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今日は、部屋は無事だった。
かわりに、部屋の扉の前には食堂のゴミが撒かれていて、鉱山から帰宅した雪路はまずそれを片付けなければならなかったけれど。おまけに、掃除用具はどこかに全て隠されていたので、ブヨブヨと湿ったゴミを手で掻き集め、予備のシーツに包んで何度かゴミ置き場まで往復することになった。
臭い、汚い、と、通りすがりの花嫁候補達が笑うのを何とか無視して、ようやく片付けを終えた雪路は、手を洗ってから、とぼとぼと銭湯に行った。
待ち合わせていたウェンディや工女達は、約束より遅く来た雪路に、口々、今日は何かされなかったか、大丈夫か、と心配そうで。
「ごめん、ごめん!ちょっと部屋の前にゴミ撒かれちゃってさ、捨てに行ってたの!」
雪路は笑って首を左右に振った。自分で選んだ状況なのに、彼女達に心配を掛けるのは何だか悪い気がして、あるいは、汚い、臭うと笑われたと言うのが酷く恥ずかしい気がして、詳しく語る気にはなれない。
「よく、あんなの私の部屋の前まで運んで来たなぁって感じだよね」
あはは、と笑う雪路に、ウェンディや工女達は何とも言えない表情をした。けれど、何か察したように、 それ以上は何も言わない。
「皆、ごめんね、洋服借りちゃって……」
雪路は少し視線を落として言った。
「良いのよ。でも、何とか日曜日までに決闘用の服が一着必要よね」
「うん。それは、仕立屋さんが最優先で作って間に合わせてくれるって」
気にしないでと笑うウェンディ達と、脱衣場を出て温かい湯に浸かる頃、ひとまず話題はそうして洋服に移る。
「ホント、信じられないわ……。ひとの服を全部切り刻むなんて……」
「度を越してるわよね」
ウェンディが呟き、他の工女達もウンウンと頷く。
「とりあえず軍服と普段着、二着は、日曜までに作って貰えそうだから、そこからは頑張って着回すよ。でも、それまでは、ご迷惑お掛けします……」
雪路は苦笑いして首を振った。
人目に付くわけでもない下着は、工女用の量産品を買ってもひとまず対処出来る。しかし、表に出る洋服に関しては、治安や風紀上も、花嫁候補である雪路が工女向けの量産品ばかり着続けるのは宜しくないのだ。大量生産品を買えば済む問題ではない。
よって昨日、閉店ギリギリの仕立屋に駆け込んで服を注文したは良いが、空になったクローゼットを再び埋めるにはそれなりに時間が必要だ。ひとまず土曜までに普段着を一着、そして日曜の決闘用に以前と同じ軍服を、他の花嫁候補からの注文より優先して間に合わせる、と、仕立屋も最大限、協力してくれたのだけれど。
それでも、二着目以降の普段着は、早くて来週の頭以降になるそうなのだ。
「私達にとっては別に迷惑でもないわよ」
「二着で着回しなんてキツいわよ、もう少し頼りなさいな」
「銭湯に来る時に、順番で誰かが一着、貸す服持って来れば良いだけだし」
申し訳なくて小さくなる雪路に、各々髪や体を洗いながら工女達は笑う。
「出来ることは協力するって、言ってあるでしょ。良い?何かあれば遠慮しないで言うのよ、絶対にね!」
「うん、ありがとう」
反対隣で顔を洗うウェンディの言葉に、素直にありがたいと思って。
笑顔で返しながら、それでも、同時に頭の隅に居座った不安はいなくならない。
それが申し訳なくて、雪路は思い切りシャワーを被って顔を伏せ、不安を表してしまいそうな顔を隠した。




