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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第八十四話 対エレメント10

 クロノオ魔導隊千名にエレメント魔法研究員三千名。

 

 数的には圧倒的にエレメントが上だし、魔法の能力もエレメントが上だ。

 だけど、クロノオ兵は短剣の扱いを心得ている。

 ロイ・レイという達人顔負けの短剣使用者から技術を習得しているのだ。

 

 よって、単純な戦闘ではクロノオの魔法使いの方に軍配が上がる。

 

「クソッ、貴様それでも魔法使いか!?」

「剣を下ろせ!魔法で勝負を!!」


 エレメントの魔法使いが何か言っているが、戦争では等しく無価値な戯言だ。

 魔法使いは魔法しか使ってはいけないというルールはない。

 短剣でも何でも使って、勝利を掴み取るものだ。

 それができないのであればエレメントも所詮そこまでの国だったと。

 

 テルルはそんなことを一通り考え、考え方がヒムラに似てきたなと苦笑する。

 

「クソ、早くそんなやつらは片付けろ!」


 ザンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 いよいよ本気で状況の酷さを悟ったのだろう。

 

 クロノオの魔導隊がエレメント魔法研究員に勝ててしまいそうだということを。

 クロノオの魔導隊を倒すには、エレメントの傭兵たちにこちらの相手をしてもらわなければならない。

 そうするとクロノオの歩兵隊に後ろから追撃され、エレメント傭兵は壊滅を免れないだろう。

 

 盤上はすでに詰んでいる。

 あとは頭を倒すのみ。

 

 テルルは戦場を駆け抜け、ザンの元に向かう。


「…!ほう…貴様がクロノオの指揮官か。」


「そうよ。」


 ザンは突然現れたテルルに少し驚いたが、十才ほどの少女であるとわかると途端に余裕の笑みを見せる。

 テルルに負ける気がしなかったのだろう。


 だが、


「ならばすぐに消えろ!!「氷河永結(IceStick)」!!!」


 赤魔法の中では扱いが難しいとされる、氷系統の魔法。

 赤魔法は温度を高めたりする方向に使われがちだが、温度を下げて氷を作り出すこともできる。

 ただし難易度は温度を高めるのよりかは幾分か高い。


 それを瞬時に発動するザンの魔法の能力は高い。

 不意打ちとして放たれた魔法陣からエネルギーがあふれ、そこから作り出された氷河が豪速でテルルに向かうが、


「…これが本気なの?」


「…クッ!」


 悲しいかな、テルルには簡単に見切られてしまう。

 

 魔法を発動する前からその威力や方向の全ての情報をテルルは見切ることができる。

 それに体に少しだけ魔力を付与することによって身体能力も上げることが、今のテルルにはできる。

 全て『魔道の加護(マジカルセンス)』を使えば造作もないことなのだ。


 余裕の表情でザンに向き直るテルル。

 そして、彼女が只者ではないと悟ったのだろう。

 ザンが覚悟を決めたようにテルルを睨む。


 だが、


「ねえ、あなたは何でクロノオを支配しようと思ったの?」


「…は?」


 テルルの少し場違いな発言に、ザンは拍子抜けする。

 戦闘の最中だというのに、呑気なものだ。

 ザンは少しテルルを哀れに思う。


「そんなこと、三ヶ月前ほどに言った気がするのだが?」


「クロノオと貿易をすれば利益があるから、でしょう?なら、あの時何で私たちを騙そうとしたの?」


「…。」


「普通に貿易をすればよかったものを、何でわざわざ姑息な策まで練って、戦争なんかして、そんなにもクロノオに固執する理由は何?」


「…。」


「クロノオにある塩や水車、その他様々な品は全てヒムラが作ったものよ。つまりあなたたちが利益を得るには、正確にはクロノオではなくヒムラを手に入れなければならない。でも、もしエレメントが戦争で勝ったら、ヒムラは死ぬかもしれない。そうすればエレメントの利益はないわよ。」


「…。」


 テルルが今まで疑問に思っていたことを全てザンにぶつける。


 まず、なぜこちらを騙すような真似をしたのか。

 鉱物の価格上昇やファントムとの条約など。

 それがなければクロノオはエレメントと普通に貿易して、普通にエレメントはクロノオの利益を得ていたはずだ。

 そして、交渉が決裂してもまた交渉しなおせば位だけの話で、戦争なんて何の利益も生み出さないものをするべきではない。

 そして、それに気づけないほどザンが愚かだとは、テルルは思えない。

 彼は戦略を立てるのは苦手だが、政治的取引なんかは上手い方だ。


 そんな彼が、いったいなぜ?


 ザンはテルルの問いかけに対して、終始無言だ。

 ずっとふらふらと視線を彷徨わせている。

 まるで、自分ではない誰かと葛藤するように。


 そして、テルルはザンにさらに言葉を投げかけようとし、


「それ以上はなりません。」


「…!!」


 ザンの脇に急に人が現れる。

 加護使用中のテルルだから間違いなく悟った。

 今人が現れたのは魔法によるものだ。


 透明になれる魔法、もしくは瞬間移動できる魔法のようなものか?

 

 そしてその魔法を使ったであろう人は、ザンを見るなり跪いて、


「ザン様一の家臣。テーラードがお迎えにあがりました。」


「…おお、テーラードか。」


 少年のような体格の青年が、ザンに向かってそう微笑んだ。




「あなたは、エレメント側の人間なの?」


「ええそうですよ愚民。」


 その少年はテルルに対して尊大な態度を崩さず、そう言った。


 確か彼はザンの家臣と言っていた。

 ならば、なぜ彼はここにきたのだろうか。


 悩むテルルだが、程なくしてその理由はわかる。


「では、ザン様、いったん城の方に戻りましょう。」


「…ま、待て!まだ戦争は終わって、」


「この状況を見て、まだそれが言えるのですか?」


「…。」


 そう言ってテーラードはエレメント兵たちが戦っているところを指差す。

 そこには、どんどん倒れ出しているエレメント兵がいた。

 誰が見ても、結果はクロノオの勝利だ。


 その状況を見て項垂れるザン。

 もうどうしようもないことを悟ったらしい。


 そしてその状況を見てため息をつくテーラード。

 

「では、ザン様だけでも城にお連れします。いますぐ御支度を。」


「ああ、いつでも準備はできている。今すぐ貴様の秘儀の魔法で私を転送してくれ。」


 二人は同意し、テーラードが魔法の準備をする。

 このままでは、この二人を逃してしまう。

 それが危険であることを悟ったテルルが、


「「暴風雨地帯(StormArea)」!!!」


 足止め用の魔法を瞬時に放つ。

 この暴風雨に呑まれたら例えヒムラでも簡単には抜け出せないだろう。

 その暴風がザンとテーラードを包み、


「ふん!」


 テーラードが手を暴風の前に突き出す。

 それだけで暴風雨が消失した。


 あり得ないことだった。

 テルルは目の前の光景を信じられず、言葉を失っていると、テーラードはゴミを見るような目でこちらを見て、


「はあ、だから愚民は嫌いだ。愚かで救えない。僕にそんなことをやっても通じるはずがないさ。今ので分かったでしょう?」


「…いったい、あなたは…?」


 これほどの戦士、少なくともテルルの魔法を一瞬で無力化できる戦士ならば、有名であってもおかしくはない。

 だが、テーラードなる人物はメカルの加護を持ってしても見つけることができなかった。

 目の前の彼は一体何だというのだ。


 テーラードはこちらを見てつまらなそうに鼻を鳴らすと、


「ザン様一の家臣、テーラード。…今のところはね。」


 そう言って嗤ったのだった。

 そのままザンを抱えて、


「「転移(Transition)」!」


 紫色の魔法陣が二人を包み込む。

 そして次の瞬間、二人は世界から消失した。

 誰もいなくなった空間をテルルは呆然と見つめる。


「今の魔法、…いや、まさかね。」


 頭の中に現れた想像をテルルはかき消したのだった。




 その後、エレメント軍は壊滅。

 残ったものは殺されるか、クロノオに降伏し捕虜となった。


 そして戦争終結からおよそ半日後、ヒムラが帰ってきた。

 どうやらうまくルーンとシネマを押さえてきたらしい。


 だが、


「まさか、ザンに逃げられるとは…。」


「ごめん。」


「テルルの責任ではない。さすがに予想できなかった。」


 珍しくヒムラに謝るテルルを、ヒムラが優しく受け止める。

 そして、


「今から、エレメント城に向かう。」


 ヒムラは今後の動きを決定したのだった。




これでエレメント編終了です

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