一章 第十一話 軍部能力テスト2
今日は、2話投稿です。
「次はドルトバかな?」
「そうだぜヒムラ様。」
そう俺を呼ぶドルトバの声色には、先ほどの俺を馬鹿にしたような感じはない。
俺の昔話が効いたのかな。
ドルトバは、背が高くムキムキで強面、上裸。
狩りをしながら生活する種族のような様子だ。
馬に乗る者、こうでなくてはならない。
それを体現したような姿。
どうやら試験では、流鏑馬で満点を取ったらしいが…
加護を持っているのだろうか?
「ドルトバ。お前は加護を持っているのか?」
「ああ、ヒムラ様。俺はそんな大層なの持ってませんぞ、ワハハ!、まあ、「愛馬」というスキルは持っていますがね。」
…ん。スキル?
また聞き慣れないものが出てきたぞ。
困惑する俺を見て、メカルは言う。
「スキルとは、加護の下位交換のようなものじゃ。効果は加護の足にも及びませんが、それなりに便利なものですぞ。」
なるほど!
メカルマジ有能だな!
どうやらスキルは基本一人一つ持っていて、大抵は、料理が少し上手くなる、とか、足が少し速くなる、など、大したことはないのだとか。
俺もスキル持ってんのかなー?
持ってたら嬉しいけど。
目をキラキラさせながら、聞いてみると、
「スキルを持ってたら普通は自覚しているはずですぞ。」
とメカルに言われて、ガックリきた。
まあ、スキルはいつ手に入ってもおかしくないらしいので、その時まで待つことにしよう。
それはおいといて、「愛馬」とはなんだ?
ドルトバに聞いてみると、頭を掻きながら答える。
「まあ、つまりは馬に好かれるってことっすね。馬が言うこと聞いてくれるんで、的に当てやすくなるっていうのはありますね。」
なるほど。
ってことは的に矢を当てた才能自体は、ドルトバ自身のものってことか?
ドルトバは、用意されてた馬に乗り、馬を走らせる。
馬は、確かにそんな嫌がってなさそうだ。
ドルトバが弓を構えて、放つ。
3つの的の中心に突き刺さった。
すごい。
しかもこれが純粋な自分の才能というところがすごい。
戻ってきた俺にドルトバは跪くと、
「ヒムラ様の復讐のお供いたしますぞ。」
と、頼り甲斐のある言葉を送ってくれた。
アカマル、ユーバ、ドルトバは俺を認めてくれたが、俺を認めてくれない奴もいる。
テルルだ。
魔法使い隊長試験で見たあの銀髪の少女なのだが、とても気が強い。
「何であなたが私の上司なの!?まだ10歳くらいの子が!」
「一応12歳だ。君は13歳なんだろう。」
「何で知ってるの!?」
さっきみんなの個人情報が書かれている紙を読んだからだよ。
テルルは俺が自分より年下なことが気に入らないらしい。
まあ、10歳くらいの少年に様を使わなきゃいけないなんて、13歳くらいの思春期の女子にはそれなりに堪えるのだろう。
「まあ、君の特技を見せてくれませんか?」
アカマルがそのイケメンフェイスでいなすと、
「っうっ、アカマルさんが言うなら仕方ないわね。」
と、テルルが照れる。
アカマルはイケメンなくせに、それに無自覚なもんだから余計にタチが悪い。
まあ、そこがいいところでもあるんだけど。
テルルはみんなから少し離れると、
「行くわよ。」
そう言って、魔力を動かす。
すると、テルルの周りにいくつもの魔法陣が出現し、それがテルルの全身に貼り付く。
瞬間、魔法陣から膨大な魔力が放出され、それらが光り輝く。
その光の粒はテルルにまとわりつき、テルルの鎧と化す。
「光鋼鎧」
テルルが静かに呟くと、あたり一帯が光の暴流に包まれていって…
「はい、これが私の魔法よ。」
テルルは、銀と金の入り混じった鎧を身に纏っていた。
「おお!」
これには流石のメカルも、
「こ、これは!天使忍耐系中級魔法の「光鋼鎧」じゃぞ!」
んん?なんか聞き慣れない単語がどんどん出てきたけど?
聞くと、魔法には様々な系統があって、その一つの天使忍耐系の魔法。
さらに、魔法はその難易度から下級、中級、上級、最上級と分かれている。
中級魔法は、長年の魔法使いがやっと手に入れられる魔法。
それを13歳で使用するのは、並大抵のことではないらしい。
「すごいぞ、テルル!」
「…ふ、ふん。あんたに褒められるても嬉しくないわ。」
と、返されたが、口角が少し上がっているのをみると、少しは嬉しいらしい。
まあ、こいつとの関係はこれから築いていけばいい。
「次は、ロイとレイか。」
「はい、マスター。」
お、おう。
マスターか。
この響きも悪くはない。
ロイが言う。
「私は『影の加護』を持っています。」
そう言いながら、ロイはみんなに見える位置に立つ。
次の瞬間、消えた。
えっ!
だが、ロイの影だけは残っている。
どういうことだ。
「これは姉様が影に隠れているのです。」
レイが説明してくれる。
影の中に身を隠すことができ、移動も可能らしい。
なるほど、これは暗部に選ばれるわけだ。
誰にも見つからず、目的の場所に行くことができるのだろう。
「ちなみに、姉様が許可すれば、私も影の中に入れます。」
なるほど、そうすれば二人で目的の場所に行くことができるってわけか。
ロイの影からロイが顔だけ出すと、言う。
「そして目的の場所について、目的のものを見つけ出す。見つける過程で部屋が散らかっちゃったら、レイの出番よ。」
「はい、私は『空間記憶の加護』を持ってて、それによって部屋を元通りにします。」
そういうと、レイは闘技場の隅にある高そうな絵画を何とビリビリに引き裂いた。
おい、大丈夫なのかよ。
だけど、レイが「行きます」というと同時に、絵画は何と元どおりになった。
これはすごい。
『空間記憶の加護』とは、つまりは一度見た空間の再現。
移動された物体は元の位置に戻り、壊れたものも復元する。
どれだけ部屋を散らかしても、この加護を使えば元どおりになるわけか。
つまり、この二人の力を合わせれば、盗みの時には、誰にも気づかれず、かつ盗まれたことさえも気づかれない。
正直チートだと思う。
これからどしどし使っていきたい。
「よろしくな。」
と俺が言うと、
「よろしくお願いします。マスター。」
とレイが言って、
「よろしく。マスター。」
とロイが言う。
気安いな、ロイ。
見た目的にどちらも暗そうなんだけど、ロイは気が強くて、レイは気が弱いのだろうか。
わからんけど。
「ワシは知識だけの老骨ですぞ。特技なぞありませぬ。飛ばしてくださいませ。ヒムラ様。」
と言ってるのはメカルだ。
まあ確かに今までのメカルの説明を見れば、その膨大な知識量を悟れるだろう。
「まあ、なんか見せてくれよ。」
「…では、クロノオ偉人を暗唱致しましょうか?」
俺の駄々を軽やかに受け流す。
「まあ、これも『知識の加護』のおかげなんですがね。」
『知識の加護』、どうやら表面化された世界のデータを読み取ることができるらしい。
わかりやすく言うと、秘匿された情報以外は全てメカルが知っていると言うことになる。
まあ、この加護を使わなくとも、メカルの知識量は半端じゃない。
鬼に金棒。
これからも役立ってもらいたい。
「よろしくな、メカル!」
「ええ、御心のままに!」
こんな厚い忠義を示されると、結構困るのだが…。
さあ、残るは最後となった。
外交担当、ユソリナだ。
というか、今まで発言してない気がするんだが…。
「ええ、皆さまの会話に口を挟むなど恐れ多い。」
と、俺の疑問に答えてくれたわけなんだが、どうもユソリナ、謙りすぎなような気がする。
「もっと喋ってもいいんだよー。」
とユーバ。
「いえいえ、私はそれには…。」
「えーでもさー。」
「いえいえ…。」
「でもー…。」
「…。」
「…。」
んー、天真爛漫なユーバを持ってしてもダメか。
これは特技を披露させようとしても、いえいえ、などと言って断りそうだ。
黒髪の超美人。
それなのに、何故か謙りすぎ。
勿体無い、と思う。
「んーまあ、ユソリナ。これからは自分の意見をどんどん言っていこうぜ。」
それじゃないと外交交渉は不安だ。
「いえいえ、私はそれには…。」
「命令だ。」
「…。わかりました。」
なぜか不服そうなユソリナ。
自分を虐げることに慣れてしまっては、全く役に立たない。
今の俺の命令で、少しは変わってくれればいいのだが…。
まあ、頑張っていただきたい。
こうして、クロノオ軍部が発足した。
彼らを中心として世界は、混乱の台風に飲み込まれることとなる。