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7話 人魔共存の道

 俺は人魔共存の街で、わざわざ対モンスター用の戦闘訓練所を作ったバカちんの顔を、拝んでやりたくなった。

 模擬戦とは言え、全方位に喧嘩を売るスタイル、炎上商法なら大成功だ。

 可愛いモン娘を痛め付けてたりしたら、許さんからな! と意気込んで入店したものの、俺は中の様子を見て驚いてしまった。

 何と倒されるはずのモンスターが講師をやっている、面白おかしくとはいかないが、平和的に逃げる方法や直接戦っての戦術の伝授、更には基礎的な種族語の講義まで取り揃えている。


「おや、お客様は初めてですか?」

「何なんだここ!? てっきり連れ去られて来たモンスターと一対一で戦って、無理やり戦闘経験稼ぐような血なまぐさい場所だと思ってたんだけど……」

「ハッハッハッ考えが古いですなやはり平和に解決が一番ですぞ」


 戦うことでしか、価値を見いだせない戦闘種族を率先して雇っているらしい。

 彼らはほっとくと、野党や戦争の道具として扱われる、それを何とか解決できないかと考えて作られたらしい。

 目から鱗だ! 俺は思わず歓喜の涙を流していた。

 しかし自分の種族の弱点を、教えるに等しい行為、本人達は納得しているの俺は疑問に思う。


「人間は、たいした理由もなく殺しあうじゃん。直接やらないだけ俺らの方がましだろ。むしろこれで戦いが避けられるのなら安いもんよ」


 とあっけらかんとした、答えを貰った。


「平和になりつつあるこの世の中で、居場所を無くしつつある俺らの唯一の拠り所よ。本当はこんな場所が、必要無くなるのが一番いいんだけどな。まぁ、ここが無くなったらまずは、奴隷行きかもしれんがな。ガハハ」


 とも付け加えられ、モンスターの癖に、深い事語りやがると感慨深く俺は思う。

 しかし一番保護されるべきの、可愛いモン娘ちゃんが居ない……まぁ働き口はたくさんありそうだから、心配する必要はなさそうだけれども。

 ちょっとがっかりしつつ、俺はまぁこれも何かの縁と、店の説明を聞いてみることにした。

 太ったおっちゃん店員が、模擬戦の概要を伝えてくれる。


「模擬戦は下、中、上級コースと別れてまして、通常の戦闘や武器防具の使い心地試すなら、下と中がおススメですね。ただ技や魔術には制限が掛かりますので、そういった威力を試すなら上級ですね。中クラスだと担当が耐え切れずに、木っ端微塵になってしまう可能性がありますから」


 なるほどと納得しながら、もう一つコースがあることに健一は気づく。


「この特級ってなんなんだ? 誓約書まで書かされて。上級と何が違うんだ?」

「特級はちょっと特殊でして。冒険者救出法知ってます? あれのおかげで、設立したものなんですよ」


 あぁ、あのザル法ねと俺はは思い出す。


「法のおかげで、死傷者数は減少しつつありました。しかしながら強力な魔物に襲われた時のショックで、PTSDになる方が増えてしまいまして、そのまま引退する者も、少なくありませんでした。まあ救出してくれてるのが、大半は魔族やら魔物やらの、他種族なんですがね」


 意外に効果あるんだなと少し驚く反面、魔物に助けられるとは、皮肉だな政策だなとも俺は思っていた。

 てかPTSDの原因が、マッチポンプのせいなのでは……知らないふりをしておこう。


「特級はトラウマのあるモンスターと、対峙することで恐怖を乗り越えよう、というコンセプトです。体験者にあまり負担が掛からないよう、女性型のモンスターが担当いたします」


 なんだちゃんと居たのか! 安心した。

 しかもメンタルケアか、可愛いモン娘にはぴったりかもしれない。

 うんうん、体が完治しても心に負った傷が原因で、再起不能になってしまうことがあるだろうなと、俺は納得する。


「ですが時折勘違いして、ガチの方が経験値欲しさにやってくるんですよ……」

「脳が筋肉ででも出来てるのかその馬鹿チンは……」

「注意事項も読まずに、出会い頭に嬢……いえ担当に技をぶっ放して、大けがをさせた事故がありました。その事故が原因で、担当は引退するはめに……」


 あぁ脳筋馬鹿のせいで、貴重なモン娘が‥‥‥。

 可哀想にと、俺はしんみりする。

 人外好きの俺にとって大きなショックだったが、すぐに誤解だったことが判明する。


「亡くなったのか、そりゃ気の毒に」

「いえ、結婚して引退しました」


 どういうことだよ!? 今の話の何処に結婚する要素が!?

 事故で亡くなったって話じゃないの!?


「『私の事を一撃で倒すオスなんて、そうそういないんだ、逃がす訳には行かない!』 と、優秀な遺伝子を求める本能に、逆らえなかったんですかね。」


 モンスターだからってアクティブすぎんぞオイ! 


「その冒険者に文字通り、猛アタックかけまして‥‥‥冒険者の方も、怪我を負わせた負い目から無下にできずに、そのまま責任とって結婚してしまいました。意外に上手くいってるらしく、毎年手紙が来て、順調に家族が増えてるらしいですよ」

「自分を殺しかけた奴に、結婚申し込むなんて、ぶっ飛んでんな……」

「美人だったんで、皆に惜しまれながら引退していきましたよ。いや~あと10年は看板しょって稼げる、人気の美人モンスターだったのに」


 なんつうポジティブ羨ましい……。


「特級は美女を取り揃えてますからね。ですが二番煎じを狙って、技をぶっ放すお客様が増えてしまう結果になってしまいました。一撃で倒せないからと、即死魔法まで使う輩が出てきてしまう始末。担当がみんな怖がっちゃって、仕事に支障が出てきたので誓約書作成に至ったのです。」


 過程すっ飛ばしすぎだろ! ストーカーの方がまだマシじゃねーか!

 しかしこれは殺しあった相手でも、仲良くなれるという啓示なのだろうかと、俺はなんとなく考え込んでいた。


「トラウマだけでなく新たな出会い、じゃなかった、未知なる強敵の予習や、特定の攻撃に対する耐性を高めるために、ご利用になられる冒険者の方もいらっしゃいます。ある程度見学も出来ますが、いかがいたします?」

「あ、是非喜んで!」


 どんな可愛い娘、じゃなかった強敵と会うかも分からない、予習は大事だよね!

 おっちゃんの言い間違いが気になりながらも、俺はその提案に、有り難く乗っかることにする。

 階段を上り、店員らしきおっちゃんの後を着いていくと、小窓付きの、扉の前に到着する。

 そこでは、俺の想像の遙か斜め上を行く事態が、待ち構えていた。


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