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神速の軍師 ~転生した歴史教師の無双戦記~  作者: ペンシル
第二章 神速と包囲
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二章 第七十三話 裏切りのルーン

いったんエレメント編は中断します。

 ボロボロの城、ルーン本城にて。

 ルーン国王フェロー・アザマムが決意を固めた表情をする。


「申し訳ない軍師ヒムラよ。だが協定は絶対なのだ。この小国ルーンが生き残るためにも。」


 フェローに対面するのは一人の屈強な男だ。

 実は彼はエレメントからの使者であり、先ほどフェローに一封の手紙を渡したのだ。

 その手紙には、


「我が属国、ルーンよ。


 蜂起の時だ。

 クロノオを攻めよ。」


 書いてあったのはそれだけ。

 だが、それはルーンにとって逆らえる内容ではなかった。

 

 古くからルーンはエレメントの属国であり、エレメントの利益を享受することで生きながらえてきた国だ。

 なので、エレメントを裏切ることはルーンという国の滅亡につながる。

 よって、逆らうなど言語道断なのだ。


 どうしたものか。

 もともと破り捨てることも考慮して結んだクロノオとの協定だが、それでも守りたいものは守りたい。


 そこで考えたのが、シネマ国を使うことだ。

 うまく共同で攻めることができれば責任を分散させることができるし勝率も上がると言う作戦。

 だが、それは無理だった。


 シネマとクロノオの間には今や強固なつながりがあることが判明したのだ。

 策士パラモンドもクロノオとの繋がりを歓迎しているようだし、説得することはできそうにない。

 だが…とフェローはさらに考える。

 シネマの中にもクロノオを快く思っていない連中は多いのではないか?

 一度負けて属国にされたとも取れる条約を結んだのだ。

 それに貿易の利益などがまだシネマ全体に行き渡っているとは言い難く、未だシネマの下級層は苦しい生活を強いられている。


 奴らを扇動すればどうなる?


 その結果が今ルーン城に集まっているシネマ兵3000人だ。

 クロノオに対して快く思っていない人を集めたら、1万人ほどがルーン城に集まってくれたのだ。

 そして女子供老人を抜いたら3000人になったわけだ。

 

 今ごろパラモンドは大慌てだろうなと、フェローは人ごとのように考える。

 責任を押し付けてしまった形になってしまったが、勝てばいいのだ。

 クロノオがシネマ、ルーン、ファントム、エレメント四国を相手にして勝てるわけがない。

 フェローは一つため息をつくと、


「皆の者!では、出陣じゃ!!」


 ルーン兵とシネマの義勇兵。

 同時に雄叫びを上げる。

 そして、


「では、私が軍を統率してやろう。」


「おお、貴殿が。よろしく頼みますぞ。」


 上から目線でこちらに援助を申し出るのはエレメントの使者である屈強な男、確か名はイルマーとか言ったか。

 エレメントの人物に任せとけば安心だと、フェローは安心したように頷く。


 そしてこの時、

 シネマ、エレメント、ファントム、ルーンによってクロノオ包囲網が完成したのだった。




 やばいやばいやばい。

 ルーンが裏切ることは想定済みだったが、まさかシネマが裏切るとは思わなかった。

 クロノオの勝ち目はないから今のうちに裏切っとこうってことか!?

 パラモンドの顔が浮かんで、してやられたと舌打ちする。

 

 見ると、クロノオ兵も、ユーバも、テルルも、メカルも全て俺を不安そうな目で見つめている。

 そしてエレメント兵はもう戦闘準備を終えて、開始の時を見計らっているようだ。

 今決断しなければ。


 どうするどうするどうする。

 目を閉じて、「思考加速」をフルで動かして…。


 決めた。

 腹を括るしかない。


「テルル!」


「は、はい!」


「お前には作戦を伝えていたはずだ。メカルと協力して軍を指揮しろ!」


「…!でも…。」


「分かったな?」


 テルルは不安そうにこちらを見るが、俺は有無を言わさぬ目でテルルを見る。

 そして、


「ユーバ。悪いが加護を全力使用だ。テルルの指揮を皆に伝えてうまく操れ。」


「う、うん!」


「クロノオ軍諸君!君たち一人一人で、勝利を掴みとれ!」


「「「おおーー!!!」」」


 とりあえず皆に指示をする。

 そして俺は、


「今からシネマとルーンを相手取りにいく。」


「…!ヒムラ様一人でですか!?」


「ああ。」


 ユーバが心配するようにこちらを見てくる。

 まあ、はじめは説得を試みてみるから大丈夫だ。

 心配することはない。


 それを目で伝えると、ユーバはなんとか納得してくれたようだ。

 そして、


「テルル。」


「私が軍を指揮するのは…ちょっと…。」


「…分かった。じゃあこうしよう。」


 俺の言葉にテルルは呆気にとられたようにこちらをみる。

 そして俺は、


「…へ?」


 腰を九十度に折り曲げて、ただただテルルに頭を下げた。

 そして、顔を上げると、


「俺からのお願いだ。戻ってくるまでの間、軍を指揮してくれないか?」


 手を差し出した。

 その手を見てテルルは怯えたようにこちらを見て、


「そんな…ことされたら、断れないよ…。」


 泣きそうな目で、でもテルルはやっぱり強い女の子だ。

 最後にはこの手を握ってくれると、俺は確信していた。




 俺は『神速の加護(ゴットアクセル)』を使ってすぐにクロノオ本城に戻る。

 そしてそこにはグランベルとロイがいた。


 よかった。

 ロイは予定通りに任務を終わらせようとしてくれたらしい。

 

「ロイ。」


「ハッ!手筈は整っております。」


「ご苦労。」


 俺は偉そうに頷くと、グランベルの方を見る。

 グランベルは少し不満げにこちらを見ると、


「俺を使うとは、貴様も図々しくなったものだよ。」


「全ては勝利のためです。」


「ふっ、そうか…。ならば全力で勝て!!。」


 グランベルはそう言って俺を激励する。

 そして、


「では、俺は行ってきます。」


「ああ。」

「何かあればすぐ私をお呼びください。」


 二人に見送られながら、俺は加護を使用してさらに奥へ飛んでいく。

 まずはシネマ国の首都カスタルだ。

 パラモンドを問い詰めて、場合によれば武力行使もしなければならない。

 できればしたくないが、最悪の場合処刑なんかもあり得るかもしれない。


 これからのことを考えながら、俺は一つため息をついたのだった。




「まずいぞ!はよ準備せんか!」


「今集められる兵は3000ほど!我が国の奴らの暴走を止めるのならばまだしも、ルーン相手に勝てる見込みが…。」


「勝つ必要などもはやない!こちらがクロノオに対して誠意を見せなければ…!」


 カスタル城の大広間。

 パラモンド達が忙しそうに動き回って、苛立つように部下に命令を飛ばす。

 

 これも全てルーンの仕業だ。

 まさかこちらの貧困層を扇動してくるとは思わなかった。

 あのフェローの狡猾さにパラモンドは唇を噛む。


 今シネマの立場はとても危ういものになっていた。

 

 クロノオと友好条約を結んでいるシネマ。

 今回の戦争では好意的中立の立場をとっているのだ。

 よって戦争に参加することはおろか、クロノオに歯向かうなど言語道断。


 下手なことをすればクロノオに滅ぼされてしまうだろう。

 …いや、その心配をする必要はないのかもしれない。

 クロノオは今ファントムエレメントを相手にしているという。

 それにルーンとシネマが加われば、クロノオの敗北は確実なんじゃないか?


 一瞬パラモンドの思考がそちらに傾くが、それをすぐに頭を振って否定した。

 あの狡猾なヒムラが戦争で負けるわけがない。

 もしも勝てる見立てがなかったら、ヒムラが真正面から戦うはずがないのだ。


 それを確信できるほどパラモンドはヒムラを信頼していた。


 だから今はただ、クロノオに、ヒムラに誠意を見せなければ…。


 不意に、大広間の壁の一部が破壊される。

 

「何が!?」


 パラモンドの部下が叫ぶ先、最小限に壊されたようにも思える壁の向こう側には…

 人影が、一瞬でパラモンドに近づいてくる。

 そして、ピタリと肩に何かつけられた。

 痛い、血が流れている!?


「…久しぶりだなパラモンド。」


「あなたは…あなた様は!」


 パラモンドの肩に刀を当てている人物の正体は…


「気持ちいいほどにこちらを裏切ってくれたじゃないか。」


 目の奥が凍えるように冷たい。

 軍師ヒムラが現れた。



 


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