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20話 粋な増援

 その頃の俺はと言うと、とっくに捕まっていた。

 魔弾をグミ打ち何てするから、瓦礫に潰されそうなケモっ子達を助けたらこの有り様ですよ。

 彼女が召喚した醜悪あなモンスターどもから可愛がりを受けている。


「貴様も馬鹿なことをしたものだ、あのまま手下になっていれば世界の半分でもくれてやろうかと思ってたのに」

「それを早く言ってちょうだいよ……今からでもだめ? 3分1いや4分の1で手をうつからさぁ。島の先っちょ、先っちょでもいいから……仲間になったら命だけでも……」


 しかし今回は相手が悪かった。


「もう手遅れだ、死ね」

 パチンと指を鳴らすと、モンスターどもの攻撃に一層殺意が込められる。

 がちっとも効かない、お前らもっと気合い入れろ死んだ振りできねーじゃねえか!

 丁度、鳩尾に渾身のストレートが突き刺さったので、効いたふりをして怪しまれないよう、地面へ崩れ落ちる。

 これで大体の奴は騙せただろう。

 期待通りモンスターどもは止めを刺せたと思いこみ、手を止め愉悦に浸っていた。


 しかし安心したのもつかの間、偽アシュレトに見破られてしまう。


「お前達、何手を休めてるまだピンピンしているではないか」

 うつ伏せに倒れて、やり過ごそうとしている俺に、偽アシュレトはゆっくり歩み寄る。

 ちきしょうバレた、やっぱり心音止めるくらいしないと騙せない物なのか……。


「虫は頭を潰しても尚生きている、こいつは虫以上にしぶといかもしれん」


 俺の頭を潰そうと、片足を上げているのが気配で分かる。

 しまった仰向けで寝ておけば良かった……。しかし今さら後悔しても遅い。

 バレているなら仕方がないと、ジョブチェンジによる弱体化を図ろうとタイミングを伺う。

 正直なところあまり関わり合にはなりたくないと思っていた。


 逃げる合間に彼女を鑑定眼で見たところ、ジョブが文字化けしたような、訳のわからない記号の羅列だったからだ。

 未知と言うものはそれだけで恐ろしいものがある。


 ところが脚を捕まえようと、繰り出した俺の手は空を切った。

 突如踏みつけるのを止めた偽アシュレトとモンスターの面々は、一斉に俺から距離をとり始めた。

 作戦に気付かれたと思い、ゆっくり起き上がりながら会話を試みる。


「くそ、いい勘してるな、何時俺が反撃を狙っていると気付いた」


 しかし俺の言葉が届いていないのか上を見上げたままになっている。


「もしも〜し俺の話聞いてる? 何で上何て見上げて……」


 そう問いかけた瞬間、遥か上空から何かが降ってきた。

 地面に何かが激突するような、激しい轟音が鳴り響く。

 偽アシュレトらはこれを察知していち早く避難をしていたのだった。


 落下してきた物体は、ご存知アシュリー。

 ご丁寧にライダーキックのような姿勢で、偽アシュレトを狙ってたつもりなんだろうが、見事に俺の背中に着地しやがった。


「外したか、おい、健一無事……何だその怪我は誰にやられた! さては奴らに! 安心しろ私が仇をうってやる、だから安らかに眠れ……」


 おいまて勝手に殺すな、しかもたった今お前に付けられた傷だというに。


「まだ死んでねえ……てか位置的に完全に俺を狙ってただろ!」

「ちっ、なんだ〜生きてたのか、よかったよかった」

「『ちっ』て何だおい『ちっ』て……でもまぁ……ありがとよ」


 アシュリーは一瞬キョトンとしたが、不機嫌そうに吐き捨てる。


「ふん、蹴られて感謝するとは呆れた奴だ、やっぱり変態だな。もういい今日の所はこれで勘弁してやる。今はアイツに用がある」


 またも途方もない濡れ衣をありがとう。

 来てくれたことに感謝したのであって、決して蹴ってくれたことに感謝した訳じゃない。

 何か恨まれるような事をしたかなと、俺は首をかしげた。

 そして続くアシュリーと偽アシュレトの会話に注視する。


「おい貴様、なんの目的でアシュレトを騙った……そして何者だ」


 本物がこっちに居るわけで、普通の相手なら動揺するものだと思われた。

 しかし偽アシュレトは、なにも感じていない様子。

 完全に狂気に満ちているのか、首をかしげニヤニヤと笑うだけだった。


「ほぅ、答えたくないか。なら力ずくで聞き出してやる!」


 アシュリーは偽アシュレトに手を向け、魔力を集中させる。

 すると何と偽アシュレトも、真似をして手をかざす。


「逃げないとはいい度胸だ、魔力比べと洒落込もうか!」


 二人が魔力を巨大なビーム状に放ち、激しいせめぎ合が起きる。

 並みの者なら吹き飛ばされかねない衝撃が廻りに走るが、俺には難なくその場に止まっていた。


「おい大丈夫なのか!?」


 と心配そうに斜め後ろから、声を掛ける健一。

 拮抗しているように見えていたが、アシュリーの方が徐々に押され始めてしまっていた。


「話しかけるな気が散る! 本気をだせばこれくらい!」


 とアシュリーは尚気合いを込めるが、偽アシュレトはまだ余裕がある様子。

 アシュリーが劣勢になっていく一方、偽アシュレトにも異変が起きていた。

 魔力の出力が上がり、アシュリーが押されれば押されるほど、何故か偽アシュレトの体のあちこちから、まるで悲鳴のように鮮血が上がり始めていた。


「な!? やべぇ!」


 その異様な光景にいち早く気付いた俺は、アシュリーにタックルを噛まして、せめぎ合の場から離脱させる。

 魔力波は豪快に後方の建物やらを、吹き飛ばし終息する。


「あぢぢぢぢ! 背中が背中が!!」


 カスっただけでこの威力まともに食らってたらアシュリーは下手すりゃ消滅してたな……。

 急に地面へ組伏せられたアシュリーは、負けてショックだったのか放心状態の様だ。


「参った〜……あいつ私より強くね?」

「敵が味方になって弱体化するお約束はいいから、真面目にやれ! 長引いたら両方ヤバいんだよ!」


 健一の言葉にやれやれといった様子で、地面から起き上がるアシュリー。


「なんだお前も気付いたのか、いいじゃないか戦う手間が省ける」

「だめだ! このままじゃあの娘死んじまうだろ!」


 取りついた存在に無理やり体の限界以上の力を、使わされている。

 そう推測するのは容易いことだった。

 そして俺は俄然やる気になった。


「無理やり力を使わせられてる娘を解放する……そしてその後、助けてくれてありがとう貴方に着いて行きますってなるだろ? 美味しいシチュエーションじゃねーか! テンション上がって来たー!」

「お前、さっきは殺しても仕方がないと割りきっていたのに、今度は助けるつもりか。コロコロ考えを変えやがって優柔不断男が」

「人聞きの悪い最善の結果を考えて、臨機応変に対応したと言ってくれ」

「つまりは行き当たりばったりじゃないか」


 図星を付かれて俺は一瞬言葉に詰まるが、別の事態が起きて状況が更に悪化する。


「おいアシュリー変身解けてる!」

「あ」


 とアシュリーは声を漏らすと同時に、時間切れなのか麻のローブ姿に戻ってしまう。


「できるなら早くジョブチェンジしろ! 今襲われたら人溜まりもないだろ!」


 アシュリーの弱体化に気付いたモンスターが、一斉に襲いかかってくる。


「全部は無理だ! 早く逃げろ!」


 数が多すぎる……遂にうち漏らした何匹かがアシュリーに迫る。

 だがアシュリーは、慌てることなく静観していた。


「心配するな、助っ人を用意してある」


 建物の影から人影が飛び出し、アシュリーに襲いかかる狂爪を食い止める。


 その意外な人物に俺はは驚きを隠せないでいた。


「お、お前達は……」


 何と訓練所で特級クラスでモン娘と乳繰合う、もとい訓練を重ねていたあの面々だった。


「よりによってお前らかよ……」


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