二章 第八十五話 続く戦争
「なるほど。それで俺が呼び出されたわけですね。」
場所はエレメント城前。
なきほどから俺の説明に対してうなずいているばかりだったアカマルが初めて言葉を発する。
「そういうわけだ。」
「じゃあ、これからはエレメント城を攻め落とすこと一点に集中すればいいのですね。」
「ああ。」
そう、俺たちは今エレメント城を落とそうとしている。
まあ理由は色々とある。
一つはエレメント城の中に予備として雇われていた傭兵が五千名ほどいるからだ。
彼らを武力で制圧できると示さなければエレメントを降伏に持ち込むことは難しい。
…まあそれでも本城を落とすということは高い確率でエレメントという国家自体がクロノオに編入される可能性が高いので、降伏するまでもないのかもしれないが。
そして二つ目の理由は、
「それでヒムラ様。ここにファントム兵とペレストレインが逃げ込んだというのは本当なのですか?」
レイが静かな声でそう聞くが、声にはいくぶんか怒りの感情も含まれていた。
そんなレイを見て俺は申し訳なさそうに目を伏せ、
「本当だ。」
「…っ。わかりました。敵は必ずや。」
「ああ、頼むよ。」
そう、今俺たちの前にあるエレメント城の中に、ファントム兵の残党が残っているのだとか。
アカマルたちが数を減らし、今では1万ほどの兵しか残っていないらしが。
それでも脅威となりうる。
それに、レイの本当の敵であるペレストレインがまだ生存している。
彼を打つことがレイの悲願と言っても過言ではないので、俺たちはこのエレメント城を攻めるほかない。
だからこうして、アカマルたちをファントムの盆地からエレメント城の前に呼び出したわけだ。
二日もかけてファントム攻略組に情報を伝えてくれたユーザリア君には感謝しかないな。
「さてと…。」
皆の方を見てみると、まあそれは面白い光景が広がっていた。
ロイの元にいたグランベルとマーチが再開し、ここ数時間グランベルはマーチによるヘルスチェックを受け続けている。
ずっとマーチはグランベルの体を弄りっぱなしで、それを無言で受け入れているグランベル。
正直二人の関係に戦慄せざるを得ない。
また、調子に乗ったユーザリアが「白竜の剣」を傭兵団だと思い、クラリスに喧嘩をふっかけて、今は決闘をしている。
まあ横目で見る限りはユーザリア君はボコボコだね。
そしてそれを煽てる志願兵たち。
まあ一見宴会のような雰囲気が現れていたが、ここは戦場である。
気を緩めてはいけない。
一応ロイなんかをエレメント城に潜伏させて、情報を抜き取らせているが、それでもやはり不安は拭えない。
エレメントとファントムが手を組む。
ザンとペレストレインの仲の悪さだったら、そんなことはあり得ないと考えている。
もちろん条約を結んでたりはしていたが、それも形だけ、お互いの利益のために利用する感じだったからな。
他国の軍を城の中に入れるほど、ファントムとエレメントは仲がよかったっけ?
そこに疑問を感じているからこそ、今回の事態は少し不気味だ。
手を結ぶとは考えにくい二国が共闘している。
二国の間に何があったのか想像もつかないからこそ、どこか得体の知れない感じがする。
それが少し怖い。
まあでも、ただそれだけの話だ。
この戦いを打ち破り、ファントムとエレメントとも蹴りをつけなければならない。
やってやろうではないか。
今こちらの戦力は、
クロノオ徴兵隊八千人、どうやらファントム戦で5分の1を失ってしまったらしい。
彼らは後で弔わなければならない。
そしてクロノオ志願兵三千人。
魔導隊も歩兵隊も騎馬隊も損害は少なく、ほとんどの人が生き残ってくれた。
そして、頼もしいことに外部からの部隊が三つも来ている。
一つはその中でも最も頼もしい「白竜の剣」五百名だ。
ファントム戦では死者どころか怪我人すらいない状態での生還だ。
さすがヨルデモンド直属の騎士団ともいうべきか。
そしてもう二つは、シネマ兵とルーン兵だ。
彼らには説得後、こちらの戦争に加担してもらいたいと俺が申し出て、了承をもらったのだ。
シネマ側はもともとクロノオ側だったし、ルーン側もクロノオ優勢という情報を耳にした途端掌をひっくり返してこちらに加担したわけだ。
どうもフェローの人となりが疑われるエピソードだが、小国なりのやり方なのだろう。
そこらへんは目を瞑る方針でいる。
「さてと…。」
皆が楽しそうにしているのを尻目に、俺はエレメント城を観察する。
エレメント城は周りを湖に囲まれた、非常に綺麗な場所だった。
攻め落とすのももったいないくらい。
ちなみにエレメント城の城下町とかはシネマ兵やルーン兵に見守らせている。
エレメント市民が徒党を組んでこちらを外側から攻撃、なんてこともありえるしな。
エレメント市民に対する略奪などは禁止した上で監視をさせている。
略奪するくらいなら、正式に賠償金を頂こうというのが俺の考えだからな。
湖に囲まれた城、エレメント城。
うまく堤防を作って水攻めをすれば簡単に落とせそうではある。
だが、もっと早い方法があるはずだ。
水を利用して相手を降伏させる方法。
頭に浮かんだ数々の戦法を取捨選択する。
そして、
「…これだな。」
ある一つの作戦を思いついた。
簡単だし、早い。
ただ一つの懸念事項が、俺たちの歩兵隊などを使う必要がなくなるということだが…。
まあ少ない損害で勝てる可能性があるというだけでも素晴らしい案だろう。
「おいユーバ。」
「…ん?何ですかー?」
一番近くにいた暇そうなユーバに声をかけて、
「皆を集めてくれ。作戦会議がしたい。」
エレメント城内。
「貴様城にあげてやったというのになんたる態度だ!」
「うるさいぞ老人。俺はこの目がおかしくなりそうな城が大嫌いだと言ったまでだ。」
「この、…!この美しさがわからないと!?それは面白いワハハ!!」
「何を…!!!」
二人を鉢合わせたら、当然こうなる。
ファントムの国王ペレストレインと、エレメント語り役ザン。
なぜ仲が悪いのかは誰にもわからない。
まあ普通に気が合わないだけだとは思うが、
「だいたい貴様、クロノオに負けたのだろう?共闘を持ち出した側が負けるなぞ、考えられんわい。」
「お前こそ雇った三千の兵と魔法使いたちを見捨てて、ツラの皮が熱いもんだよなあザン。」
「ふん、あんなものゴミにも満たない奴らよ。」
「だから負けるんじゃないの?」
「貴様に言われたくない!!!」
醜い言い争いはなお続く。
本当になぜ、エレメントがファントム軍を城にあげたのかわからなくなるほどに。
そして二国が何とかやれている一番の原因は、
「おやめくださいザン様。今は戦争中であります。」
「ペレストレイン様。どうか気をお静めください。この城から早く出るためにも、このクロノオ軍の包囲は突破せねばなりません。」
カテールとテーラード。
二人のそれぞれの腹心がそれぞれの主をなだめる。
この二人がいなければファントムがエレメント城に入れることはなかった。
何とかカテールがテーラードを通じてエレメント側の承諾をもらったのだ。
そして、その言葉を聞いたペレストレインとザンは、
「ふん。」
「はあ。」
二人ともお互い睨み合いながら矛を収める。
二人とも今は争っている場合ではないと悟ったのだろう。
そして頑固な二人を説得して見せたことからも分かるように、カテールとテーラードはそれぞれの主に絶大な信頼を置かれている。
特にグルームを失って放心状態だったペレストレインにとって、カテールの存在は大きかっただろう。
そして、その様子を見届けたカテールとテーラードは、お互い目を合わせる。
そして、凶悪な顔で笑った。
———作戦は進みつつあると。
そういえば活動報告なるものを初めて書きました。
正直何も書くことが思いつかなかったので、神速の軍師の裏話を少しだけ書いてます。
多分気が向いた時に裏話的なものを投稿すると思うので、よかったら見てください。
後今後の展開とか強さとかその他もろもろ神速の軍師に関する質問は受け付けていますので、何か疑問点があれば活動報告にてお答えします。