8話 異世界イメクラ
「今丁度、巻き付き攻撃耐久コースを受講されてるお客様がいらっしゃいます。バレないようにこちらから、こっそり見学なさってください」
「ちゃんと許可とってるんだろうな……」
小窓の前で俺はこそこそと見学する。
コースって何の事だろう、疑似戦闘をやるんじゃないのかと、疑問に思いつつ扉に近づく。
小窓を覗くと、下半身がヘビで上半身が美女、俗に言うラミアと、戦士風の出で立ちをした青年が、対峙しており、両者の会話が聞こえてくる。
「また懲りずにやって来たのね。今日はどのくらい持つのか楽しみだわ」
「俺……これに耐えきったら、あの子に告白するんだ……」
死亡フラグ立てながら、意気込む青年に対し、ラミアは、余裕の表情をしている。
ラミアの方からは、何処なく強者のオーラの様な物を、俺は感じていた。
「「いざ! 勝負!」」
戦闘が始まるとラミアは、長く太いしっぽで青年をぐるぐる巻きにしてしまう。
青年の顔がすぐさま苦悶の表情に変わる。
かなり強烈に締め上げられている様で、防具が軋む音が響く。
数分後、青年の顔が赤らみ、息も荒くなっている。
恐怖とも戦っているのか、ハァハァと苦しそうな吐息が時折漏れる、そろそろ限界が近いのだろうか。
予想外の荒治療に、本格的だなと俺は思い始めていた。
しかし青年による渾身の咆哮を聞いてしまい、俺は評価を180度変えざる終えなかった。
「もっと、もっとだ! あの子の締め付けは、こんなものじゃなかった! まだまだ彼女に相応しい男になれてない! うおおお!! ロールミープリーズ!!!」
おいPTSDじゃなくて、つり橋効果とストックホルム症候群併発してんぞ。
早く目を覚ませ、かっこよく叫んでるが、一番ダメな奴だぞそれ。
担当が全員モンスター娘って特級レベル作った奴、確信犯だろ。
似たような連中が、PTSD克服という名目の、ご褒美を受けていた。
別室ではスライム娘と、対峙する童顔の少年。
全身を粘液で包まれてしまって、身動きがとれないでいる。
そんな少年に甘く囁く、スライム娘。
「うふふ、私は鎧の隙間から簡単に入れるのよ♪ こんな風にね。あんなところやこんなところも、簡単に入れちゃうんだから♪」
「ふあぁぁ! そんなとこらめぇぇ! アッー!」
喜べ! 念願の触手プレイだぞ! って男の触手プレイとか誰得だ!
しかし……うむ少し羨ましい……。
魔眼耐久コースなるものでは、コウモリのような翼に、頭から2対の角が生え、尖った耳、ボンテージ姿の悪魔っ娘に、四つん這いになった青年が足蹴にされ、恍惚の表情で鞭でしばかれていた。
「ほらほら情けないわねえ、抵抗してみなさいよこのブタ野郎!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
魔眼関係なくない? こいつはもう手遅れだ、助からねえ……。
けど悪魔っ娘ちゃん……だめ! 全然なってないもっとこう手首のスナップを利かせて! そうそういいよその威力。
しかし思わず正気に戻り冒険者のこの様な有様に、俺は思わず怒号を上げてしまっていた。
「なんだこの桃源郷は!? もっと別のモン娘と戦ってる奴はいないか! 後学のために見学したい!」
欲望駄々もれである。
「あいにく、今のところいらっしゃいませんね。過去の戦闘なら、この記憶石に保存して残してありますよ。後世に伝えるためにですが、ご覧になってみますか?」
こんな痴態を映像として、残されるとかどんな羞恥プレイだよ。
「記憶石って利用者全員、証拠録られるのかよ……」
「いえ、全員ではないですが、追加料金を払うと記念として、記憶石にその時の映像を記憶するサービスが利用できまして。こっそり複製して、非常に高額な特級レベルを簡単に受けれないお客様に、リーズナブルなお値段で提供させていただいてます。皆さん向上心が高く、新たな記憶石が無いか結構な頻度で問い合わせが来るんですよ」
プライバシーもへったくれもないな、どうなってんだ。
「さらっと残酷なことするんじゃねえ! 複製されて売られた奴、もう表歩けねーじゃねえか!」
「その点はご心配なく。オリジナル以外は、曇らすの魔術で、肝心の部分は処理済みですので」
「本当か!? そ、そんなに言うなら試しにみ、見てやってもいいぞ。1,2個持ってきてくれ」
曇らすとは、モザイクのことだろうか、俺は試しに記憶石を見せてもらうことにする。
後学のため! 後学のためだから! やましい気持ちは9割くらいだから!
羨ましいとか、他にどんなプレイ、じゃなかった、戦闘訓練があるか知りたいだけだ。
プライバシーが守られているかチェックするだけ。
おっちゃんが持ってきてくれた、数個のうち、一つの記憶石を再生し俺はゴクリと唾を飲んだ。
モンスター娘にのし掛かられ、顔を赤らめながら息が荒くなってる青年が映る。
目線と肝心の部分には、おっちゃんの言うとおりしっかりモザイクのようなものが掛かっている。
「オィ! モザイク掛けるところが、的確過ぎて余計卑猥なAVみたいになってんぞ! これ!」
「おや、お気に召しませんでしたか。他のお客様には非常に好評で、シリーズ化もしてる人気作なんですよ」
「シリーズ化ってなんだ! 完全に用途間違ってるじゃねーか! しかも出演冒険者の名前全部同じだ! どんだけハマってんの!? ドM養成所かここは! 特殊性癖持ち御用達のイメクラじゃねーか!」
おっちゃんが持ってきてくれた数個の石はシリーズ作で、中身は似たり寄ったりだった。
「もういい! 俺に記憶石選ばせろ! どこだ! どこにある!」
「ずいぶんこだわりがあるようですね、まぁいいでしょう。数は少ないですが、好きなのをお選びください」
記憶石が並べられている、棚の前に連れて来られ、俺は血眼になって棚を漁った。
「どこだ! 獣人ケモっ娘とニャンニャンしてるやつや、アラクネ姉さんの蜘蛛糸緊縛ものは! 何ぃ! 全部SOLD OUTに貸し出し中だと! 石化物やレベルドレインまでありやがる! お前ら真面目に冒険しやがれ!」
俺は思わず激昂したが、さっきのおっちゃん店員が良い知らせを持ってきてくれた。
「あぁ、獣人との戦闘対策をご希望でしたか。それなら今さっき、予約なさってたお客様が、見えられましたよ」
「マジで!? 是非見学させてくれ! 出来たら参加させてくれ!」
「参加はだめです。こちらへどうぞ」
先ほどとは別の小窓付きの扉の前へ俺は案内された。
どんな娘がいるのかと、俺は興奮を抑えきれずに思わず小窓に飛びついた。
そこには、頬に傷があり短髪の寡黙そうな大男と、その男の腰くらいの背の高さしかないケモっ娘が対峙していた。
全身褐色の毛並みので覆われたネコの様な獣人、実に俺好みである。
絵柄だけですでに犯罪臭がする、だから今すぐ俺と交代しろ。
「マジか! あんなケモ幼女と、くんずほつれつするのか! うやらまけしからん! 今すぐ俺に変われ!」
「素人が真似すると、大怪我してしまいますよ」
その言葉の意味を、俺はすぐ理解することになる。
男は静かに床に胡座をかき、幼女を静かに見据える。
ケモ幼女は四つん這いになり、獲物に襲いかかる獣特有のファイティングポーズを取る。
その身を地面スレスレまで下げた姿勢を取り、じりじりと男の周りを回っている。
その様子はさながらライオンかトラの様だったが、男は正面を見据えたまま動こうとしなかった。
ケモ幼女が不意に、男の真後ろでピタッと止まると目にも止まらぬ早さで飛びかかろうとしている。
が、フェイントで男に当たる直前でブレーキをかけ、90度ほど軌道を変え飛び退いていた。
それでも男は微動だにせず、まるで動きを読んでいたと言わんばかりに、目だけがケモ幼女の動きを追っていた。
なん……だと! 信じられん! 真面目に訓練してる奴が居やがった!
俺は思わず意識を集中し、目を凝らして見た。
すると男が自分の稼働範囲で間合いを制することにより、自分の陣地に結界のような物を張っているのが、はっきりと見えた……ような気がした。
その結界を易々と突破する幼女も、きっと相応の剛の者なのだろう。
獣の俊敏さで変幻自在のフェイントと、突進後退を繰り返す幼女、それを目で追い続ける男。
しかしその攻防を見続けているうちに、俺はある違和感を覚える。
攻防が一向に進展していないのだ。
どういうことだと首をかしげていると、俺はある重大な事に気づいてしまう。
胡座をかいた男の膝辺りから、ケモ幼女に見えるか見えないかの位置で、ネコじゃらしのような物が顔を覗かせていた。
幼女の方もよく見ると、ネコじゃらしを見つけて目がまん丸に見開いている。
更に観察をするとケモ幼女のネコ特有のひげが広がっており、出し入れされるネコじゃらしに合わせて腰と尻尾をフリフリしている。
お前らネコカフェでやれ! てか俺にもやらせろ!
俺は思わずおっちゃんにこの光景は何なのかと訊ねていた。
「なんか……凄く楽しそうなんだけど」
「これを楽しそうですと! 彼の獣人の野生を呼び覚ます繊細なテクニックと、獣の動きを的確に追う動体視力、あらゆるパターンを予測する先見の明がなければ到底できぬ芸当ですぞ!」
俺の言葉に、おっちゃんはこちらを振り向き、激昂して熱弁を振るうが、小窓からは相変わらず微笑ましい光景が目に入ってくる。
男は立ち上がり、ネコじゃらしを幼女の手の届かない位置に掲げている。
それをケモ幼女がジャンプして何度も取ろうとし、その度に男が高さを変え取られまいとする。
かなりほのぼのとした、攻防が繰り広げられていた。
「獣人の野生の力強さを体験し、一歩間違えれば大怪我をするかもしれない、荒行なのですぞ!」
尚も熱弁を振るう、おっちゃんの後ろでは、遊びに飽きたケモ幼女が、再び胡座をかいた男の足の窪みにすっぽり収まり、丸まって毛繕いを始めていた。
そしてその子の頭を、優しく撫でる男。
野生の欠片も見えねえ、止めろ、その攻撃は止めてくれ俺に効く。
予想の斜め上を行く光景に、俺の心と体は、色んな意味で限界だった。
フラフラとロビーに向かうが、俺の身を案じてなのかおっちゃんが退店を促してくる。
途中一人の女性が近づいてくる、見た目は普通の女性でとびきり可愛いかった。
下半身が触手で、蠢いているのを除けば。
「おはようございまーす。あれ? その人お客さん?」
「あぁ、おはよう、いや今からお帰りになる方だよスキュラちゃん。今日から初仕事頑張ってね」
「そっかー、好みだったのに残念。次来るときは是非指名してね、私の触手凄いんだよー。10秒で昇天させる自信あるんだから。じゃまたねー♪」
と陽気に触手をくねらせ去って行った。
「特級の新人でして、教育がなってなくてすみません。お疲れの様子ですし、今日は帰られた方がよろしいですね。ささ、出口はあちらです」
「オヤジィ!! 誰が帰るっつったぁ!」
「大人一人、特級スキュラちゃん指名で。テンタクル耐久10いや、30分コースで、ツケで頼む」