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月夜とワルツ【短編集】  作者: 椎名結依
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トゥシューズ専門店にて。


私がこのお店をついだのは、5年ほど前のことです。

先代のおばあさんが亡くなり、跡継ぎがいなくなったこのお店を700万円で買い取りました。もちろんローンです。


なぜこのお店を買い取ったかというと、淡い初恋を忘れたくなかったからです。

私は6歳からバレエを習い始めました。きっかけは近所のお姉さんが通っていたからです。そのお姉さんはとても綺麗で、聡明で、私にとっていつも憧れの存在でした。


そんなお姉さんに少しでも近づきたくて、通い出したバレエ教室。でも私には才能がありませんでした。どんなに練習しても、お姉さんに近づくことができませんでした。

むしろ、練習すればするほど彼女とは遠くかけ離れていく気がしました。それでも、辞めることなく、私はバレエ教室に通い続けました。


13歳を迎えた頃、バレエの練習中にトゥシューズのリボンがブツンと音を立てて切れたことがありました。何の前触れもなく、弾けるように切れたのです。その瞬間、私は何かを悟りました。バレエに対する情熱、お姉さんに対する劣情。それらが終わったのだと。


私はあっさりバレエを辞めました。それと同時に、もうお姉さんを目で追うこともなくなりました。近所に住んでいたので、たまに顔を合わせることもあります。その時は笑顔で、何事もないように挨拶をしました。


一度だけ、道端でお姉さんに聞かれたことがあります。

どうしてバレエを辞めたのか、と。

私は笑顔で答えました。才能がなかったので、と。

お姉さんは、そう、と寂しそうに一言だけ言って去って行きました。私がどんな思いでそう答えたかも知らずに。



あれから15年の月日が経ちました。私は高校を卒業するとすぐに就職しましたが、お姉さんはバレエ留学をする為に海外へ旅立ったそうです。その後は知りません。ただ、私は今日もこの古びたトゥシューズ専門店のレジに立ちます。いつかこの初恋を終わらせるために。



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