3-3
しかし、良い日、で、そのまま終わらない。
屋敷に帰ってすぐ、タオルと着替えを持って風呂に向かうと、異変に気付いた。
「あれ?」
屋敷の風呂は、和洋折衷な作りになっていて、間仕切で区切られたシャワーがいくつも並んだ洋風のシャワールームと、一気に五人程度が入れる大きさの和風の風呂釜がある小部屋に分かれている。
しかしどちらも電力やガスではなく、魔法の鉱石によって動き、お湯を出す仕組み。そして動力になる鉱石は、脱衣場の鍵の掛かる箱に入っていた。
いつもならば風呂時にはその箱の鍵が開けられ、鉱石を嵌め込むパネルに適宜花嫁候補達が自分で石を入れて使えるようになっているのだけれど。
「鍵、掛かってる……」
脱衣場も風呂場も真っ暗だったから、嫌な予感はしていたのだ。確かにいつも皆が風呂に入る時間は過ぎてしまっていたし、もしかしたら、という予感はあったが。
「えぇ、どうしよう……」
昼間ならば鍵を持っているのは、炊事や掃除をしてくれる女中達だったはず。しかし、彼女達は身分上は工女なので、夜は特別な事情が無い限り、仕事を終えると寮に戻ってしまうのだった。
(夜はイザベラが持ってるんだっけ……。今、談話室で寛いでるよね……)
寛いでいる彼女に、おそらく彼女の部屋にあるのだろう鍵を貸してくれと頼むのは中々勇気が必要である。彼女の気分を害さず、ソファーに座っている彼女を立ち上がらせるのが至難の技であることは、この数日でも十分に分かる。
どうにかそれ以外の手段はないものかと、雪路は顔をしかめた。
「……そういえば」
少し考えて、思い付く。
「工女の寮には、お風呂がないから、銭湯に行くんだっけ」
確か、ウェンディがそう言っていた。
この世界は無尽蔵に魔法の鉱石が湧き出すけれど、それを掘り出すのには当然それなりの時間が掛かる。だから住人達が動力に使える鉱石は無尽蔵というわけではない。また、魔法の鉱石で動くシャワーや水道の仕組みそのものが高価な技術であったりする。
特権階級の花嫁候補ならば当たり前のように使い放題している風呂も、実は鉱夫や工女達にとっては高級品。寮や借家では設備や鉱石の費用を維持できないから、銭湯に行くという話だった。
「……まだやってるかな?」
工女達や鉱夫達は仕事が遅くなる事もそれなりに多いと聞く。ならば、銭湯もそこそこ遅くまで営業しているだろうと踏んで、雪路は動き出した。
部屋に戻って寝巻きを置き、タオルと変えの下着、石鹸や化粧水をバッグに詰め込む。
「場所は……何となくは分かるし、大丈夫でしょ!」
急げ急げ、と自分を急かし、雪路はそのまま、浮遊魔法で窓から外に飛び出した。




