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3話 異世界の森の中狩人さんに出会った

「ちくしょう!!! ちくしょおおおぉぉ!!!!!」

 俺は咆哮を上げずにはいられなかった。


「なんでじゃー!! 何で全裸姿に謎の光が入ってるんだ。肝心なところが見えねーじゃねーか! 半端に消しやがって! 余計悔しいじゃねぇか! ア〇ネス糞食らえ!」


 記憶の一部ってそっちかよと、俺は思わず落胆と怒りを露わにする。

 深く刻まれたはずの、悍ましい記憶は綺麗に消えていた。

 しかしながら、重要な情報も消されているかもという懸念は微塵に吹き飛び、怒りと悲しみが入り混じった咆哮を上げながら、俺は感情の赴くまま周りに当たり散らし始めていた。


 良くある木や岩に頭を打ち付けての流血ギャグをやろうとしたのだが、俺は思わぬ惨状に目を疑った。

 地面はクレーターを形成し、木や岩は無残にも粉々となっていて、まるで大型の化け物が暴れまわったような跡と化していた。

 やっぱり痛いのは嫌だったので、手加減してこの有様。

 なんだこれ! 強化ってレベルじゃねぇ!


「困らない程度どころか、扱いに困るレベルじゃねーか……」


 こんな所にいては色々と面倒になりそう。

 俺はそそくさと、その場を後にした。


 運がいいことに、この世界の時間の感覚、太陽のような物、月のような物満ち欠け、その他些細なことは、地球とほぼ同じで大差がないようだった。

 森の名前は『ガインの森』、様々な危険な動植物が跋扈するこの森は、あまり素人が立ち入るような場所ではなかった。

 道もあまり整備されてはおらず、馬車が一台通れるような参道と、あとは獣道が人を惑わすように蔓延(はびこ)っている。

 地図を持たずに入れば確実に遭難する、迷いの森と恐れられているようだった。


 おかげで俺は、散々な目にあった。

 町や土地の名前は解るものの、肝心の道が解らない。

 最初から全部知っていたら面白くないという、記憶にある少女の言葉を俺は思い出していた。

 仕方が無いと気持ちを切り替え、参道を目指して歩き出す。

 途中何かイベントが起きるのではないかと、俺は期待に胸を膨らませていたのだが。


 2、3時間後、そこには途方に暮れて、遭難し掛ける健一の姿が!


「ゲームじゃ2、3歩おきにエンカウントするのに、人処か動物さえ出会わねぇ……」


 腹が減ってそこらの雑草やキノコを口にしようとするが、死んだ方がましかと思えるような、危ない効能の記憶しか出てこない。

 知らずに食すよりは、マシなのかもしれないが。


 飲まず食わずで歩き続け、ようやく参道のような場所に出れた。

 運よく1台馬車が通り掛かり、助けてもらおうと強引に、馬車の前に躍り出て止めたのが不味かった。

 珍妙な恰好から、馬車を狙う賊と疑われ、見るからに勇者と言った格好の男が、馬車から踊り出てきた。


「なんだ貴様は! 馬車を狙う賊か!」

「ち、違います誤解です! 道に迷ったんで助けてもらおうかと」

「盗賊はみんなそう言うんだ。騙されんぞ!」


 何とか状況を説明し誤解を解くも、警戒を解いてくれない。


「この馬車6人乗りなんだ、すまない」


 すまないと思うなら、その物騒なのを仕舞ってほしい。

 丁寧な口調だったが、俺は首筋に剣を突き付けられていて、馬車に乗せてもらうことは丁重に断られた。


 最終的に俺は、馬車の後ろをついていく事のみ許された。

 言葉の端から、出来るものならやってみろと、小ばかにした様子が滲み出ていたが、そんなの造作もない。

 こちとら化け物クラスに強化された肉体だ、馬車と同じ速度で走ることなど、屁でもない。

 とりあえず渡りに船と、俺は素直に馬車に付いていく。


 しばらく走り続け、さすがに疲れてだいぶ距離が離され始めた頃、前方の方で馬車が唐突に動きを止める。

 今度は視力を高めて、様子を見てみると、本当に盗賊の様な奴らに、馬車が襲われていた。

 ついに出番かと思いきや、現場に到着するころには、俺のことを脅した男とそのPT一行が、華麗に撃退しているところだった。

 え、俺の活躍の場面は……?

 そんなところに丁度到着してしまった俺は、いよいよその一味と勘違いされてしまった。


 誤解を解くのも面倒そうだったので、俺は思わず逃げてしまった。

 逃げるのに夢中で、すっかり森の奥底に迷い込むというおまけつき。

 日が暮れ初め、このままでは本格的に遭難してしまう。

 何かいい状況の打開策は無いかと、俺はその場に座り込み思考を巡らす。


 身体能力、視力も上げれたので、今度は聴力はどうだろう。

 見よう見まねで瞑想をし、意識を耳に集中する。

 徐々に葉の擦れる音や、川のせせらぎの音が大きくなる。

 しまいには遙か上空を飛んでいるであろう何かの羽ばたき音や、虫の羽音まで聞こえ始めてしまった。


「うるせぇ! なんだこりゃ!」


 拡声器を耳元で使われたかのような、大音量に驚き、俺は思わず耳を塞いだ。

 どうにか音量を調節し、音の反響を朧気ながら、三次元のイメージとして、捉えることにまで成功してしまう。

 するとここからそう遠くない場所に、3人の動きを捉えることができた。

 もう少しで会話も聞き取れそう、というところで、さすがに集中が途切れ、イメージも掻き消えてしまった。

 慣れていれば、超人的な力が使えそうだが、まだまだ集中が必要そうだ。


 とりあえずこれで助かるかも、という安堵感から、俺はそれほど気にも止めずに、急いでその場へ走り寄って行った。

 藪を一枚隔てた先に、さっきの人たちが居る距離まで近づく。

 しかし、先ほど状況が一変していることに、俺は気づく事ができなかった。

 状況確認は大切だよね……うん。


「すんません、誰かいますか~」

 藪をかき分けつつ声を掛けると、そこには目を疑う光景が広がっていた。


 地面がまるで、赤いじゅうたんを敷き詰められたようになっている。

 噎せ返るような、血特有の鉄の匂いに覆われた空間。

 そして、その場に静かに佇み、死んだように地面に寝転がる男達を、冷徹な目で見下ろす女性。

 皮肉にも狩人らしき男達が逆に狩られている、そんな修羅場にぶち当たってしまった。


 女性は青肌で長い黒髪に深紅のような瞳、頭には立派なヤギのような角、足は太ももから毛で覆われ蹄のようになっている。

 ボンテージのような物を身に纏い、まるでバフォメットを女性化したような姿だった。


 返り血に汚れた彼女と、目と目が合ってしまう。

 その鋭い眼で睨まれて、俺は一挙に緊張する。

 しかし猟奇殺人も真っ青な凄惨な現場なのに、彼女の冒涜的な美しさに、俺は思わず見とれてしまっていた。

 彼女の呼びかけに、ハッと我に返る。


「おい、そこのお前、何ぼーっと突っ立ってるんだ? 何か用か」


 今しがた狩りが終わった様子で、興奮も冷めやらぬようだ。

 下手な答えは相手を逆上させかねない、ここは慎重に言葉を選ぶ。

 気の効いた、場を和ませる一発を。


「い、いえあんまり美人だったもので! よかったらこの後お茶しませんか!」


 お茶する場所も判らないのに、俺は何を言っているんだ……と軽く後悔する。

 逆上して襲ってくるか、何だこいつ? と思われて、興味を無くすの二択だと考えていたが、思っていたのとは違う反応が返ってきた。

 彼女は横を向いて、後ろ髪を掻きながら顔を赤らめている様子。


「び、美人だなんて照れるなぁ」


 真に受けやがった! ちょっと怖そうに見えたけど、案外チョロイ。

 俺は更にダメ押ししてみた。


「ほ、ほら、そこに寝転がってる男たちなんかほっといて、どっか行きません?」


 このまま彼女をこの場から引き離せば、男達は助かるのではと、安易に考えたのがいけなかった。

 軽いノリで答えた俺を、彼女はまっすぐ見据えてきた。

 目が一瞬、鋭い獣のような眼光へと変わった気がしたが、すぐに温和な笑みを浮かべてくれた。

 この反応はセーフっぽい。


「この惨状を見て、私にちょっかい掛けようなんて、なかなか肝が据わってるわね。気に入ったわ、すぐ済むからちょっと待ってなさい」


 取り合ず助かったかなと、思っていたが待っていてとは、どういう意味だろう。

 本当にお茶でもしてくれるのだろうか。

 その疑問には、彼女がしっかり回答をくれた。


「特別に、殺すのは最後にしてあげる」


 アウト寄りのアウト。

 露骨に死亡フラグ立てるの止めて、気に入ったとかいって、怒ってるじゃないですかやだー!

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