二章 第八十三話 対エレメント9
エレメント編は9話で終わるはずだったのですが、10話までかかります。
あとヒムラの絵ですが、もう少しお待ち下さい。
色々と忙しくて、書く暇がないのです(泣)
『魔導の加護』
それが新たなテルルの加護だった。
人生初の加護に喜びたい気持ちもあるが、なぜだか腑に落ちない点がある。
こんなにもあっさりと加護を獲得してもいいのもなのだろうか。
加護とは本来、並大抵でない修練とそれを望む心、基礎体力などが必要とされる。
子供の頃にまぐれで手に入れることだってあるが、テルルは子供と言える年齢ではない。
それに、この加護の懐かしい感じ。
昔からテルルのそばにいた気がするのだった。
いやいや、とテルルは頭を振って思考をリセットする。
今はそんなことを考えている場合ではない。
メカルに加護の詳細を聞かなければ。
「それで?加護の能力はどうなっているんですか?」
「そうですね。大きく分けて二つあります。」
「二つ!?」
二つも能力がある加護なんてあるのか。
さすがネームドといったところか。
「いえ、二つというのは使い方の話です。もとを辿れば一つの能力にたどり着きます。」
「…なるほど。じゃあ、その大元の能力は?」
「常軌を脱した魔法センス、が獲得できるようです。」
「…それは…。」
何とも曖昧な能力だ。
常軌を脱した魔法センス。
魔法センスとは何だろうか。
魔法が使いやすくなるのか?
「…まあ使い方としては主に2種類あります。」
困惑しているテルルをみて話を変えよう、とメカルは指を二本立てて説明を再開する。
「一つは魔法が使いやすくなるということです。魔力操作の感覚が跳ね上がるでしょう。」
「なるほど、では二つ目は?」
「二つ目は、魔力の探知です。」
「魔力の探知?」
やはり聴き慣れぬ単語にテルルは困惑する。
それにメカルが説明を加える。
「つまりは、魔力というエネルギーに対してとても敏感になれます。おそらくはどこで魔法が発動されるのかとかが肌で分かるようになるでしょう。」
「じゃあ、あのエレメントの攻撃にも…!」
「そうですぞ!テルル殿は気付くことができます。」
魔力の動きを探知できれば、隠蔽された魔法陣の存在にも気付ける。
能力だけ見れば、この状況の打開案としてはこれ以上ないものだ。
だが、
「その感覚を皆に共有することは…。」
「できかねます。そのような能力はテルル殿の加護ではできませんし。「思考共有」というスキルをテルル殿は持っておらぬでしょう。」
「…ユーバに伝えて「思考共有」してもらうとかは?」
確か彼は新たなスキルとして「思考共有」を獲得していたはずだ。
だが、これにもメカルは首を振り、
「「思考共有」は、相手もそのスキルを持っていないと使えません。兵に命令を飛ばすとしても、兵の中で「思考共有」を持っている者は少ないです。」
「そうですか…。」
ならば打開案は一つ。
テルルが必死に皆に伝えなければならない。
本音をいうと、少し嫌だ。
自分を信じてもらおうと行動することは、自分が嫌われる可能性も含むということだ。
それを知った今、少し臆病な気持ちになってしまうのも無理はないだろう。
でも、そんなことは今更だ。
もう決めたのだ。
信じてもらうために、背中を預けてもらうために、言葉を尽くすと。
「ならば、私が全て皆に伝えます。」
「…一つ忠告しておきますが、おそらく大変でしょう。全軍に瞬時に命令を行き渡らせるなど、ヒムラ様くらいしかできないようなことですぞ。」
「…大丈夫。それでも私はやらなければならない。」
テルルが決意に満ちた表情をすると、メカルは少し驚いた顔をし、
「変わりましたな…。」
誰にも聞こえないように小さく呟いたのだった。
加護を使用する。
自身の中の神々しい能力に対し、その力を解放するよう要求する。
自分の中にあるのに、こうやって問いかけならなければならないのはなんか変だ。
テルルはそんな些細なことで少し顔を綻ばせ、加護を解放する。
その瞬間、世界が変わった。
魔力というもの、魔法というもの、全ての概念が肌で感じ取れる。
今まで未知のエネルギーと呼ばれていた魔力が今は目と鼻の先だ。
あまりにも膨大な情報量にテルルは思わず気を失いかける。
魔力というもの一つ一つが全てテルルの脳内に送り込まれるのだ。
それを取捨選択して、必要な情報を抜き取らなければならない。
テルルは深く思考し、
目を見開くと、
「三番!退避!!」
「「「、はい!!」」」
いきなりの命令に少し戸惑いを見せた兵たちだが、テルルの真剣な様子をみて一時退避する。
そして、それを追撃しようとさっきまでクロノオ兵のいたところに飛び込んでいくエレメント兵。
「ならぬ…!」
ザンがそれをみて叫ぶも時すでに遅し。
エレメント兵の真下で炎が燃え上がる。
「「「ああああががっがががが!!!」」」
灼熱に身を焦がすエレメント兵達。
それをみたクロノオ兵は顔を青ざめさせると、テルルをみて、
「ありがとうございますテルル様!!」
「一生ついていきます!!」
テルルに感謝する。
そして、テルルは気付く。
こんなに簡単なことなのか。
誰かと信頼を結ぶ、手を繋ぐということは。
そして自分にはそれができるということをテルルは再確認し、
「じゃあ、最後離脱!!これで作戦完了!!」
最後の命令を下し、第一作戦を終了する。
「クソッ!!」
ザンは一人地団太をふむ。
今のところエレメント兵はクロノオ兵を押しているように見える。
だが、実際はエレメント兵とエレメント魔法使いとの間に距離ができてしまっている。
このままではその間に敵が滑り込んできてしまうのだろう。
接近戦では一般人と同じレベルであるエレメントの魔法研究員がクロノオ兵と戦えるわけがない。
だが、とザンはさらに思考する。
「今クロノオ兵はうちの傭兵の相手で手がいっぱい。この状況で我ら魔法使い攻撃のために回す兵などあるのか?」
状況的にはエレメント兵が押しているのだ。
あちらが力を隠しているのならばともかく、この状況でクロノオ兵をこちらに回す余裕なんてないはずだ。
「所詮はあのヒムラではないということか…。」
ヒムラという人物が狡猾であることは、エレメントに本気を出させたという点でザンはそれなりに評価している。
彼ならば、こんな失態は侵さなかっただろう。
あの少女には、ヒムラほどの技量はなかっただろう。
だからこそ、ザンは安心する。
勝利は確実だと。
ルーンとシネマによってヒムラをエレメントの戦場から引き剥がせた点でこちらの勝ちだ。
「ザン様!!!」
「何だ?」
ふと、部下の一人が困ったようにこちらをみた。
その顔にザンは嫌な想像が頭に浮かび、
「クロノオがこちらの魔法を見破っています!!」
「何じゃと!?」
「うまく誘導して、エレメント兵に当てているようです!!」
「そんなことができるのか!?」
嘘だ。
エレメントの魔法技術は世界有数だったはずだ。
たかだかクロノオ如きがこちらの隠蔽魔法を破れるはずなんてないのだ。
それがどうして!?
ザンの理解は追いつかない。
さらに、
「あれは何だ!?」
「師」の一人が声を上げる。
彼は驚いたように見る先には、
「まさか…。」
千名ほどの集団がこちらに向かってくる。
それもかなりの勢いで。
その勢いに圧倒されていると、すぐにその一行はこちらに近づき、傭兵と魔法使いの間に割って入る。
その集団は、
「第二作戦終了。これよりエレメントの魔法使い排除に動きます。」
テルルがそう命令するや否や、集団は皆短剣を構え出す。
そう、本来後方で待機をするはずのクロノオ魔導隊が戦力として担がれたのだった。