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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第七十五話 イルマーの思惑

一時間遅れてしまい申し訳ありません。

「貴様がクロノオ軍師ってわけか?」


「知っているのは素直にありがたいな。」


 そんな戯言みたいな言葉を交わし、二人はお互い睨み合う。

 イルマーはこちらを見下すように、ヒムラは相手を見定めるように。

 そして、不意にイルマーが笑う。


「話に聞いていた通り、本当に少年だとはな!興醒めだ。」


「…何が言いたい。」


「ひ弱な貴様が軍を動かしているとなると、クロノオ兵達はさぞかし哀れだな。」


「…。」


 イルマーの言葉には全く取り合わないヒムラ。

 その態度が傲慢で、イルマーは少し苛立つ。

 

 そうか、未だクロノオは余裕でいられるのか。

 だが、実はザンにはめられていることを彼は知っているのかな?

 実は誘き出されてここまできたことに。


 そう思うとこの少年がとてもかわいそうに思えてきた。

 

「…貴様、いや君は、エレメントにはめられてここまできたことを知っているかな?」


「何?」


「簡単な話さ。君は仮にもクロノオ軍師だ。エレメントの戦場から来たようだけど、残してきた兵達だけで軍が動くと思うか?君がいなくなって、今クロノオの兵達は哀れにも大混乱さ。そしてエレメントに食い破られる。」


「…っ。」


「図星かな?これは君を誘き出すための作戦。つまり囮ってわけさ。」


「お、お待ちくださいイルマー様!」

「我々が囮ですと?」

「そんな…そんなことは…。」


「だまれ貴様ら!この少年をおびき出せたことで貴様らの役目は終わった!」


 イルマーの衝撃的な発言に動揺するルーン兵とシネマ反乱軍。

 それを一喝し、イルマーはヒムラに対して最大の慈悲の眼差しを向ける。

 なぜなら彼は、偉大なるザンに騙された愚かな人物の一人なのだから。


「俺を誘き出す作戦ね。」


「そうだ。そして君は見事に引っかかり…。」


「本当に、何も気が付かないのか?」


 イルマーがヒムラの浅はかな考えを笑おうとすると、確かめるようにヒムラに尋ねられる。


———本当に、何も気が付かないのか?


 いや、気になる点はいくつもある。

 なぜヒムラはクロノオ兵を引き連れていないのか?

 シネマ兵がなぜクロノオ領にいるのか?

 なぜこれほどの絶望的な状況でヒムラは会話を続けるのか?

 

 だが、全てザンの作戦の前には無意味だ。

 ヒムラをおびき出した後なのだから。

 今からエレメントの戦場に戻ろうとしても半日はかかるはずだ。

 その半日の間にエレメントがクロノオを倒している可能性は高い。


 全ては成功。

 あとはゆっくり時を待つのみ。

 そう思い直した時、後ろから怒りの声が聞こえる。


「お、俺。フェロー様やイルマー様が騙しているなんて知っていたら、絶対に寝返らなかった!」

「クロノオの軍師は嫌いだけど、俺は武力行使をしたいわけじゃない!」

「そうだ!シネマに返してくれ!」


 外野がうるさいな、とイルマーは舌打ちをする。

 それと同時に、ある案を思いついた。

 この状況は使える。


「よしわかった。貴様らの気持ちはよくわかった。ならば賭けをしよう。」


「賭け?」


 イルマーの言葉にヒムラが疑問を示す。

 

「そう、賭けだよ。内容は俺と君の一対一。君が勝ったら、この哀れなシネマ兵達を返してあげよう。」


「お、横暴だ!」

「いくらなんでもそれは…」

「あんな子供が勝てるわけないだろう!」


「うるさい!いいか?貴様らは下で俺が上だ!よって、勝負内容も俺が決める。」


 実に素晴らしい賭けだ。

 全ての決定権はヒムラの強さにある。

 全部自己責任というわけだ。


 この賭けに負けたヒムラは後悔するだろう。

 ルーンにクロノオ侵攻を許し、シネマの反乱を招き、エレメントにクロノオを滅ぼさせたのは自分だと。

 その様子を想像し、思わずイルマーの口が卑しく歪む。


 その様子を聞いていたヒムラは、面倒そうにため息をつくと、


「わかった。俺が貴様に勝てばシネマ兵はシネマのもとに戻すし、ルーンはそのまま負けを受け入れろ。そして貴様はクロノオに一時拘束だ。どうやらルーンのものではないみたいだしな。」


「ふっ、いいだろう。」


 それだけいうと、ヒムラとイルマーは同時に武器を抜いた。

 どちらも剣、だがヒムラの方は木刀であった。

 それを見てイルマーは拍子抜けし、


「それで戦うのか?」


「ああ、貴様を殺しては本末転倒だ。拘束する予定なのだしな。」


「…ククク。君は、戦いってものを、知っているのかな?人を殺せない間抜けというザン様の情報は本当みたいだな。」


「その事がどこから漏れ出たのかも、後ではっきりさせようじゃないか。」


 それで会話は終わりだと言わんばかりに、ヒムラは前を睨む。

 

 立会人はパラモンドに決まり、お互いに勝利条件を確認する。


「勝利条件は、相手の殺害か戦闘不能状態になるまでです。」


 かなり厳しめのルールを決め、戦いは始まる。


「では、はじめ!!」


 開始してすぐにイルマーは動き出す。

 大きく刀をそのまま下ろした。

 その間ヒムラはこちらを観察するように木刀を構えていた。


 いや、観察しているのではなく反応できてないだけだと、イルマーは結論付ける。

 こちらの動きに反応できないとは、相当な弱者のようだ。

 

 まあそれならば、まずは痛みを与えてやろう。

 イルマーは自身の加護を刀に纏わせる。

 『痙攣の加護』。

 加護の対象となったものに触れるとその部分を痺れさせるという加護だ。

 まあ正直あまり実戦では使えない加護だ。


 だが、相手に痛みを与えることに関してはかなり役に立つ。

 例えば傷口にこの加護を当てて痙攣させるとどうなる?

 筋肉の震えが神経に伝わり、痛みが何倍にも増幅するのだ。

 一度剣によって傷をつけて、そこに加護を発生させると、相手は想像を絶する痛みに耐えなければならなくなる。


 痛めつけるにはもってこいだ。

 ここでヒムラに痛みで持って戦いというものを教えて…

 

 振りかぶった剣が途中で止まる。

 何が起こったのかイルマーはヒムラの方を見ると、


 木刀で剣を受け止めているヒムラがいた。




 このエレメントの奴。

 とんでもなく弱いな。

 いやあ、俺に戦いを挑んでくるほどだったから強いと思ってたよ。


 だが、結果は想像以下。

 まず剣筋が曖昧だな。


 こんな剣筋では果物すらきれないだろう。

 …そういえばこの世界って果物食べちゃダメなんだっけ。

 まあいいや。


 なんか触れた瞬間に手が少し痺れたが、まあこれもどうってこともない。

 俺の強靭な身体が跳ね返してしまったらしい。


 ふらつく剣筋を木刀で受け止め、そのままくるりと剣を跳ね飛ばす。

 抵抗もできずにこいつは剣を手放してしまった。

 

「…そんな…!ばかな!?こんな子供に?」


「おい、さっきから子供子供うるさいぞ。これでも今年で30歳くらいだ。」


「…?」


 俺の言葉に理解が追いつけないでいるイルマー。

 まあいいや、こいつとの勝負はさっさとケリをつけてしまおう。

 勝利条件は確か、殺害または戦闘不能だったっけ?

 

「おい、もうやめにしないか。そろそろわかっただろう?お前は俺にどうやっても勝てない。」


「…フッ。たかが少し剣を習ったようだが、素手で戦えば圧倒的に俺が有利だ。勝った気でいるのが哀れでたまらないな。」


 もうなんだろうか。

 こいつ本当に実力差を理解できていない奴だな。

 素手でなら俺に勝てると踏んでいるようだ。


 だが、先ほどの動きから考えるにこいつはCほどの強さしか持っていない。

 武道派の少ないエレメントだからこそザンに使える事ができているようなものだ。

 ユーザリア君といい勝負かもしれないな。


 正直戦うことすら面倒だが、それでも賭けは賭けだ。

 シネマの反乱兵を取り戻さなければならない。

 そしてできれば、クロノオに対して不満を持っている彼らを説得したい。

 友好国として、シネマの中にこれほどの反乱の種があったことは両国にとって良くない。

 その歪みを解くのが、今回の俺の仕事だ。


 そのためにまずこいつに勝って、俺の武力を見せつけなければならない。


「では、少し本気でいかせてもらおう。」


「ほう、貴様がこのイルマー様に勝てるとでも?」


 まあ相変わらずのこいつの口調にも、もう慣れた。

 

 俺は『神速の加護(ゴットアクセル)』を使用し、戦闘準備を整え、


「おい、何木刀を持っているのだ?」


「…へ?」


「こちらは素手で戦ってやっているのだ。そちらも素手で戦うのが筋であろう?」


 いきなり何を言っているのだ?

 え、さっきまで木刀を散々ばかにしてたよね?

 しかも剣を手放したのはそっちでしょ?


「早く手放さんか!」


 なんかあちらはキレてるみたいだし、剣なしで戦ってやるか。

 そう思って俺は木刀を手放す。


 そして、


「じゃあいいな?」


「ああ。」


 俺は動き出した。


 

 


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