12話 ボッシュート
「無理だ人間……奴は心眼の使い手、私にちょっと傷を付けたくらいじゃ到底敵わない。奴の言う通り私のことなど放っておいて、逃げるべきだったんだ……」
「何弱気になってんだ、ならよもし生き残れたら、一つ言うことを聞いてもらえるか?」
「どうせ殺される運命だ、最後の戯れに聞いてやる。何なんだ? 死ぬ前に一発とか下品なことだったらぶっ飛ばす」
「直前のやり取りちゃんと聞いてた!? はぁ……まぁいいや、勝ってからのお楽しみだ。そこで大人しく見とけ!」
ここはいい所を見せて仲間フラグまっしぐらだなと俺は考えていた。
待ちくたびれたように言葉を掛けてくるゴンザレス。
「今生の別れの挨拶は済んだか? どうせすぐ再会することになるだろうがよ」
「ゴンザレス、お前の能力特定したわ、眼が見えない事と、心眼って言ったらあれしかねぇわ」
「ほぉ~知っているというのか貴様」
「あいにく俺の居た世界には似たような能力の使い手がごまんといるもんでな、その対策もバッチリ習得済よ」
恐らくというか十中八九視覚を封印したことによる異常聴覚もしくは嗅覚その両方。
ごまんといるのは漫画の中だけどなと俺は心の中でこっそり呟く。
ゴンザレスはどうも俺のハッタリだと思って舐め腐っている、いいだろうたっぷり後悔させてやる。
「対策が後ろに回り込んでの不意打ちか笑わせてくれる! それと姉さん往生際が悪いぞ」
忍び足で俺はゴンザレスの後ろに回り込んでいた。
それとこっそり後ずさりして距離を取っていたアシュレトは思わずギクリと足を止める。
しかしこの時点で俺の考えが読めていないことが確定した。
俺の居る方向へゴンザレスは向き直す。
「小細工なんぞ通用せん。何だ? 今度は足元の石なんて拾い出して、まさか俺の傍に投げて足音と錯覚させようなんて、考えちゃいねぇだろうな? 前にやった奴が居たが俺の剣で真っ二つだったぜ」
ゴンザレスに指摘され、俺は拾った石を手放した。
「足音に似せるのもだめか……と思うじゃん! はっずれー! 食らいやがれ!」
石が地面に落ちた音を聞き、油断しきっていたゴンザレスへ、俺は石を弓矢代わりに装備したアーチャーへとチェンジし、顔面を狙って投げつけた!
ゴンザレスは辛うじて盾で防御したようだが、盾を大きく凹こませ、その巨体までも後ろへ大きくのけぞらせた。
「てめぇ一体どうやって石を……それよりもなんだこのデタラメな威力は!?」
「そうか気に入ったか、おかわりどうぞ!」
と足元の石を続けて投げてみたが、顔面狙いを見破られたのかひょいひょい躱される。
「俺に同じ手は2度と通用しねぇ、この精密な遠距離攻撃とその動きアーチャーか、どうやって俺の心眼を欺いたか分からねぇが、近づかれたらどうする!」
でかい図体に似合わない俊敏な動きで、俺を剣の射程距離に捉える。
「近距離じゃその力も生かせねぇだろ死ね!」
と俺の次の動きを予想してか逃走経路へ剣を振り下ろす。
しかし剣は空を切る。
俺は拳闘士にチェンジし半歩前に進み懐へ飛び込むと同時に寸勁を放つ。
「がら空きだぜ!」
「ウゲェ!!」
予想を外され、寸勁のダメージでまたも大きくのけぞるとともに、ついに片膝をつくゴンザレス。
ゴンザレスは、俺が複数の人数で入れ替わり立ち代わり、相手をしているのだと錯覚を起こしたのか妙なことをわめき散らす。
あえて乗ってやろう。
「て…てめぇ、本当は何人居やがる、どうやって入れ替わってやがるんだ!」
「ついでに魔法使いも居るでよ」
混乱中のゴンザレスに俺は黒魔術士へとチェンジし、顔面にファイアを浴びせる。
「アヂイィィ!」
そのような攻防を目の当たりにして、アシュレトは唖然としていた。
勝てるはずが無いと思っていた低級職の人間が、あろうことかオーガを手玉にとり、一方的に追い込んでいる。
「奴は何なんだ……。私より劣るとは言え、あのゴンザレスが手も足も出せずにこんな醜態を晒すとは……」
顔を焼かれたゴンザレスは怒り狂うが、瞼を縫っていた糸が炎で焼き切られ瞳が露わとなる。
しかし長年封印していたせいか、盲目となっているようだった。
思うように攻撃できずに怒りが頂点に達して、冷静な判断が出来なくなってるゴンザレス。
「てめぇ絶対殺してやる!」
「悪い悪い俺ばっかり攻撃して、さぁ回復してやろう」
「てめぇ一体何を!?」
プリーストとなりに奴に治療を施してやる。
意図が読めないからゴンザレスは困惑していているだろう。
さらに白魔術士となり、閃光でその場を照らす。
急な視覚の回復に加えて、強烈な光を浴びせることで、情報のパニックを起こすのが狙いだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛! 目が、目がぁ~!」
案の定行動不能に陥った。
ここまでは予定どうりに事は進んだが、初級職ばかりでいまいち決定打に掛ける。
そこで俺は止めに、ある職へと転職しようとする。
「おいアシュレト、今から俺のやることを見ても、決して驚くんじゃねぇぞ」
「お、おい人間一体何を……」
俺はゆっくり深呼吸をして、アシュレトとの闘いでいつの間にか転職できるようになっていた、エルダーマジシャンへと転職する。
「な、まさか……」
驚くのも無理は無いと思ったが、俺はやはり後悔していた。
「この期に及んで裸になるとは、貴様やっぱり変態ではないか!」
「うるせー! この職で装備できる防具持ってねぇんだよ!」
脱げ落ちた装備で、下腹部を隠しながら俺は怒鳴っていた。
登録もまだしてなかったので、強制全裸である。
「くそ……しまらねぇもういい、はいボッシュート」
「な!? ポケットディメンションだと! お前エルダーマジシャンにもなれるのか!? 」
俺の職業に気づいたアシュレトが改めて驚いていた。
そして哀れゴンザレスは、地面に開いたポケットディメンションによって、落とし穴に落ちるがごとく、地面に飲まれていった。
しかししぶとく剣を地面に突き立てて、異次元から抜け出そうと、頭と腕が昇ってくる。
「てめぇここから抜け出したら、許さねぇからな!」
「あ~あ出てこなければまだ生きてられたのに、だが餓死するよりはましかもな」
健一は無情にも自らを無職へとチェンジする。
ゴンザレスの顔から下を飲み込み、魔力の供給を断たれたポケットディメンションは、口を閉じる。
地面に残されたゴンザレスの頭の一部と腕は、無残にも物言わぬオブジェとなってしまった。
戦闘が終わり、俺はゆっくりとアシュレトに歩み寄る。
アシュレトは今起こったことが信じられないようで、まだボケっとした顔をしていた。
「さぁ無事生き残れたし、言うことを聞いてもらおうか」
と少し悪い顔をする。
その言葉を聞いてに我に返ったアシュレトは身構える。
「私に乱暴するつもりだろ! 薄汚い人間め」
と威嚇気味に喋るアシュレト。
その警戒を解こうと、俺は精一杯紳士的に振舞おうとする。
「そんなことしないって、俺は健一。次会ったらお茶するか考えてくれるって言ってたろ、その答え聞かせてくれよ」
アシュレトと別れた時の約束を持ち出すことで、好感度は爆上げだろうと思っていたのだが……。
「バ……」
『バカ! そんな約束のためにあんな無茶するなんて!』とか精一杯好意的なセリフを、予想していたのだが、思ったより辛辣な言葉をいただく。
「バーカバーカ! 誰が貴様なんかとお茶するもんか、貴様の顔は覚えたからな! これからは暗い夜道には気をつけやがれ!」
と捨て台詞を残し暗い森の奥へと、脱兎のごとく掛けて行った。
なるべく優しく接しようとした結果がこれだよ……。
「やべぇ仲間呼びに行ったんだとしたらどうしよ……」
少し後悔はしたものの職業は主婦のまま、1日2日ぐらい追撃は来ないだろうと予想していた。
オブジェとなったゴンザレスの一部とポケットディメンションから残りの下半身を取り出し、地面へ埋め証拠隠滅を図る。
ついでにゴンザレスの装備を剥ぎ取り、アシュレトの真似をして異次元へ装備を放り込む。
幸運にも無限収納魔法を手に入れたことに内心喜んでいた。
そして改めて野宿の準備が終わり、俺は一息つくことにした。
しばらく経ち戦いの疲れからウトウトしていた所、不意に近くの林からガサリと人の気配を感じ取る。
「もう報復にきやがったか!」
と俺は身構えたのだが予想に反して林から現れたのはどういう訳かアシュレトのみだった。
その姿をよくよく見るとあちこち擦り傷だらけで、髪には葉っぱや木の枝が刺さって涙目になってる。
何か酷い目にでも合ったのか、グスグスと半べそをかきながら、俺の方へと歩み寄ってきた。
「ま゛ほ゛う゛つがえなぐで帰れなぐなっだ……」




