニヤリと嗤いながら、そのまま紫色の魔法陣を出そうとして、
「ペレストレイン様!ほ、報告が、」
「後にしろ!こっちは忙しい。」
突然エレメント城大広間に入ってきたファントム兵の一人が、慌てながらこちらに報告しようとする。
だが、それをカテールは一括する。
今はそんなことにかまっている場合ではない。
クロノオの奴らがくる前にペレストレインをこの城から遠さげなければ。
そうしなければカテールの、カテールとテーラードの作戦は失敗してしまう。
だが、もう時はすでに遅し、
ひゅん
「なっ…!!」
微かな音がなったかと思うと、一本のナイフがカテールとペレストレインの間に飛んでくる。
思わず飛び退いたのでペレストレインから離れてしまった。
ペレストレインから離れてしまったら、魔法を発動できない。
「何を…!」
カテールはナイフが投げられた方を見やり、驚愕する。
そこには、
「さて、決戦といこうか。」
たった四人の少年少女がこのエレメント城に乱入してきたのだった。