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ニコロの鉱山にも、雪路の他に二人、花嫁候補が補佐として務めていた。しかし、そのどちらも中央事務室ではなく、各地区を任されており、今回の件についての反応も薄い。
「貴方もどっか地区が欲しいって言えば?」
一人はそう言って肩を竦めた。
「私、ニコロ様のファンだから、よく補佐に来てるけど、でも正直、中央事務室は絶対にイヤ」
今日は三倍の弁当が届きます、と通達されて慌てて弁当を置くスペースを作り出している書記官達を尻目に、椅子に座ったまま、その花嫁候補は立っている雪路を見上げる。
「そりゃぁ、ニコロ様の可愛らしいお顔を近くで見ていたいとは思うけど。でも、あの方、基本的にドジなんだもの」
面倒を見るのが大変だ、と花嫁候補は軽い口調で言い放つ。
「そこが可愛いところでもあるんだけれど。お茶を零して慌ててる姿なんて、もう抱き締めたいくらい」
しかし、仕事の失敗で巻き込まれるのは嫌だと言うことらしい。
「ドジだけど頭は良い方だから、自分で最終的な尻拭いはしていらっしゃるけど。でも、ほら、今の貴方みたいに尻拭いの時の雑用をするなんて、私嫌よ」
「なるほどー……」
雪路は苦笑いで応じた。
(まぁ気持ちは分かるけどね)
しかし、後でワタワタと荷物を動かしている書記官二人の手伝いくらいはした方が良いのではないかな、と思ってチラチラ視線を向けているのだけれど。
「あ、今の告げ口とかやめてよね」
花嫁候補はピシリと硬い声で雪路だけに意識を向けている。
「貴方、誠様が好きだって噂だから、まぁ、ニコロ様に他の花嫁候補の悪口言うことはないと思うけど」
「え」
いつの間にそんな噂が花嫁候補にまで広まっているのだと思うけれど、よくよく考えれば今も色違いでデザインそっくりの軍服など着ているのだから、その手の噂は立って当然かと思い直す。
(しかし、私が誠さんを好きって……)
ないない、と雪路が内心で真顔で否定している間に。
「でも、貴方ってドン臭い新人だから、何か口を滑らしそうなのよねぇ」
「え」
堂々と悪口を言われたな、と思わず雪路は目を瞬く。
「そ、そうかな?私、ドン臭い?」
「そりゃね」
花嫁候補は小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「なんか工女とか鉱夫とかと仲良くしてるみたいだし。そういうの良くないわよ、身分を弁えてないっていうか」
来て間もないからかもしれないけど、と、宣う彼女の後で、聞き付けた書記官達がコッソリとブーイングのジェスチャーを取っている。
「それにこの前も、アントワーヌ様の帽子の件でイザベラに睨まれ掛けてたし」
「あー……うん」
これでもかとブーイングを込めた書記官達の顔芸とジェスチャーが見えている雪路は、笑いを堪えて必死に真面目な顔をする。
「貴方、時々、ちょっと空気読めてないから。イザベラと貴方の空気が悪くなると、近くにいる私達も嫌な思いするのちゃんと理解してよね?」
「き、気を付ける」
笑いを堪えている雪路は、少し声が震えたけれど、花嫁候補は、どうやら説教が効いたと解釈したらしい。
「ま、ちゃんとしてくれれば良いのよ。私、貴方の事は嫌いじゃないし」
「ありがとう」
イザベラほどではないけれど、この子も面倒臭いなぁと思いつつ。いよいよ笑いを堪えるのが辛くなってきたので、雪路はそれではと背を向けた。
「わ、私、次の地区に通達に行くから!」
そうして事務室から走り出て、坑道を駆け下りながら。
「やばい、あの顔はヒドイ!!」
書記官達の顔芸を思い出し、腹を抑えて大笑いするのだった。




