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6話 門をくぐるととそこは異世界の街でした

 あれれ〜おっかしいぞ〜? 俺は記憶を消されたはず……。

 なのに昨日のことのように鮮明に覚えてる。

 いや実際、昨日のことなんだがと、俺はセルフつっこみを行っていた。


 状況を整理しようと、俺はあらゆる考察をしてみる。

 1番、神様の強化によって予想以上に耐性がついていて記憶消去を免れた、結構あり得そう。

 2番、彼女が魔法を掛けそこなった、というより俺の情報源を探るために、わざと記憶を残したと考えるのが妥当だろうか。

 そして最後、すでに強力な記憶操作を受けていて、記憶の上書きを受け付けなかった。

  強力な催眠術者に対抗するために、すでに催眠に掛かっておくって言うあれだ。


 原因はあの幼女神、堂々としてたくせに、本当は裸を見られたくなかったんだなと、俺は少し呆れていた。

 しかし俺には類まれなる才能があって、全部消されたと思った記憶が一部残ったに違いない!

 所々抜け落ちた記憶もきっとそのせいだ! と俺は明後日な方向へ推理をしてしまう。


 俺は盛大な勘違いをしながら、兵士に案内されて宿舎のような場所に到着した。

 中に入ると、温和そうな男性が、出迎えてくれる。

 俺は軽く周り見渡したが、簡易な椅子とテーブルが置かれた、よくある取り調べ室のように思えた。

 しかし奥の方に中世で流行った拷問器具のような物が、雑多に置かれているのに気づいてしまった。

 今使う場面じゃないよね……と俺は少し不安になる。

 そんな物を見てしまったせいか、これからの聴取に、俺は思わず声が裏返ってしまう。


「は……はじめまして! 健一と申します!」

「は、初めまして、今回尋問員を勤めさせて頂きます。形だけの簡単な調書なんで、そう緊張しないでください」

「ど、ども! すいません!」


 改めて状況を、頭の中で整理する健一。

 彼女が俺を泳がせていた場合、ここで下手に喋ったらヤバい。

 彼女が記憶操作を掛けていた場合、自分の術か効かず、秘密を握ったままだと知れたら、尚のことヤバい。


 どっちにしろ逃げ道はない。

 今はなんとしても、彼女がやったということは隠し通さねば。

 そしてついに、質疑応答が始まる。


「ではさっそく始めましょうか。いくつか質問するんですが……、率直に聞きましょう。彼女に記憶を操作されたり、操られていたりしますか?」

「し、してないです……」


 直球キター! 『はい! 私は操られてます!』なんてバカ正直に答えられる奴居る訳ねーだろ……大丈夫だろうかこの人。


「では次の質問。彼らの装備を外したのは、彼女ですか?」

「い、いいえ違います」


 外したのは俺なんです……俺は心の中で小さく謝罪する。

 惜しい! ほんの後数センチ、かなりニアピンなんだけど、ごめんなさい外れです。

 疑いは完全に彼女だけに掛かってる、俺が外したと思われてたら終わりだった……。


「そうか! やはり今回は、相当強力な魔物が出たみたいだね。並みの魔物じゃ解けないレベルのセキュリティが掛かっていたんだが、手足を持っていかれなかったのは奇跡だよ」


 言えない! 実際持っていかれる寸前だったなんて、口が裂けても言えない!


「うん、問題なし手間取らせたね、ご苦労様でした」

「え、もう終わり?」


 すんなり行きすぎて、拍子抜けしてしまった。

 こんなガバい質問の仕方で、何が分かるんだろうと俺は思ってしまった。

 今回、自分が装備を外してしまって、スルーできたが、今までどうやって誤魔化し、いや切り抜けて来たのだろう俺は不思議に思う。

 そんなことを考えていたら、すっかりそ顔に出てたようで、尋問員の人が補足してくれた。


「ん? 操られていたりしたら、質問も何も意味が無いって思ってる顔をしてるね。ご心配なく、秘密はこれさ」」


 とさっきから気になっていた、机の上にあった水晶球のようなものを指差す。


「何ですかこれ?」

「これはね、記憶操作による詐称も見破る魔具なんだ。稀少な物だが、魔族から特別に提供があってね、ありがたく使わせてもらってるのさ」

「もしかして提供したのって……」

「お察しの通り、君の事を助けてくれたアシュリーさんだよ」


 なるほど、町ではそう名乗ってるのか。

 余裕縮尺だったのも、すでに細工は隆々だったわけだ、抜け目ねえな。

 呆れるほどの手際の良さに、脱帽しながら宿舎を後にする。

 彼女に関する悪い情報は、カットアウトされているのだろう。

 俺はこちらから接触したり、目立たなければ大丈夫だと確信し、街への入り口の門を潜って行った。


 門を潜ると、そこは異世界の町でした。

 人ならざる者達が闊歩する、この街は初の人魔混合都市として成長を続ける、魔都アーバム。

 通りを歩くだけで、俺はその活気の良さに驚かされた。

 一歩外に出れば敵同士だが、街中の戦闘は基本禁止。

 外でのしがらみは、中には持ち込まない事となっている。


 記憶の中の情報と寸分たがわぬ光景に、あの女魔族が目を光らせているかもという不安も忘れ、俺は思わず童心に帰ったように心が踊っていた。

 何故ならそこかしこに夢にまで見てた人外が居る。

 下半身が馬の半人半獣、ケンタウロスが馬車を引いていたり、リザートマンの様なトカゲ男が武器屋らしき所に入店するのも見れた。


 中にはサキュバスっぽい店員が魅了の様な物を掛けて、店の物を爆買いさせている場面にも出会った。

 キャッチや詐欺よりひでぇや……俺も気を付けよう。

 しかし爆買いしていた青年は、サキュバス店員に腕を絡められ店の奥へと消えていく。

 気になってしばらく観察していたら、ようやっと男が出てきた。

 その表情は非常に清々しい物に見えた。

 あっ(察し)。


 羨む気持ちを抑え、俺は街の観察を続ける

 途中、緑色の大男が角材のようなものを担ぎながら、子供と一緒に歩いているのも見かけた。

 子供かと思ったら、顔はおっさんでひげを生やしている。どうやらオークとドワーフのコンビのようだった。

 今度作る建築物についての、雑談をしながら側を通りすぎていく。


 空を見上げると、両手が羽になっている人が、空を泳ぐように、進んでいる。

 ハーピィだろうか、腰にはポシェットのような物を下げ、手紙や巻物のような物が顔を覗かせてる。

 もしかして郵便配達のような、仕事をしているのだろうか。

 2階のベランダのような所に、器用に止まると、中に居る人にポシェットの中身を、手渡そうとしている。

 しかし手が羽なので、物が上手く取り出せず、手紙やらをばら蒔いて、慌ただしくしているようだった。


 さらに道を進むと、ふくよかなおばさんが焼きたてのパンのような物をテーブルに並べ、道行く人に売っている。

 隣には様々な薬草を並べて、同じように商売をしているお姉さん。

 注目すべきは、頭に咲いた真っ赤な大きな花と、木の根っこのような足。


「今日もいい天気ですね〜、あんまり天気が良すぎて、花が育ちすぎちゃうわ」


 アルラウネという奴だろうか。

 隣のおばさんと仲良さそうに、世間話にまさしく花を咲かせていた。


「魚〜魚は要らんかね〜、冷凍保存で新鮮だよ〜。あっつ〜エラ乾いちゃうわ〜」


 対面には水を張った桶に足を突っ込んだ女性が、だるそうに氷のブロックのような物を、売っていた。

 よく見ると氷の中には、魚や貝などの魚介類が入っている。

 桶に突っ込んだ足を良く見ると、魚のヒレのようになっていた。

 暑さにぼやきながら、氷漬けの魚を売買しているマーメイドだ。


「うわ~すげー! 色んな人外がいる…ここは天国か!」


 人間に飽きていた変態紳士の俺にとってここは桃源郷。

 他にも様々な種族が、行商をしていた。

 当然、奴隷屋などの危なそうな店も何件か見かけた。

 色んな物に目移りしながら、街の中を巡っていると、俺は記憶の情報にない、一風変わった看板に興味を引かれた。


「対モンスター模擬戦闘訓練所?」

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