28話 武器作成中止のお知らせ
「お前たち知人が働いてる住み込みの家に居座るとはなかなか図々しいのぅ」
「しょーがねーだろ金ねーんだし、それにバレッタもいつでも遊びに来てって言ってたじゃねーか」
「そうは言っても当日来る奴は初めて見たわい……格安で部屋貸してやるからそっちで寝泊まりせい!」
ファフニールの計らいにより格安で宿を提供してもらった俺たちは、ナインアイズテンハンドの2人の帰りを待っていた。
幾度となく店に足を運んでいたのだが、COLSEの縦札が掛けられており一向に帰ってくる気配がなかった。
近所に聞き込みを行ってみると、何でも特別な鍛錬をする際は精神統一と素材集めも兼ねて、しばらく出かけてしまうらしい。
それで足止めを食らってるわけだが、アシュリーの変身シーンを収めた記憶石の収入があるものの収支はほぼトントン。
主にアシュリーが料理と称してダークマターを生成して、食材を無駄にしているせいではあるが。
アシュリーが2人を探す伝手があるとかで、出歩いて探すのは無駄だと執拗に引き留めてきたので宿でのんびり待っている。
しかし暇だからと買い込んだ食糧無駄にするのはやめてもらいたい。
そんなこんなで数日たったある朝、たまたま早く目が覚めた俺はテーブルに紙吹雪のような紙きれが散乱してるのを見つけた。
はて昨日こんなのあったなかとあまり気にせず、テーブルに用意してあったミルクの入った木製コップを手に取った。
半分くらい飲み終えた所で、急に光を放って姿を隠していたと思われるフェアリーが現れる。
驚きのあまり飲んでた牛乳を吹き出しそうになってしまった。
「ブハ! ゴホゴホ! な、なんだ! 急に現れてびっくりさせんじゃねぇ! 気管に入ったじゃねぇか! ゲホゲホ!」
この騒ぎに気付いたアシュリーたちもやってくる。
「なんだ騒がしいぞケンイチ」
「いや! だってアシュリーこいつら不法侵入!」
「あぁいいんだこいつらは」
アシュリーの言葉に思わず頭に?が浮かび上がる。
「こいつらはフェアリー新聞社の号外配達員及び取材記者だ」
「配達員……もしかしてこの紙吹雪か?」
紙切れを2,3枚摘まみ上げて目を凝らしてみると、確かに絵のようなものと文字が掛かれている。
アシュリーが言ってた伝手ってこれのことなのか。
「拡大鏡無しに良く読めるなケンイチ」
「それはいいとしてフェアリーがさっきから執拗に腰の位置にミドルキックしてきて怒ってるんだけど、俺なんかした?」
キーキーとフェアリーたちは何故かご立腹だ。
「ケンイチここに置いてあったミルク飲んだだろ」
「え、あれ飲んじゃいけなかったの?」
「ありゃこいつらへの報酬みたいなものだ、用意しておくと号外とかを購読できるんだ。けどお前に飲まれたから怒ってるんだよ」
あぁ妖精に用意するミルクとクッキーか、安上がりでいいなと思いつつ、お詫びも兼ねて2杯分用意してどうにか怒りを収めることができた。
フェアリーが帰ってから、改めて伝手とやらの号外を目を凝らしてみてみる。
「で、この号外って信用できるんか?アシュリー」
「んなわけないだろフェアリーが書いてる記事だぞ9割ガセネタだ、その代わり網の広さと速さだけはぴか一だ」
「ですよねー……妖精って悪戯好きって聞くし、そもそも新聞なんて文化あったんだ」
「人間が妖精の情報収集能力を買って面白がって教え込んだんだ。最初は上手くいってたけどあまりに飛ばしやガセな記事が多すぎて結局妖精を解雇したっけな。号外は妖精の悪戯の延長みたいな物だ。」
全然ダメじゃねぇか……呆れつつも何か有益な情報が無いかを調べてみる。
「え~何々、魔王軍、人間の首都に進攻中?日付入ってないけどこれ何時の記事だよ……魔王と勇者熱愛発覚……本当だったらとんでもねぇスキャンダルじゃねぇか、って魔王幹部、部下に謀反を起こされ双方行方不明、目下捜索中これお前のことじゃねぇか!」
一部の奴しか知りえない確かに一部本当の記事も混じってやがる。
「その2つリークしたの私だ」
「熱愛もガチなのかよ……」
「さぁな~ほら金貨を隠すなら宝の中っていうだろ、ガセしか書かないフェアリー新聞の記事なんかほとんどの奴は信用せんからな」
軽く濁されてしまった、アシュリーの大胆な行動に呆れつつも、記事を漁っていく。
するとあまり信じたくない記事を見つけてしまう。
ナインアイズテンハンズ、武器の素材として人を誘拐か!?
「ちょっとまてー! あいつら何やってんだ!」
「随分イキがいい素材だな」
ご丁寧に動く写真のようなものも載ってる、店内から飛び出してきた人影をアラクネが糸でぐるぐる巻きにして、それをサイクロプスが持ち上げて揚々と店内に連れ戻す様子が映し出されていた。
「昨日の夜っぽいな、あいつら止めにいくぞ」
「それよりもやっと帰って来たんだなアイツら、朝食食ってからいこうぜケンイチ」
「食っとる場合かー!とっとといくぞアシュリー」
「ケンイチ……開店までまだ時間ある……朝食食べよ……」
「間に合わなかったら色々と不味いんだティフィ……」
人攫ってるかもということには驚かないんだなやっぱ魔族だな、それともガセ記事ってことでスルーしてるんだろうか。
優雅に朝食を取ろうとする二人を急かしつつ、ようやくナインアイズテンハズへと到着する。
すると昨日の出来事を再現するかのように店内から飛び出して逃げようとした人物を、エミリーがタックルで取り押さえ、アラクネが糸で簀巻きにして連れ戻しているところだった。
素材にされかけてるのは少女らしき人物だった。
「は~な~せ~! いやだー!僕をどうする気だー!」
声を張り上げ精いっぱいの抵抗を見せているが成すすべなく店内へ連れ戻されようとしている。
丁度いいどういうことがエミリーに問いただそう。
「あ、ケンイチ丁度良かった呼びに行こうと思ってたの」
「おいエミリー変なことしようとしたら止めろって言っておいたよな」
「ちゃんとタックルして止めたじゃん」
「そっちじゃねぇ! てかどっから攫ってきた! 生贄にしてけ〇のの槍でも作る気か! とっとと返してこい馬鹿垂れ」
身内で騒いでいるとアラクネとサイクロプスも店から出てくる。
「やっほーケンイチちゃん加工はこれからだよ~楽しみに待っててね」
「ちょっと待てサイクロプス武器はもういい!てか人間を生贄にするくらいならキャンセルするわ!」
「ちょっと勘違いしてないあなた?」
「どういうこったアラクネ」
「あの子シアエガちゃんよ」
「本当だ感じる魔力が一緒だ、そいつシアエガだケンイチ」
アシュリーからもあの子はシアエガだとお墨付きを貰う、予想外の事に思わず放心しそうになる。
何でもサイクロプスがいきなりシアエガをやっとこで掴んで窯に突っ込みかけた所、危機を感じてか人に擬態出来たらしい。
俺がジョブチェンジで職を弄った影響でもあったのだろうか。
「で再度釜に突っ込まれそうになり逃げだしたと、それで合ってるかシアエガ」
「本当冗談じゃないよいきなり釜に突っ込まれて死ぬところだったよ、しかもこの姿でも突っ込もうとするんだよ……」
サイクロプスに訳を話し納得してもらえた、俺はシアエガを連れ帰ろうとした。
「さすがだサイクロプス最高の出来だじゃこいつは貰ってくぞ」
「ちょっとー!何にもしてないし加工これからなんだけどー!」
「いやサイクロプス、このままでいい、このままがいい」




