8-6
部屋の掃除を終えて、ウェンディとの待ち合わせ場所に行く前に。
雪路は、カレンの部屋に行った。
相変わらず引き篭もって、風呂や食事に不便しているカレンに対して、差し入れを入れた籠を吊るしたり、食事や風呂に誘ったりは、もう半ば習慣になっている。
けれど変わらずカレンからの返答はなくて、最初の日に向けられた怒りを思うと、大きなお世話なのではないか、自己満足の余計な行動なのではないかと、毎回、扉をノックする手は強ばった。
「……カレン」
それでも、いつもなんとか勇気を掻き集めてノックして、呼び掛ける。
「ねぇ、カレン、夕飯に行くんだけど、一緒に行かない?」
呼び掛けに答える声は、いつも通り、なかった。
怒声が返って来ないだけ良いのか、それとも、怒りすら通り越した無関心になるほど、嫌悪されてしまったのか。
後向きな思考が一瞬過ぎって、慌ててそれを振り払い、雪路は小さく息を吐いた。
「……じゃぁ、その、ごめん。お邪魔しました……」
扉から身を離そうとした時。
「ねえ」
聞こえた声に、ビクリと肩が跳ねる。
「……な、に?」
怖々と聞き返すと、相手も戸惑うように数秒を開けた。
「……さっき、貴方が帰って来る前、ラビニア達が廊下で何か笑ってたんだけど……その……」
何かされたの、と、細く聞く声。
「……あの……うん」
一瞬、迷ってから、雪路は素直に頷いた。
「ベッドマットとか、掛け布団とか……ダメにされちゃって……」
すると、数秒の間があった。
それから、カタリと、小さな音が扉の向こうで聞こえた。
「カレン?」
怪訝に首を傾げた瞬間、扉は不意に開いた。
「え」
「貸したげる」
「え」
何とも言えない、少し気まずい表情で、カレンは毛布を二枚、押し付けた。
「え、あの」
「明日、決闘なんでしょ」
小さく息を吐いて、ほら、と雪路の腕に毛布を強引に持たせると、再び、カレンは扉を半分ほど閉めた。
「風邪ひいたらアレだし」
じゃあね、と。そのまま、返答を待たずに扉は閉まる。
「……あ、ありがとう」
呆然と数秒を置いてから言った雪路に、今度こそ、返答はなかったけれど。
「毛布」
何の変哲もないフカフカの、青い毛布が二枚。間違いなく手の中にあることに、雪路は、ニンマリと笑った。




