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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第七十七話 セカン村終戦

本日2話目の投稿です。



 セカン村で起こる激しい戦い。

 それに気がついて何事かと村の人が様子を見に来るのは当然だ。


「何が…。」

「おい、…。」

「フーラさんと…。」

「少女…。」


 ざわめきが生まれ、村が混乱し出す。

 いきなり起こった戦闘に、誰もが戸惑いを隠せずにいた。


 そしてこれこそがフリルラルの狙い。

 とりあえず場を混乱させればいいのだ。

 その混乱に乗じてルーン軍が侵攻できれば御の字である。

 

 よってフリルラルは、このロイという少女との戦闘を少しでも長引くように誘導していた。

 うまく自分に近づけないようにオリジナルの魔法の組み合わせでこの少女に対処する。

 魔法は掛け合わせによって無限に攻撃手段を作り出せる。

 赤魔法と黄魔法を組み合わせれば溶岩だって生成できるのだ。


 フリルラルは今その溶岩で自身の周りを囲っている。

 地面の中に隠れて攻撃してくるロイに対しては、有効な防御手段だろう。

 安全に攻撃ができる上に、時間稼ぎもできる。

 

 さて、村の皆の混乱具合はどうかなとフリルラルは後ろを振り返り、


「…!何で彼が!」


 村の皆に混じって一人、異様な威厳を放つ人物がいた。

 そいつは皆を落ち着けて、混乱を沈めようとしている。

 

 一番この場にいてはいけない人物が来てしまったと、フリルラルは舌打ちを打つ。

 その人物は、


「…グランベル・キング・クロノオ…。」


 この国の支配者がいた。




「ほう、俺に村の混乱を抑えてほしいと。」


「ええ、その通りです。奴らは村を混乱に陥れようとします。それを諫めてもらいたいのですが、グランベル様の他に適任はおらず…」


「なるほど。して、グランベル様の安全は?」


 グランベルに村の混乱を沈める役を頼んだ時のことだ。

 ルーンかエレメントかファントムかはこの時点ではわかっていなかったが、フーラと呼ばれる人物がどこかの国の間者であることは明らかだった。

 まず魔導隊での任期を終えてセカン村にきたというフーラの話だが、これ自体そもそも怪しい。

 魔導隊の任期が終わるのは普通40歳あたりだ。

 だがフーラは30代に差し掛かったあたりで、到底魔導隊の任期を終えた人物とは思えない。

 

 そして、彼女の動作が洗練されていたのも理由だ。

 俺に挨拶する時の華やかな動きなどは完全に、どこかの貴族か国の中枢に関わっている人物のそれである。

 そしてクロノオの貴族や国家の中枢にフーラのような人物がいた痕跡は見つからなかった。

 よってどこかの国の貴族か国に使えるものであると確定した。


 つまりはどこか別の国からきた間者。

 ファントムかエレメントかルーンか、はたまたその他か。

 とりあえず俺はフーラたちの陰謀を阻止しようと動き出したのである。


 とりあえずロイがフーラの監視をして仲間の存在を暴き出す。

 そして彼らが何か行動を起こしたときにはロイが即座にそれを止める手筈だ。

 

 さらに村の混乱を抑えるためにグランベルの協力を求めたのが冒頭の場面だ。

 だが、俺の提案にマーチが釘を刺す。

 …まあマーチにとってはグランベルの安全が何よりも重要だろうしな。

 だが、その心配はいらない。


「ロイの加護は回避や防御、隠密に特化している。おそらくマーチさんが懸念しているような事態には陥らない。」


「……………………わかった。」


 かなり考えた挙句渋々とマーチはうなずいてくれた。

 彼にはファントム攻略も任せてあるので、頑張ってもらいたい。


 こうして俺はクロノオに潜む間者対策を行なったのだった。




 相変わらず攻撃と防御が入り乱れる攻撃は続く。

 

「ハハハ!これじゃあなたは一歩も近づけないでしょう!」


「…。」


 フーラ…否、フリルラルの魔法により彼女の周りの地面が全て溶岩と化してしまった。

 これではロイはフリルラルに近づけない。

 非常に厄介な相手だとロイはため息をつく。

 

 このセカン村でフリルラルを阻止するまで、ロイとグランベルは一緒に間者のいる村々を回ってきたのだ。

 間者を数秒で無力化し、グランベルがうまく村の皆を落ち着かせるのがいつもの流れだった。

 というか、セカン村以外の間者は驚くほど弱かったのだ。

 だが、フリルラルは違う。


 かなり戦闘に対して造詣が深いようで、こちらの動きにもすぐに対応された。

 魔法を使った攻撃でこちらを混乱させ、自身は安全圏にいながら一撃を加えようと試みる。

 至って効率的で、それでいて厄介。


 殺さずに無力化する方法をロイは考えなければならない。

 短剣を使うのはダメ、拳で殴るのはアリかもしれないがロイは腕力は年相応で、フリルラルにすら格闘技では負ける可能性が高い。

 せめて回復魔法が使える人物がいれば…


 いや、いるじゃないか。

 今ロイと戦っているまさにその人物が、


「フリルラル。」


「気安く私の名前を呼ばないで頂戴。」


「あなた、青魔法使える?」


「ハッ!魔法使いで使えないやつなんているわけ…。」


「じゃあ、その準備をしなさい。少し待っててあげるから。」


 そういうとロイは一旦距離をとり、正面からフリルラルを見据える。

 その行動に疑問符をフリルラルは浮かべ、


「何、青魔法を使う準備?あんた何する気?」


「私は、手加減できないから。」


 ロイはそれだけいうと、短剣を逆手に持って腕を後方に引く。

 何かくる、とフリルラルは悟り、すぐさまロイの指示に従って青魔法の準備をした。


 側から見れば相手の指示に従い、自ら危険域に飛び込むような愚かな行為だ。

 フリルラルもあとでこの戦いを思い返せば、きっと自身の愚かさを嘆いただろう。

 だが、このときロイから放たれる殺気は異常だった。

 ただただこちらに恐怖を与えるその短剣の構えは、ロイ自身によるものだとフリルラルは悟る。

 そして、自身はもう逃げられないのだと知り、ロイのいうことに従ったのだ。

 そこにわずかな望みをかけて。

 

 青い魔法陣がフリルラルを包み込む。

 それを確認したロイは、すっと短剣を握り直し、


「…っ…。」


 無音でそれを投げた。

 ロイは短剣の技術だけは天下一品で、飛ばされた短剣を目に追えるものはいない。

 そして、


「「止血(Hemostasis)」!」


 止血系の魔法をフリルラルが唱え、魔法陣が青く点滅する。

 そして、フリルラルの脹脛にナイフが突き刺さり、


 血の一つも吹き上がらずに、フリルラルは倒れた。




 グランベルは、今ロイと戦っている女がフーラと名乗る間者だということしか知らない。

 だが、ロイの攻撃でフーラが倒れると、こちら側が勝利したのだということは察しがついた。


「どうやら戦いは終わったようだ。この国に潜む間者は全て掃討された!」


「…。」

「…。」

「…。」


 グランベルの宣言に対して、セカン村の住人は何も答えない。

 

 確かに長い付き合いであったフーラという女が実は他国の間者だったというのは、なかなかショッキングな話だろうとグランベルは一人思案する。

 もしかしたらフーラが倒れたことで、彼女が死んだのだと思い悲しくなったのかもしれない。


 だが、そんなことはない。

 どうやらロイはフーラを殺していないみたいなので、まだフーラは生きているし、村の皆とフーラがまた笑って話すことも…。


「…それは不可能です、グランベル様。通常であれば間者は情報を聞き出したのち、処刑されます。」


「…だろうな。」


 普通は間者はバレた時点で殺される。

 というか、情報を抜き取られないよう自殺するのが普通だ。

 よってフーラは生きてまた村の者たちと接する機会はなく…。


 すると、一人の人物がフーラに近づいて、


「フーラよ。私の体をもう治してはくれんのか。お前がどこかの間者であるのは悲しいが、お前がいなくなるのはもっと悲しいのじゃ。」


 この村の長であるクオーツが涙ながらに倒れるフーラにそう訴えかける。

 その様子をみたグランベルは、


「…ムム。」


 こういう人情話にはグランベルは弱いのだ。

 こんなにもこの女は必要とされているのだ。

 間者がどうとか情報がどうとか今更どうでも良い。

 なんとかして彼らを救ってあげたいと、グランベルはそう考える。


 ロイの方を向き、


「フーラとやらの自殺をなんとか防げ。それに、情報を抜き出したらすぐにセカン村に戻してやれ。」


「グランベル様、まさか…。」


「我は民の王だ。民の願いを叶えるのが仕事だ。」


 そう、グランベルはクロノオ国民の願いならなんでも聞き入れてしまうのだ。

 自分の可愛い国民の願いを、叶えてやりたいと思うのは当然だろうと、グランベルは思う。

 最も、全ての国民の考えを聞いていたらキリがないので、普段はマーチがうまく対処してグランベルに話が流れないように調節しているのだが、そんなことはいざ知らず。

 グランベルは間者を許すという暴挙を今日も犯すのである。


「…わかりました。ヒムラ様への報告が憂鬱です。」


「ふっ。それはどうかな。あいつもきっと俺と同じように考えた。」


 ヒムラのことになり、口調が砕けて一人称が変わるグランベル。


 そう、きっと彼なら間者ですら許していただろう。

 誰よりも厳しく見えて、その実誰よりも優しい少年。

 だが、


「ヒムラよ。きっとお前は近いうちに不幸になる。己の優しさが牙を剥く時がくるだろう…。」


 ロイにも聞こえないように、グランベルはそう呟いたのだった。



 

 


明日は用事があるので投稿できそうにありません。

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