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魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.9
88/323

9-13

 寮に戻ってみると、丁度カレンが玄関ホールに下りてくるところだった。その手にモップとバケツがあるのを見て、雪路は何となく嫌な予感を覚える。

 「あ、雪路、おかえり」

 気付いたカレンがこちらを見たので、ただいま、と答えて。

 「あの……それ……」

 「ああ……」

 モップを示すと、少しだけ気まずそうに、カレンは小さく俯いた。

 「……廊下……私と、貴方の、部屋の前……、ちょっと汚れてたから……」

 「ごめん、私の所までやってくれたんだ……」

 「いいのよ。雪路が謝る事じゃないし!」

 慌ててバケツを持とうと近寄ると、苦笑いしてカレンは首を左右に振る。

 「……私はともかく、雪路はさ、決闘であれだけ勝ってみせたのに。……相手も往生際が悪いっていうか、なんか、悔しい……」

 ふぅ、と溜息を吐くカレンに、うん、と雪路も苦々しく頷いた。

 「何か劇的に変わるとは思ってなかったけど……」

 少しは、嫌がらせを戸惑う様になったりはしないだろうか、と、そういう希望はあったのだ。けれど、おそらくゴミなり土なり、部屋の前に撒き散らされていたらしい様子からして、希望は叶わなかったらしい。

 「一対一の決闘じゃ雪路には敵わないと思ったんでしょうね。でも、だからこそ、こういうので押し切って潰してやる、って、逆にムキになってるのかも……」

 カレンは肩を竦め、掃除用具を片付ける為に歩き出す。バケツもモップも渡して貰えなかったけれど、慌てて雪路が横に続くと、軽く笑った。

 「早く片付けて夕飯に行かないとね」

 「うん」

 ウェンディも待っているはずだと気を取り直した雪路に、カレンは少し緊張したように小首を傾げる。

 「私、鉱夫や工女とゴハンなんて初めてなんだけれど……」

 「ちゃんと紹介するから大丈夫だよ」

 「うん……」

 頷いたカレンは、少しだけ考え込むように廊下の床を見詰めた。

 「……今まで、ここしか居場所はないと思ってた」

 だから、食堂も風呂場もどれだけ嫌がらせされても、ここしかないのだと、必死に耐えて、なんとか使える時を伺っていた、と。

 「でも、確かに、考えてみれば、外には食堂だって、お風呂だって、別にあったんだもんね」

 そこに踏み込む勇気やキッカケを、掴めないだけだったのだと、小さく笑う。

 「今更だけどね、雪路に声掛けて貰えてよかったわ、ありがとう」

 「ど、どういたしまして……」

 素直な感謝に、どうして良いかソワソワと頷くと、またカレンはケラケラと笑った。

 「雪路って、結構バリバリ言うべきことは言う、負けん気が強い子かと思ってたんだけど。案外、ソワソワしてて可愛い感じね」

 「え」

 「誠様って、意外と、そういう可愛いタイプが好きでいらっしゃったの?」

 その言葉に、雪路はパチリと目を瞬いてから、苦笑いして首を左右に振る。

 「あー、なんか、私の本命、誠さん説が有力らしいけど……。あの、実は、違うからね?」

 「え?」

 目を瞬いたカレンに、誠さんはお兄ちゃんみたいなもの、と呟いて。

 「……あの誠様をお兄ちゃんって……」

 一瞬、絶句したカレンは、次の瞬間にはコロコロと笑い出した。

 「わかった。雪路って、変な子なんだ」

 「え、ちょっと、どういう意味?」

 心外だと膨れる雪路に、カレンはコロコロと構わず明るく笑い続けていた。


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