表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.2
19/323

2-13(1/3投稿始点)

 「機械の部品が落ちちまったもんで……」

 採掘現場の一角、案内された雪路は納得して、ううむと腕組みした。

 視線の先には、崖があった。十メートルほどの深さで、ところどころにゴツゴツと岩が飛び出ている。その飛び出た岩の幾つかの上に、確かに灰色に光る金属質な物がチラホラ見えるのだった。

 昨日壊れた機械は、この崖の上を横切る長細いベルトコンベアのような物で、修理に来た修理工が、うっかり部品の箱をひっくり返してしまったらしい。

 「予備の部品とかは?」

 「それが、この機械は型が古いもんで……。在庫はあれきり。後は特注する事になるらしくて」

 困惑して言った雪路の問に、班長も苦い顔で応じる。

 「特注で作るとなると、費用も申請し直しですし、何より納品までひと月以上掛かります。型が古いのに加えて厄介な事に、コイツは鉱石の魔力でしか動かない種類なもんで、部品に魔法を込めにゃならんのです」

 横に並んだ機械工は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 「魔法を込めるとなりゃ、フロール様……魔女の五男様直々の管轄ですから、ちとそっちの申請も厄介ですし……」

 「なるほど……」

 どうにか拾いあげる事が出来れば、色々と万々歳なわけか、と、雪路はジッと崖下を覗き込んだ。

 「ロープでも腰に巻いて誰かが降りるか、ってのも考えたんですが……何しろ、あっちこっちに散らばってますから」

 一箇所に降りては上の人々に引き上げてもらい、また別の場所に降りて、というのでは流石に人手が掛かり過ぎて効率が悪い。

 「やっぱり、特注するしかないですかねぇ……」

 班長が諦めたように呟いたところで、雪路は覚悟を決めた。

 「あの、ロープ貸して貰えますか?」

 「はい?」

 「私、もしかしたら、拾えるかも」

 「え?」

 怪訝な顔をする班長と鉱夫を横目に、雪路はちょっとドキドキしながら崖に近付く。

 (うん、やっぱり、念の為に命綱は付けよう)

 こくこくと保険を掛ける理性に全面賛同しつつ、何だ何だと困惑したままロープを持ってきてくれる班長を振り向いた。

 「ありがとうございます。ええと、こっちの端は、この柱に結んで……」

 頑丈そうな岩を削り出した柱にロープの片端をしっかりと固く結び付け、その反対端は、自分の腰へ。

 「まさか、アンタ」

 「花嫁候補さん、辞めた方が良いですよ」

 察した機械工が慌てて雪路にそう言った。

 「班長の言う通り、下ろして引っ張り上げてじゃ効率が悪い。確かに貴方なら俺達よりは軽くて引っ張る人手が少ないかもしれないが……」

 「引っ張る人は必要ないです、私なら」

 「え?」

 キョトンとした二人の前で、雪路はドキドキする心臓を押さえ込んで、まずは一歩、その場で、足を上げてみる。

 (足場……足場が、あると、思う……)

 そこに見えない階段があるのだと自分に言い聞かせ、踏み出した先。

 地上から十五センチ程度上の、何もない空間を、確かに雪路の足は踏んだ。

 「よしっ!」

 ピョンと、もう片足も上げてしまえば、間違いなく完全に、それは宙に浮いたと言える。

 (あれから地味に練習しててよかった!)

 練習しておけとアントワーヌに言われた通り、毎晩寝る前に部屋の中を歩き回る程度の練習をしていた成果が、今、試される。

 スタスタと二、三歩空中を歩いて足慣らしする雪路に、ポカンと、班長や機械工だけてなく、その周辺で採掘作業をしていた鉱夫達も驚いて手を止めた。

 「魔法か」

 ようやくと誰かが呟くのが聞こえて、雪路は、うん、と頷いた。

 「〝狩人の試練〟の合格報酬は、浮遊の魔法と、運動神経の向上らしいですよ」

 「なるほど。誰も合格した事がなかったから知らなかったが、合格報酬だったのか。浮遊魔法なんて、てっきり子息様方しか使えんかと……」

 感心したように班長は頷いた。

 「それなら願ったり叶ったり、どうぞ拾って下さいよ」

 「が、がんばりまーす」

 実は怪我しない程度の高さでしか一人で浮いた事は無いのだけれど、と、心中で呟きつつ。

 にわかに興味深そうに視線を向けてくる鉱夫達の中、雪路は深呼吸をして、ゆっくりと崖の淵ギリギリに近づいた。

 (命綱はあるんだ、大丈夫、大丈夫……!)

 建物で言うならば三階ほどの高さがある崖。怯む内心を押し殺し、ぎゅっと拳を握る。

 (……足場、足場……銀の足場……)

 今は何もない手のひらに、黒い手袋の柔らかい心地を思い出す。しっかりと支えてくれる手は、今はないけれど。

 「大丈夫、大丈夫、私、きっとできますから」

 小声で呟いて踏み出した。

 ふわり、と、軽やかに、でも確かにしっかりと、その足は風を踏みしめる。

 「よし」

 最初の一歩が成功した瞬間、ふっと、何か吹っ切れたように恐怖は消えた。

 「拾って来ますね!」

 背後の鉱夫達を振り向いて、ヒラヒラと手を振ると、タンタンタンと、雪路は軽い足取りで宙を駆け降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ