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魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.8
74/323

8-6

 部屋の掃除を終えて、ウェンディとの待ち合わせ場所に行く前に。

 雪路は、カレンの部屋に行った。

 相変わらず引き篭もって、風呂や食事に不便しているカレンに対して、差し入れを入れた籠を吊るしたり、食事や風呂に誘ったりは、もう半ば習慣になっている。

 けれど変わらずカレンからの返答はなくて、最初の日に向けられた怒りを思うと、大きなお世話なのではないか、自己満足の余計な行動なのではないかと、毎回、扉をノックする手は強ばった。

 「……カレン」

 それでも、いつもなんとか勇気を掻き集めてノックして、呼び掛ける。

 「ねぇ、カレン、夕飯に行くんだけど、一緒に行かない?」

 呼び掛けに答える声は、いつも通り、なかった。

 怒声が返って来ないだけ良いのか、それとも、怒りすら通り越した無関心になるほど、嫌悪されてしまったのか。

 後向きな思考が一瞬過ぎって、慌ててそれを振り払い、雪路は小さく息を吐いた。

 「……じゃぁ、その、ごめん。お邪魔しました……」

 扉から身を離そうとした時。

 「ねえ」

 聞こえた声に、ビクリと肩が跳ねる。

 「……な、に?」

 怖々と聞き返すと、相手も戸惑うように数秒を開けた。

 「……さっき、貴方が帰って来る前、ラビニア達が廊下で何か笑ってたんだけど……その……」

 何かされたの、と、細く聞く声。

 「……あの……うん」

 一瞬、迷ってから、雪路は素直に頷いた。

 「ベッドマットとか、掛け布団とか……ダメにされちゃって……」

 すると、数秒の間があった。

 それから、カタリと、小さな音が扉の向こうで聞こえた。

 「カレン?」

 怪訝に首を傾げた瞬間、扉は不意に開いた。

 「え」

 「貸したげる」

 「え」

 何とも言えない、少し気まずい表情で、カレンは毛布を二枚、押し付けた。

 「え、あの」

 「明日、決闘なんでしょ」

 小さく息を吐いて、ほら、と雪路の腕に毛布を強引に持たせると、再び、カレンは扉を半分ほど閉めた。

 「風邪ひいたらアレだし」

 じゃあね、と。そのまま、返答を待たずに扉は閉まる。

 「……あ、ありがとう」

 呆然と数秒を置いてから言った雪路に、今度こそ、返答はなかったけれど。 

 「毛布」

 何の変哲もないフカフカの、青い毛布が二枚。間違いなく手の中にあることに、雪路は、ニンマリと笑った。


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