二章 第八十一話 対エレメント7
遅れて申し訳ありません。
これからは17~18時に投稿していくと思います
「僕はテルルちゃんの指揮権を絶対に受け取らない!」
いきなりとんでもないことを言い放つテルル。
「…どうしてよ!それじゃあ…。」
ユーバ指揮権を受け取ってくれなければテルルが軍を指揮することになる。
それで勝てるはずがあるまい。
「僕は…人の考えていることがわかるんだ。」
ユーバがいきなり衝撃的なことを言う。
人の考えていることがわかる?
何を言ってるんだ?
テルルは困惑しながらユーバを見る。
「それはどう言う…。」
「信じられないかもしれないけど、本当だから。」
ユーバは冗談を言っている風でもなく。
考えていることがわかる、か。
馬鹿みたいな話だ。
でも、そこに一抹の不安をテルルが感じずにはいられなかった。
そして…
「テルルちゃんは、指揮権を渡すことを拒んでいるはずだよ。」
心の奥底を鋭利な刃物で刺されるかのように言い当てられた。
「…どう、して。」
「テルルちゃんがそれを本当に望むならば、僕は指揮権をもらっても良かった。でも、嫌なんでしょう?」
「…やめてっ!」
「信じられないことが苦しいけど、やめられないんでしょう。」
「もういいの!これは皆のためなの!」
気づいていた。
もともとあった「信じられたい」と言う思いはすぐに消える物じゃないってことを。
いつまでもテルルの足かせとなる。
「私はここにいちゃいけないって、みんながそう言ってきた。村にいた時だって、魔法学校の時だって、今この瞬間だって———ッ!」
「…。」
「もうこんな思いをしたくない!馬鹿な私でありたくない!」
相手を信じれば、信じてくれると思っていたあの頃。
そんな思いを抱えたまま生きていくのはとても残酷だ。
だからテルルは諦める。
人は信じれる生き物ではないことを今一度胸に刻み、何処かに逃げてしまおう。
もう苦しみを味わいたくない。
もう悲しみを感じたくない。
そしてそれを聞いたユーバは少し考えるような顔をしながら、
「それでも、君はここにいるべきだよ。」
「…!」
テルルを許してはくれない。
あくまでもユーバから見たテルルの感情に基づいて判断しようとする。
そんなあやふやなもので、テルルを地獄に落とそうとする。
それを悟ったからこそ、テルルはキッとユーバを睨み、
「感情が読めるなんて言うけど、それは本当なの!?ただの勘じゃないの!?そんなことで…、っ!そんなことで!私を決めつけないでよ!」
「…。」
「私は、…!私、は、っ!」
語尾を弱めて、そのまま顔をうつむけてしまうテルル。
「…ほら、やっぱりそうじゃん。自分の中でも迷いがある。それがある限り、絶対に君は前には進めないよ。」
「あんたに何がわかるのよ…。」
「知らないよ。でもね、それを知ろうとしているんだよ。」
「…!!」
ユーバが柔らかくこちらを見る。
自分を知ろうとしてくれる。
そんな人物は今までの人生で一人もいなかった。
村の皆はテルルを目に入れることさえも嫌がる。
メイーシャはただあちらの利益のために関わりを持った。
魔法学校の皆は次第にテルルから離れて行った。
テルルのことを知ろうとしてくれる人なんて一人もいなかった。
「僕一人だけじゃない。みんなきっとそうだよ。兵たちだって、君のことをもっと知ればきっと信じてくれる。軍部のみんなだってそうだよ。それに、」
「…」
「ヒムラ様だって。」
「…!」
ユーバのその言葉で、テルルはハッとなる。
ヒムラ。
テルルが敵わないと悟った相手。
軍部に入って自分を認めてもらおうとした。
でも、その願いはある少年の前に崩れ去ったのだ。
軍師ヒムラだ。
初めはテルルはヒムラのことを認めていなかった。
普通の少年がまかり間違って軍部に入ったのだと思ったのだ。
だが、それは初陣であるシネマ戦で間違いであると証明された。
ヒムラは見事に格上のシネマに打ち勝ったのだった。
そこからテルルは、ヒムラを認め出した。
その背中を追いかけ、いつしか彼のようになりたいと思っていた。
そのためにヒムラから様々なことを学んだし、いろいろなものをもらった。
そのヒムラが、テルルを知ろうとしている。
テルルのことを信じたいと思っている。
その事実がテルルに一番衝撃を与えた。
あれほど自分の先を歩いているような人が、振り返ってみてくれていると知って。
その瞬間、テルルをいつも襲っていた孤独感から自然と解放される。
なんだ、今までずっと言われていたじゃないか。
様々な場面でヒムラから感謝の言葉を言われてきた。
今回だって頭を下げてまでこちらに指揮権を渡してくれた。
いろいろな場面で皆の信頼を感じていた。
でも、自分ばっかりのテルルはそれに気付けなかっただけだ。
なら、今からそれを治して行こう。
「…わかったわ。ユーバ、私はどうすればいい?」
どうすればいいのか。
曖昧なその質問の意味をユーバはおそらく正確に感じ取り、
「ただ言葉にすればいいんだよ。伝わらなくてもいい。伝えようと相手に強制するのはよくない。でもねテルルちゃん。思いを伝えようとする傲慢と、思いを言葉にする傲慢は違う。だから言葉にしてみて。それが伝わることを願って。」
「…」
年下とは思えないその意見に思わず苦笑してしまう。
ユーバとはそう言う人物だ。
普段は年相応な感じなのに、不意に奇妙な凄みを感じさせる。
なら…。
「わかったわ。」
それに従うのみだ。
エレメント兵とクロノオ兵は互いに凌ぎを削りあっていた。
お互いが一歩もひかず、ただただ泥試合が繰り返される。
クロノオ兵は、ただ命令を待っていた。
撤退のその二文字を。
だが、それがテルルから発せられる様子はない。
兵はテルルの命令を聞こうとしていた。
ただ、テルルの声が小さすぎて聞こえなかっただけだ。
それをテルルが勝手に勘違いし、勝手に落ち込んでしまったのだ。
だが、そんなことは兵たちが知る由もない。
「皆の者!!!」
少女の声が戦場に響く。
そちらの方向に期待の眼差しを向けるクロノオ兵。
そこには、普段使わない言葉を使って少し頬をあからめているテルルがいた。
「私はみんなのことを何も知らない。知ろうともしてこなかったかも知れないし、そもそも何をしていいのかもよくわからない。」
あれほどうずくまっていた少女が、今は勇敢に声を張り上げる。
皆に伝わることを願って。
「でも、私は皆を信じたい。だから…。」
「「「…。」」」
「信じて!ついてきて!私と一緒に行こう!」
「「「おおおーーー!!!」」」
戦場が歓喜に包まれる。
自分たちの指揮官が、立ち上がったのだ。
勝利を目指すと宣言したのだ。
ならば、兵たちがやることはただ一つ。
彼女の手足となって、彼女に勝利を捧げることだ。
「では、離脱!!!!」
彼女の最初の命令が響き渡った。
テルルが命令を下した時、ソレは起こった。
テルルの心の中の一つの小さな芽。
土壌が整い、進化が始まる。
芽は茎を伸ばし、葉をつけて、最後には花を咲かせた。
それを人々は、加護という。
幼いころテルルを苦しめた怪奇現象の根源は、制御不能の加護の存在だった。
だが、それも今は違う。
テルルは新たなカルマを乗り越え、それとともに芽はあるべき姿へ、
そしてこの瞬間。
テルルは『魔道の加護』を手に入れたのだった。
ユーバが人の心を読めるというのには、ちゃんとした理由があります(まあそんな大した理由ではないのですが)