0話 終わりの始まり
楽しんでいただければ幸いです。
最近ちょくちょく改稿中です。
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「この世界にも飽きた……」
どうしようもない現実と、諦めからの下らない独り言。
「あ~、美人な嫁さん貰って、退廃的な生活送りてぇ……はぁ……転職先探さなきゃ……」
俺の名は鈴木健一。
黒い髪に黒い目、特徴がないのが特徴な、冴えない二十代だ。
昔から飽き性で、仕事も決まらずにニート生活を送っている。
「趣味を仕事にできりゃあなあ……」
飽き性の俺にも、一つ例外がある。
それが、魔法少女等の変身ヒロインアニメと、ガッツリ人外のエロ画像収集だ。
むしろ三大欲求の一つを飽きたとあっちゃ、人間として終わりだ。
人間じゃなくても可愛いから正義、を自負している。正真正銘の変態紳士。
もうその辺の耳尻尾が生えてる、猫耳少女では満足出来ていない。
ガチの人外ケモロリババア、更には闇落ちヒロイン物まで幅広くカバーしている。
この日も日課の人外向けエロ画像収集で、1日が終わるはずだった。
だが、ベッドに横になっていると唐突に視界が歪み、体の方もフワフワと、まるで夢の中にいるような感覚に包まれる。
そしてそんな感覚がしばらく続き、ふと視界がはっきりする。
そこはいつもの部屋――では無く、暗闇だけが無限に広がる空間だった。
いつも異世界に行きたいだの、非日常を味わいたいだの思っていた。
しかしあまりの静けさと、非現実さに怖気づき、強がってはいるが、不安で冷や汗まで垂れてきてしまう。
「は、はは……オ、オラ、ワクワクしてきたぜ……!」
しかし俺は、急遽アニソンの歌詞の一部を熱唱し始める。
夜中トイレに起きた際、歌を歌う事で恐怖を誤魔化そうと言うアレである。
けれども恐ろしさは縮まるどころか、膨れ上がるばかり。
「ちゃー〇ー!へっちゃ〇ー! ぬわーにぃーがきてもー〇分はー!」
『くっくっく』
「ひぃぃ!」
即刻、怒られるギリギリの歌を中断し、その場にうずくまる。
しばしその場で震えたあと、意を決して周りを見渡すが――誰も居ない。
「どこだ! 出てこい! 脅かしやがって!!」
素早く立ち上がり、怒鳴り散らしてみる。
返事がない、ただの暗闇の空間のようだ。
「そ、その辺に隠れてるんだろ? 恐がらせないでとっとと出てきてくれよ……」
懇願するように呟くが、俺の問いに答える者は居ないはずだった。
『フッフッフッ、人間よ、我が名を聞いて恐れひれ伏すがいい。我が名はアザ……あ~……なんじゃったっけ?』
やや幼さが残る声だが、こいつ直接脳内に……!?
しかし声に似合わない威厳ある口調も壮大な演出も、最後ので台無しである。
『ま、まぁいい、お前には重要な使命が……え~となんじゃったっけ使命?』
謎の声は段々と小声になり、フェードアウトしていって、今にも消えそうになっている。
これは脳内で作り上げた、イマジナリーフレンドというやつなのだろうか。
おかげで恐怖は吹き飛び、いくらか冷静になれた気がしていた。
あまりにビビりすぎて、周囲の確認がまだ疎かだった。
右よし、左よし、残るは一ヶ所。
「幻聴かな、はは……もしかして上だったりして」
「あ、こらまだ早い!」
少女の叫びと同時に白いローブと、少女の生足のようなものが視界に入った。
と同時に、綺麗なテキ〇スコンドルキックが、俺の顔面に炸裂する。
「うがぁぁぁ! 人中にもろに入ったぁぁ!!」
宙に浮いてやがる! しかも下はいてない! といった驚きが吹っ飛ぶほどの激痛に、俺は地面を転げまわる。
だが、上から降ってきた声の主は、謝るどころか怒りの口調で、俺へ抗議してきた。
「早すぎる! 誰が上を向いて良いと言った!」
「ふざけんな! 人中に全力で膝蹴りとか、下手したら死ぬっつーの!」
俺は痛みを堪えながら、目を開く。
すると声の方向には、女の子がいた。
地面に女の子座りをして、白のローブの正面部分を地面に押さえつけている。
見られてよっぽど恥ずかしかったのか、激おこのご様子。
「死ぬことの1回や2回、今更気にするでない! ミステリアスに真後ろから登場して、ビビらせる算段が台無しじゃ!」
なんか怒ってる理由が違う気がするのだが、そんな理由で怒られても俺が困る。
ついでに言うと口上で失敗している時点で台無しだ。
心の中で突っ込みつつ、俺はいまだに痛む顔をさする。
「あ~痛ってぇ死ぬかと思った……って俺死んだの!? あれ? どこ行った」
痛みに瞬きを繰り返す僅かな間に、目の前に居たはずの少女は忽然と消えていた。
「こんな風にな、どうじゃビックリしたか?」
と、真後ろから声が聞こえてきた。
「うわっ! ビックリさせんじゃねー! もういい分かった分かったから!」
平然と瞬間移動する存在。意味不明な空間。
本能が危険を感じ取って、思わず俺は後ずさっていた。
そんな俺の様子を見て、少女は腕を組んで満足そうにウンウン頷いている。
が、俺の余計な一言で、次の行動に移ろうとしていた。
「そうかそうか、もう分かっておるのか。己の世界に飽きたと言っておったし、なかなか察しがいいな。お前にはピッタリの世界だと思うぞ、楽しんで来い」
そう言うと少女は何やら、呪文めいた言葉を発する。
すると俺の足元に、魔法陣のようなものが展開された。
と同時に、体が浮くような感覚に襲われて、思わず慌てふためく。
「え? ちょ、ちょっと待て! まだいろいろ聞きたいことが! ストップストーっプ!!!!」
少女はきょとんとした様子で首を傾げ、俺を眺めている。
だがすぐに、ハッと何かに気付き、慌てて術式を中断してくれた。
とりあえず、時間は稼げたみたいだ。
しかし、こんな所に呼び出されたキッカケがあのくだらない独り言とは……。
何とか猶予を作れたので、俺は冷静になって少女を観察してみた。
少女は見た目は11、2歳ほど。
裸足でボロキレのような白のローブを身に纏い、アルビノのような透きとおる白い肌と、長い白髪。
瞳はなぜか、ずっと閉じたままだったが、あらゆる疑問が吹き飛ぶほどに、とにかく美しかった。
これで羽と頭上の輪っかがあれば、誰しもが彼女のことを女神と思うだろう。
しかし輪っかの代わりに、シャボン玉のようなものが数個、彼女を取り囲んでいる。
その浮遊物は、沸騰した水のように、膨張と収縮を繰り返していた。
正体不明の物体は、神様のシンボルのようなものなのだと、俺は無理やり納得することにした。
人知を超えた美貌。見惚れるほど少女は美しい。
神様もギリギリ人外の範疇、ロリババァも大好物だけど、痴呆なのは勘弁してほしい。
「すまんすまん、もう分かったと言っておったから準備万端かと思って、能力なしで送るとこじゃったわ。しかし、普通に能力を与えるのもつまらんのう……そうじゃ!」
ピコーンと頭上に電球が、閃いたように見えた。
「お主の聞きたいことをクイズにしよう。儂は見ての通り、神で全能じゃ。聞きたいことはお見通しだからな。選択問題にしてやるから、その中から選べよ。みごと当てたら、能力プレゼントじゃ」
全能なのに、名前も使命も忘れた上に、能力を与えるのも忘れてたってのか。
大丈夫なのかこの子と、訝し気に思いつつ、俺は外した時にペナルティがあるのではと不安になり、慎重に尋ねてみる。
「あの~、俺が普通に質問するんじゃだめなんでしょうか?」
ありきたりな俺の返答に、彼女は心底がっかりした様子で、ため息をつく。
あまりお気に召さなかったらしい。
「え~嫌なのか、つき合い悪い奴じゃの、もうよいわ、転送先はっと。魔王の玉座か海の底にでもしておくか、さて次の転移者に期待するかの。じゃあの」
と物騒なことを呟きながら、先ほど中断した魔法陣を展開し始めようとする。
このままじゃ、ハードモードどころか、インポッシブルだよこんちくしょう。
「分かった! やりますクイズやらせていただきます! ワー楽しみだな~クイズ!」
「よ~し、そんなにやりたいか、よしよし。一回で終わったらつまらんだろうし、複数問題を出してやろう! 喜ぶがいい!! あ、そうだ」
と彼女はポンと手のひらを叩く。
もういいユルシテユルシテ……。
「もしも全部外したらさっき言った通り、能力無しで魔王の玉座に転移にしよう。ほらばつげーむとかいう奴じゃ」
キャンセル不可なんでしょうか、足掻くも何も、初見殺しでスリルなんてもんじゃないんですがそれは。
てか今さっき思いついたことを、さらっと追加するんじゃねぇ。
「さて第一問、どうやってお前が死んでここに来たか」
いきなり物騒な問題だが、この戯言につきあうしか助かる道はない。
諦めて俺は大人しく選択肢を待った。
「①事故で死んでここに呼び出された、②病気で死んでここに呼び出された、③儂が呼んだ上で殺した、さぁどれでしょう」
雑! しかもとんでもない選択肢がありやがる、これはひょっとしてギャグで言っているのでは?
部屋に居たからぶっちゃけ②しかありえない、と思った時期が僕にもありました。
いくらニートでぐ~たらに、過ごしてたとは言え、都合良く病気でぽっくり行くだろうか。
運命を操って、病気にしたり車を突っ込ませたりで、間接的に殺したんじゃ……。
しかし死んで呼び出されたとしたら③はおかしい。
呼んだ上で殺した。それでは順序が逆で非常に気になる。
露骨に何度も俺を殺すのは簡単だ、なんてアピールしてくるし、そこがヒントだとすれば③の可能性が急浮上してくる。
非常に悩む……がまだ一問目。まだ慌てる段階ではない。
一問くらい外しても平気だろう、という考えがよぎった。
ここはひとまず、ウケ狙いとしか思えない選択をして、彼女の反応を調べてみることにした。
「さ、③番だったりして~……」
と俺は恐る恐る答えてみた。
沈黙が怖い……。
クイズ番組の如く、ほどよく緊張が高まった頃合いで、彼女が口を開く。
「運のいいやt、良く分かったな! ピンポンピンポン大正解」
チッという舌打ちのような音が、聞こえたのは気のせいだろう……。
普通の少女の様な笑顔で喜んでいるように見えるが、裏でどんなこと考えてるか分かったもんじゃねぇぞ、こいつ。
正解で嬉しくはあるのだが、質の悪い神様ジョークかと思っていたのに、まさかの正解で名状しがたい失望感を覚えて、思わず呟く。
「うっそだろお前……」
だがこれは、これから起こる惨劇の序章に過ぎないことを、俺はまだ知るよしもなかったのだ。