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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第七十八話 対エレメント4

エレメント編再開です。

 皆の視線の温度がみるみるうちに下がっているのをテルルは肌で感じた。


 何をすればいいのか。

 手が動かない。

 足も動かない。

 声も出ない。


 ただ立ちすくんで皆の方を見ることしかできなかった。

 疑い、不安、疑念。

 そんな感情を兵達からテルルは繊細に感じ取った。


「…っ…」


 思わず呻き声が出る。

 どうすればいいの?

 どうすればうまくいくの?


 いつもテルルが世界に問いかけていた言葉。

 それが当たり前のように生まれていくのがとても鬱陶しい。

 

「…テルルちゃん?」


「…わかってるわよ。」


 ユーバの不安そうな声を聞いてテルルはなんとか正気を取り戻す。

 何をやっているのだ。

 ここは戦場なのだ。

 迷っていては負けてしまうだろう。


 テルルはなんとかユーバの乗っている馬に乗せてもらい、


 手をあげる。

 その手は震えていて、それが兵たちの不安を助長させた。

 きっと兵たちは思っているはずだ。

 こいつが俺たちの指揮官なのか?

 ヒムラ様ではないのか?

 それを読み取れてしまったからこそ、テルルはいよいよ固まってしまう。


 この場に立つ資格。

 皆を動かすリーダーシップと勇気。

 カリスマ性。


 全てが足りない。

 そして、


「…進め…。」


 なんとか発した言葉は、音が小さすぎて傍にいたユーバにしか聞こえてない。

 それを聞いてため息をついたユーバが、


「はいじゃあとりあえず前進!正面から攻撃して頃合いを見て離脱!」


「「「おお!!」」」


 そうして兵たちは動き出す。

 そして、

 一人顔を埋めて蹲るテルルがいた。




「テルル殿、どうなさいましたかな。」


「…メカルさん」


 一人落ち込むテルルをメカルが心配する。

 老成して落ち着きを宿したその瞳には、こちらを気遣う色が出ていた。

 

「いえ、なんでもないわ。」


「だといいのですが…」


 テルルはうまくごまかしてメカルの追及を避ける。

 これ以上この場で醜態を晒すわけにはいかない。

 自分を律して、この指揮官という立場に恥じぬように行動しなければ。


 そんな強迫概念がテルルを襲う。

 そしてそれに囚われていけば行くほど自身の情けなさに身悶えしたくなる。

 

 ———私は認められていない。

 言葉にすれば簡単なことでも、それを今までの人生でテルルは何度も思ってきた。

 誰に?

 それはもちろん、世界中全ての人に。

 

 ヒムラのようになれたら。

 何度そう思ったことか。

 

 皆を引っ張ることのできるあんな人になれたら。

 誰とも仲良くなれて信頼を勝ち取れるあんな人になれたら。

 頭の良く誰よりも優しいあんな人になれたら。

 

 普段のヒムラに対しての態度は、全てそれの裏返しだった。

 沢山の尊敬とほんの少しの妬み。

 それをヒムラに対して明確に感じられてしまえばしまうほど、テルルは自己嫌悪に陥る。

 

 テルルが思い悩んでいる間にも事態は進む。


 クロノオ兵とエレメント兵の衝突が始まったのだ。

 川を挟んでの睨み合いは終了して、クロノオ兵が川を横断しようとしている。

 そしてそれを阻止せんと武器を構えるエレメント傭兵。


 確かヒムラの作戦は…。


「相手をこちらに引き寄せて、魔法使いたちと傭兵を分離させる…だった…。」


 しっかり覚えている。

 でも、どうすればできるのか?

 傭兵たちをこちらにおびき寄せるのにも、タイミングが重要だ。

 それに分離できたとしても、誰がその隙をつくのか?

 

「…あのバカっ…。」


 ヒムラがそれを指定していないということは、自分で考えろということか。

 

 そんなことできるわけない。

 兵の動かし方に関してはさっぱりなのだ。

 …いや、実はヒムラに習ってはいた。

 毎日少しずつヒムラに兵法を習いに行っていたのだ。

 だがだからといって、実戦ですぐに使えるわけではない。


 どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば


 永遠と巡る思考ループがテルルを支配し、そこから抜け出すのを困難にさせた。

 

 そしてさらに事態は進む。

 エレメント兵たちが怒りの形相でこちらに攻撃を仕掛けようとしてくる。

 昨日の煽りが効いている証拠だ。

 そしてクロノオ兵はエレメント兵の猛攻になんとか耐えている。

 だが、それも持ちそうにない。

 

 ここまま行けばエレメントにクロノオは飲み込まれてしまうだろう。

 ちなみにエレメントの魔法使いは動いてない。

 確実に勝利を確信しているのか、ザンがニヤニヤした顔でこちらを見る。

 その顔が雄弁に物語っていた。


 ヒムラがいなくなったのだから勝てる。

 あの少女が軍を動かせるはずがない。

 

 そのザンの思考がおそらく的を射ていて、テルルはさらに俯いて、


「テルルちゃん。そろそろ離脱の指示を…。」


「ユーバがやって…。」


「…なんて言った?」


「あんたがやってよ!」


 不満と怒りが爆発する。

 話しかけてきたユーバは驚いたようにこちらを見た。


 自分に対しての不甲斐なさを他人にぶつける。

 最低だ。

 でも…!


「あんただって見たでしょう!私の指示なんて誰一人聞いてないのよ!」


「…そんなことは…。」


「はあ!?気遣いなんていらないわよ。事実だもの!見たでしょう!?私を訝しむような志願兵たちの目!」


 テルルの不満の根源はそれだった。

 皆からの目線。 

 これが、テルルの過去を思い出させて嫌になる。


「みんな私をそうやって見る!ここにいちゃいけないって皆が私に言ってきた!出ていけって…私じゃなくていいって…」


「…。」


「私は軍を動かせない!だって皆私を信じてないもの!信じてない人に戦えと言われて、戦える人なんていないことぐらい、私だってわかるわよ!」


「…。」


 絶望をさらに濃く塗りつぶすような、そんな慟哭がテルルを突き刺した。

 なぜこんなことを言ってしまったのかテルルにはわからない。


 …ずっと心の中にしまっておこうとしていた言葉だ。

 でも、もう限界だ。

 

 誰かに必要とされたかった。

 誰かに信頼されたかった。

 誰かに慰めて欲しかった。

 でもそれならないなら、今テルルはその気持ちを叫ぶ。

 

 私をわかってと、私を認めて、と。

 こんなにも私は認めてもらいたいのよ、と。

 それは端的に言って仕舞えば、子供の癇癪のようなものだ。


 自分が欲しればそれが全て手に入ると考えている。

 それが手に入らないから、テルルはこうして叫んでいる。

 どうして、どうして。


 まだ何も変わっていない。

 まだ何も育っていない。

 体ばかり大きくなって、私は親の元から飛び出したあの日から変わらない。


「私は…。」


 ———私は、どうしようもなく生きるのが下手くそだった。

 


 

 

 

 

 



次回テルルの過去回です。


ヒムラの画像はもう一回描き直すことにしたので時間がかかるかもしれません。


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