一章 第十二話 クロノオ軍事訓練
軍師になってから一週間が過ぎた。
ここでの生活はとても快適だ。
軍事棟の3階に俺の部屋が用意されていたのだが、
とてつもなく広い。
ヒャッホーウ!と言って布団にダイブしたのは秘密である。
世話係の人がいろんなことをやってくれるし、食事も出てくる。
ホームレス生活と比べれば天国のようだ。
この一週間、俺はこの国の軍について主にメカルから学んでいた。
「クロノオは大陸の北東部に位置していて、国の規模といたしましては小国です。そして、今回戦うべきシネマ国との国力差は1.5倍ほどあちらが上です。」
なるほど、1.5倍か。
こちらは兵を1万用意できると言った。
となると相手の兵は1万5千。
だが、恐らくこの世界の兵法はまだ途上。
余裕で勝てる気がするのだ。
それに戦争まではあと一ヶ月あると考えられる。
その間に、兵に戦法を叩き込ませる必要がある。
今日は、この世界の軍隊というものを見せてもらうため、徴兵された兵と顔合わせをすることになっている。
兵にも俺たちを認識してもらわなければ困る。
命令に逆らわれたら元も子もないからである。
クロノオ広場。
普段は買い物客で賑わうところも、戦争の際には軍の召集場所になる。
そして今日も、クロノオ広場に沢山の兵が集まっていた。
「…なるほど、これが一万の兵か。」
俺は想像以上に多い1万という数を前にして少し驚いていた。
「どうだね。我が軍は。」
そう俺に話しかけてきたのはクロノオ国王グランベル・キング・クロノオである。
俺は跪いて言う。
「ハッ!素晴らしき軍でございます。グランベル様。」
ちなみに、俺は軍部の中で最高の地位を持つ軍師なので、様呼びをしなければいけない相手はこのグランベル王以外いない。
「ははは!お主の目から見て、これからこの軍をどうすればいいと思う?」
グランベル王は他人の前では威厳を保っているが、俺の前だとなぜか友好的だ。
気の良いおっさんみたいな一面を垣間見せる。
「…進言いたしますと、この者たちは兵法、そして軍が一つの生き物ということを理解してはおりませぬ。そこをこの一ヶ月で教育させてもらいます。」
そう、前回のシネマ国への敗因はこれなのだ。
グランベル王もそれなりに戦術には詳しい。
しかし、兵士がそれをまるで理解せず、ただ突進してしまうような輩も出てしまう。
そのせいで、クロノオが負けて、勢いに乗ったシネマ国の兵が俺たちの村を…。
思い出しただけで寒気がする。
グランベル王は豪快に笑って、
「よかろうヒムラよ!お前がこの軍を一つの生き物たらしめてみせよ!」
「ハハッ!」
俺はもう一度跪いて、礼をしながら決意する。
俺がこの軍を最強にしてやろうではないか!
「俺はこの度軍師となった、ヒムラだ。」
俺はクロノオ兵に向けて演説中である。
ちなみに、拒否していたテルルの拡声魔法を無理言って使わせてもらっているのだ。
テルルは反抗期なのか?
「皆には軍師というのが何かは知らないかもしれないが、つまりは軍を、兵を動かす人のことだ。王の大義ある仕事を取って代わらせていただいた。」
俺は、威厳を示すように兵に向けて言う。
というか、こうでもしないと子供の俺では舐められてしまうからだ。
心の中で小さくため息をつきながら、続ける。
「つまり、お前たちは俺の命令で手足を動かすことが重要となる!肝に銘じろ。」
こうやって声を張り上げてみたりもするが、効果はあるのだろうか。
見ると、兵はみんな大声を上げて俺を称賛している。
おお!いい反応だ、と思ったが…
俺は気付いてしまった。
アカマルが『扇動の加護』でみんなの気分を上げているのだと。
アカマルを見ると、「やべっ!気付かれた」みたいな顔をして、決まり悪そうに加護の効果を切る。
そうだよ、アカマル。
この加護は強力な反面、冷静さを失わせる能力がある。
俺が軍師とは何かについてしっかり兵に覚えてもらおうと語っているのに、それをしてもらったら困る。
あとで説教だな、あいつ。
「…っと、じゃあ、軍部の精鋭たちを紹介する。」
そういうと、軍部のみんなが一列に並んで、自己紹介をする。
「クロノオ将軍、アカマル!」
「クロノオ歩兵部隊長のユーバだよ。」
「クロノオ騎馬隊長、ドルトバだ。」
「クロノオ魔導隊長、テルル!」
「暗部担当、ロイ」「レイ」
「知識補佐担当、メカル!」
「外交担当、ユソリナ!」
ちなみに、魔法使い隊はなんか語呂が悪いので、魔導隊にしてもらった。
俺は一歩前に出て、言う。
「こいつらはお前らの上司だ!そして戦友である!命令は絶対だ!以上!」
そう言うと、俺はくるっと回れ右して、後ろに向かって歩く。
軍部のメンバーも、それに続く。
全てパフォーマンスだ。
このまだ生まれて間もない軍部を印象付けるためには、兵たちに軍部を畏怖してもらわなければならない。
さて、これからアカマルをみっちり絞って、そのあと軍事訓練だ。
軍部の面子が去ったあと、兵たちは会話していた。
「あのヒムラ様。子供なのに怖かったな。」
「ああ、俺たちはあの方の命令で手足を動かせとか…。」
「今まで考えなしに相手に突っ込んでたが、それをヒムラ様は変えるおつもりらしい。」
「なるほど、聞くに、軍師試験は全問正解したらしい。」
「ああ見えてとても軍に対して造詣の深いお方なのかもしれない。」
「ああ、俺たちはきっとヒムラ様の手足として動くことになんら疑問を持たないさ。」
「アカマル!」
「はいいいっ!」
という微笑ましいやりとりを終えて、俺たちは軍事訓練をしていた。
…アカマル、意外とビクビクしていたな。
今は、歩兵隊、騎馬隊、魔導隊に分かれて軍事指導だ。
アカマルやメカルは俺の隣。
ロイ、レイは連携の個人練習。
ユソリナは兵のために飯を作っている最中だ。
まさかここでも小麦汁か!?と怯えていたが、どうやら肉らしいので、一安心。
「俺のこの矢印を見て動いてね。」
そう言いながら光の矢印を作るのは、ユーバだ。
事実、これでうまく連携が取れるようになるだろう。
大した加護だ。
歩兵隊は今、100人で1グループになってもらっている。
この100人を一つのグループとして動かす。
矢印1つにつき1グループだ。
これによって、陣形変形が容易になる。
あとは、兵が矢印に従うようにきっちり教え込まなければならない。
それはユーバがやってくれるだろう。
兵はそれぞれが矢印の方向に動いてはいけない。
みんなで歩調を合わせ、他のグループと一緒に動かなければならない。
ユーバには予めそれを教えておいたが…。
「ああ、ダメだって、グループの間に隙間をつくっちゃいけないんだって。敵が入り込んでくるじゃん。」
とユーバが注意する。
まあ、頑張ってくれている。
ユーバが子供であるので、兵になめられるかと思ったが、俺の演説が効いたようで、兵はしっかり耳を傾け、ユーバ様と呼んでいる。
さて、俺は騎馬隊長のドルトバの方に目を向ける。
ドルトバはというと…
「がはは!これが俺の技だ!」
とか言って、流鏑馬をみんなに披露していた。
いや、連携を教えるための時間なんだけど…。
まあ、騎馬隊はそんなにきっちり隊列を組まなくても良いし、個人の技量も多くある。
ドルトバはあとで注意しとくだけでいいかな。
魔導隊長テルルの方に目を向けると、魔導隊それぞれの魔法の指導をしていた。
というのも、俺は魔導隊について新しい使い方を提案したので、それを教えてもらっているのだ。
それは、環境変化。
つまりは、自分たちに有利な地形を作ってもらうのだ。
この世界の黄魔法が、地形に関与する魔法らしくて、それを集団魔法として使うと、小さな丘を作ったり、逆に丘を更地に変えることができる。
斜面での勢いというものは兵の力となる。
それをテルルに提案すると、
「…っまあ、あんたにしてはいい案なんじゃない。」
と、渋々了解してもらったが、できればツンデレであって欲しいな。
というわけで、テルルが兵それぞれに黄魔法の指導をしているところだ。
ちなみに魔導隊は兵と言っても、女性が多く、ローブのようなものを羽織っているのだ。
これは、男性はほとんど歩兵隊として徴兵されるからだ。
だが、これでは魔法の才能のある男性を潰してしまうので、近いうちにこの制度を排除したい。
徴兵する兵とは別の精鋭を集めた隊を作りたい。
便利な加護を持つ奴らを集めたような。
どうやらメカルに聞くと、
「例えば南には、100人で10万ほどの軍を圧倒できるほどの精鋭揃いの隊があるのです。」
と、このように、わりかしこの世界は個人の強さで戦局が変わるようなことも多いらしい。
精鋭を揃えた方が、コストも少なく強い。
とまあ、これからの展望に思いを馳せながら、俺は来たるシネマ戦に向けて準備を進めていくのだった。
実は先日、さりげなく題名に英語表記付け足したのですが、それのおかげか週別ユニークユーザが100人超えました!
かなり嬉しいですね。
ちなみに英語表記はそれっぽい単語を並べただけです(笑)