13話 心優しき殺戮兵器
少々重苦しい空気の中、事の発端であるティフィが口を開く。
「大昔……手足の不自由な者の補助魔道具を研究している国があった。でもいつしか強力な歩兵を作る為に利用し始め……制御出来ない殺戮兵器を生み出し……国は滅んだ」
「知っているのかティフィ! て知ってるの当たり前かお前の情報だもんな」
「ん……図書館の本に載ってた」
「図書館に情報あるんかい!」
「けど……私が生まれる前の話……現存してるとは思わなかった」
大昔の制御不能な殺戮兵器が目の前にある。
これは全員やられてしまうのでは……。
そう俺は思ったのだがシアエガからは意外な言葉が飛び出した。
『聖剣や魔剣の類いじゃなくてがっかりした? ならもういいだろゲームはお開き、さあ帰った帰った』
ちらほらと殺戮兵器にあるまじき言動が飛び出し、俺は少々警戒をする。
「とかいって後ろ振り向いたら触手でグサッ!なんてことはないだろうな」
『僕を快楽殺人者か何かと勘違いしてない? 失礼しちゃうな~もう、好きで殺戮兵器なんてやってたらこんなところ居ないよ』
確かにその通りだと思う、というより何故殺戮兵器にわざわざ人格があるんだろう。
「お前は元から兵器を制御するために作られた人格なのか?」
『いや、ある日突然目覚めたんだ。そしたら目の前に女の子が居てさ、気まぐれで力を貸してあげたら欠陥品のレッテルを貼られてこの様さ』
俺は本能的に感じ取る、こいつは飛び切り優しい心を持っている。
そこから俺が取る行動はひとつしかなかった。
「しょうがない帰るわ」
『そうそうここの事は忘れて……』
「ただしお前も一緒だシアエガ。がっかりしただ? 冗談言うなお前は想像していた物より遥かに上の物なんだよ。何より手ぶらで帰ったらアシュリーや鍛冶屋の連中にどやされる」
「そうだ私の服が掛かってるんだ、骨折り損なんて許さんぞ」
『正気か君ら!? さっきのを見ただろ僕は誰彼構わず暴走させる危険な物なんだ、さっきは何とか抑えてたけど触手で刺し殺していたかもしれないんだぞ!』
こいつは自分の価値を何も解っちゃいない、それを正しくおしえてやろう。
「でもやらなかったそれが答えだ。ここに引き篭もらせてるなんて勿体無い。意地でもお前を連れていくからな」
『僕の正体を知った上でそれでも持ち出そうとするなんて狂ってる……』
「おう狂気の沙汰ほど面白いんだよ」
アシュリーやティフィも説得の応援に入ってきた。
「大人しく仲間になった方がいいぞ、私は仲間になる前に顔を傷つけられて殺しあった末、奴隷商に売られたからな」
「私も……殺し合って首跳ねられて……裸にひんむかれた」
お前ら説得の方向性間違ってるんだよ……。
『やっぱ遠慮させてもらおうかな……』
「ふざけんなお前ら!見ろシアエガが引いちまってるじゃねーか!」
ああもういい、好き勝手言っている二人を置いておき、シアエガに再度手を掛ける
『何度やっても同じ事、諦めてさっさと帰りなよ』
「シアエガ俺のいた所にはこんな言葉がある」
俺はある言葉を呟きながら力を込める、シアエガは抜かれまいと触手に一層力が入っている。
「押して駄目なら……引いてみろ!」
フェイントを掛けて剣を台座に押し込む形で力を掛ける。
シアエガの力に俺の力が合わさって、見事に剣は根本まで台座に吸い込まれる。
『え?』
「オラァ!!」
俺はすかさず全身全霊を掛けた前蹴りを柄に放つ、狙い通り剣は根本からポッキリと折れた。
俺は本体である宝石の付いた柄を持ち上げ話しかける。
「ふぅ、どうだ取れたぞちょっと短くなったけど」
「ちょっとで済むか! お前なんてことしてんだ!」
「いや、別に壊すなとは一言も言って無かったしな」
やいのやいの騒いでいると、一番ショックを受けていたであろうシアエガが放心状態から回復した様だったが切羽詰った叫び声を挙げる。
『はっ! このまま僕も破壊しろ! 手遅れになるまえに!』
そう叫ぶやいなや柄から宝石が射出され、アシュリーの顔面目掛けて飛んでいく。
アシュリーの顔の目の前で触手をフェイスハガー宜しく、ウジュルウジュルくねらす……!が届かない。
寸前の所で俺は宝石をキャッチしていた。
とりあえず一安心、裏側をもろに間近で見てしまったアシュリーは思わず叫んでいる。
「うわ! キモい!」
「パラサイトって名前が見えた時からずっと警戒してたんだよ、とりあえず俺らの道具袋を三重にでもして入れて……あだだだ!」
突如宝石を掴んだ手に想像を絶する痛みが走る。
何事かと思えば、触手が幾重にも腕に食い込み、徐々に肘まで登って来ている。
『もうだめだおしまいだ……』
「お前女の子だけ暴走させるんじゃなかったのか!?」
『それは僕の趣味』
こいつの趣味かよ……。
『それから色々改造を加えられて制御不能に陥ったんだ……剣に封印されてたから抑えられていたけど破壊されたことで活性化してしまった……』
「マジかよ……」
『まだ腕の自由が効く内に僕を壁にでも叩きつけて破壊しろ! お前が助かる道はそれしかない!』
「お前はもう仲間だ! さっきも言ったが仲間を傷つける真似はしねぇ!」
『……! 僕は……君らの仲間になった覚えはない……』
「今さら何を言って」
『だから躊躇なんてするな君がやらないなら僕が!』
右腕の感覚が無くなったと思いきや、右腕が高く振り上げられて、全力で地面に叩きつけようとする。
俺は咄嗟に左手を差し込み衝撃を吸収する事でシアエガの破壊を阻止した。
「いってえ! 俺の身体だもう少し丁重に扱え!ばかたれ!」
『邪魔するな! お前が助かるにはもうこれしか……』
「俺の事気遣ってる時点でお前はもう仲間なんだよ!」
俺の気持ちが伝わったのかシアエガは協力的になってくれた。
『そこまで言うからには何か策があるんだろうね』
「いや~……実の所何にも、何かいい方法ない?」
かっこよく止めたものの策がまるで見当たらない、一つあるにはあるがリスクがデカイ。
『何も考えて無かったのか君は! 急がないと乗っ取り安くするため、侵食した部位で本体を攻撃し始めるというのに! そしたら本当にもう手遅れだ!』
慌てふためいているシアエガにアシュリーの指摘が入る。
「あ~忙しそうなところ悪いがもう手遅れみたいだぞ」
『え!?』
すでに俺の喉を右腕が力強く掴んでいる、しかし見方によってはこれは千載一遇のチャンス。
シアエガはそんな俺の状態を心配している様子、やっぱり優しい奴だよこいつは。
『なんてこった! もうこうなったら……僕が全力を注いで一時的に腕の制御を取り戻す。そしたら腕を切断するんだ、後ろの二人やってくれるな!?』
「え~やだ」
「断固……断る」
『な!? 君らはこの男がどうなってもいいのか!?』
「お前こそ健一を過小評価しすぎだ」
「そ……健一はいざという時……頼りになる」
「そう……だぜ……今一つ……思いついた……」
『何だ僕は何をすればいい!?』
「もっとだ……もっと強く絞めろ」
『へ?』
「この期に及んで窒息プレイとか引くわ」
「健一……窒息プレイ……楽しい?」
お前ら手のひら返しすぎ後で覚えておけ。
『一体何を考えてるんだ本当に死んでしまうぞ!?』
「まぁさっきのは冗談として仲間を信じてみるのもいい物だぞ」
「信じる心が……強さになる」
『もう……なんだか解らないけど死んでも僕を恨むなよ!』
そうだもっと俺を追い詰めろ、それこそ死を覚悟するぐらいに!
「チェン……ジ!」
光に包まれ俺は無職にチェンジする、それと同時に腕に食い込んでいた触手が引いていき、宝石が弾き飛ばされる。
宝石であるシアエガのジョブも無事無職で固定されたようだった。
「あ~死ぬかと思った……て新しいジョブ手に入ってるし……狂戦士かよ」
「上手く行ったみたいだな、あんまりヒヤヒヤさせるな健一」
「なんだ? 心配してくれてたのか」
「べ、べつに心配したわけじゃない!」
「ツンツン」
「ティフィ、人骨を木の枝代わりにしてシアエガ突っつくな……」
ティフィの突っつきでシアエガが目を覚ます。
『ん……一体何が……』
「どうだ生まれ変わった気分は」
『僕に何をしたんだ!?』
「剣をへし折った時点で魔剣……というか殺戮兵器だったシアエガは死んだ。それでいいじゃね~かお前は自由だ」
「まったくせっかく強力そうな武器だったのに躊躇なく折るとは」
『何で僕何かのためにそこまで』
「こんな暗くて狭い所に女の子を閉じ込めておくのは俺のプライドが許さん」
「え? お前こいつの性別分かるの……気持ちワル!」
「健一……すけこまし」
「うるせえ、お前ら少し黙れ」
明るい雰囲気が漂う中、宝石から一滴の液体がこぼれる。
「うれし涙か? 宝石の端から白い物流れてんぞ」
『ち、ちが! これは女の子を※※※する催淫液なんだからね!』
ちょっとその表現はどうかと思う。
「アシュリー、シアエガが嘘ついてないかちょっと確かめてくれ」
「ふざけんな! 何で私に振るんだ!」
「じゃ……私が……パパのためなら……」
「ティフィは止めときなさい」
『本当……バカな奴ら』
とりあえず危険は無くなった様で俺たちは外に出ることにした。
「私たちは先に外に行ってるぞ、ちゃんとシアエガも持って来いよ」
「外で……待ってる」
俺は台座に埋め込んでしまった剣先も取り出せないかちょっと試していた。
シアエガと二人きりになったのでついでに色々聞いてみる。
「なぁシアエガお前と同じように他者に力を与えたりする兄弟いたりしない?不定形の」
『兄弟ならニョグタって弟が居たけど能力は全然違うしこっちには居ないよ』
「そっか、変なこと聞いたなすまん」
『別にいいよ……それよりも外の二人を心配した方がいい』
「え?」
シアエガの言葉に一気に不安が高まり急いで外を目指す。
するとちょうど結界の外でエミリーと呼ばれたメイドに二人が両脇に抱えられ連れ去られる所だった。
急いで結界を抜けて追おうとするが、カーレンが出待ちしている。
無職のまま出ればその場でやられてしまう、そのまま指を咥えて見送ることしか出来なかった。
参ったねまさかこうも上手く事が運ぶとは。
そんな俺の様子をシアエガが勘違いして悲痛そうな面持ちで話しかけてくる。
『奴らはずっと僕のことを狙っていたんだ。僕を奴らに渡せば二人は無事返してもらえるだろう。短い間だったけど世話になったね』
「なに言ってやがるこんなのとっくに想定済みよ、奴らが現れたら抵抗せず連れ去られろと二人には伝えてある」
『え……』
「これで心置きなくあの狸爺をぶちのめせるってもんだ!」




