081 クイースト王国聖騎士
貴族街の中央付近にある訓練場。
クイースト王国の聖騎士と上位騎士が日々訓練をする場所がある。
クイースト王国は魔法の国と呼ばれる程に魔法の研究が盛んで、この地に産まれる子供は遠距離魔法を得意とする者が多い。
その為、騎士団は魔術師団に比べて少数だ。
騎士団を管理する聖騎士が六人。
魔術師団を管理する大魔導師が六人。
そして聖騎士長が聖騎士と大魔導師の上に立つ。
クイースト王国の聖騎士長、聖騎士ともに遠距離魔法をも得意とするが、近距離戦闘を主とするためミスリル武器を持った魔術師となる。
大魔導師は六人全員が精霊魔導師だ。
魔法の研究が盛んなクイースト王国の大魔導師が放つ精霊魔法は、各国最強と謳われる程の威力を持つとの事。
大魔導師は炎帝、風帝、雷帝、水帝、氷帝、地帝と、自己の属性に因んだ帝の名を冠しているそうだ。
それを聞いて千尋や蒼真が喜ばないわけがない。
早く行こうと急かされ、こうして朝早くから上位騎士達の訓練場へと足を運んだ次第だ。
「こんにちはー! 聖騎士のニシブに会いたいんだけどー!」
訓練場に立つ警備の騎士に話しかける千尋。
「なんだ貴様は!? 冒険者風情が聖騎士様を呼び捨てにするとは何様のつもりだ!!」
上司を呼び捨てにされて腹を立てた騎士に怒られてしまった。
「ああ、すまない。ニシブはオレ達の友人でこの人はニシブの上司だ」
朱王を指して説明する蒼真。
「ニシブ様の上司は聖騎士長様だけだ! おかしな事を言うようであればただではおかんぞ!」
そう、ニシブが聖騎士である以前にクリムゾンの隊員である事を知るのはごくわずか。
警備騎士では知る者はいないだろう。
「じゃあ聖騎士長のヴォッヂに言伝を頼めるかい? 朱王が来たと言えばわかるから」
朱王がいつもの笑顔で話しかける。
「き、貴様ーーー!! ヴォッヂ様まで呼び捨てにするとは何事か!!」
激怒した警備騎士は魔道具の警鐘棒に魔力を込める。
その直後に鳴り響く貴族街にある全ての警鐘。
訓練場の警鐘は光り輝いてその場所を示す。
集まりだす警備騎士と貴族街の各屯所に待機する騎士達。その数およそ二百名超。
「この者達は聖騎士のニシブ様、聖騎士長ヴォッヂ様を侮辱した! この無礼者共を捕らえて牢にぶち込め!」
「うおぉぉぉぉお!!」という掛け声とともに襲いかかってくる騎士の軍団。
スッと騎士の軍団と千尋達の間に現れた三人の男女。
「待ちなさい。この方々に無礼を働く事は私が許しませんよ」
剣を携えたカミンが立っていた。
そしてマーリンとメイサも武器を持ち、千尋達に一礼して騎士達に向き直る。
「あ、貴方様は!! 前聖騎士長カミン様!?」
「前聖騎士マーリン様と前大魔導師メイサ様もいらっしゃるぞ……」
驚く騎士達だが千尋達も知らなかったので驚いている。
アイリも知らなかった事だ。
そしてカミンが持つ剣は朱王の作った魔剣ティルヴィング。
朱王が聖騎士長用に作った魔剣の中で最も薄くて長い。
今日邸を出る際に「それでは後程」と送り出されたのを思い出す千尋。
「警鐘が鳴りましたので駆けつけて参りましたが、やはり朱王様方でしたか。この者共のご無礼、お許し下さい」
カミンと共に頭を下げるマーリンとメイサ。
騎士達も続いて頭を下げる。
「カミン、頭を上げてくれ。彼らも自分の仕事を全うしただけだろうしね。それよりも集められた騎士達の方が迷惑だったと思うけど」
「警鐘を聞いて聖騎士や大魔導師達も電磁移送して来ると思われますので、私共もこのままご一緒させて頂きます」
頷く朱王。
どうやらカミンやマーリン、メイサも今日は訓練場へと来るつもりだったようだ。
騒ぎが収まったところで聖騎士と大魔導師達が集まりだす。
「朱王様!?」と驚くのはニシブ。
他の聖騎士と大魔導師はカミン達を見て驚いていた。
前聖騎士長であるカミンからは全員が魔法や剣術の教えを受けている。
「皆んな久しぶりだね。今日はこちらの方々から君達の訓練を見て頂ける。実力次第では今よりも遥かな高みへと至る事ができるから頑張ってくれ」
「カミン様! もしかしてニシブの武器の様に強化してくれるって事ですか!? それも精霊魔導師になれる程に!?」
「もちろん。魔力練度次第だが全員が精霊魔導師になる事ができる。それも連続した精霊魔法が放てる上、今よりも強力な魔法となる」
驚きと喜びの表情を見せる聖騎士と大魔導師達。
ニシブが朱王邸から帰った次の日の訓練で見せた精霊魔法。
ただの精霊魔法が大魔法と呼べる程の威力。
そして下級魔法陣を発動した精霊魔導は、風帝の最強魔導をも上回る程。
さらに上級魔法陣を発動した精霊魔導は、これまで見たこともない程に強大な魔法となった。
風帝が泣く程落ち込んだのは大魔導師では内緒の話。
訓練場に入ってしばらくすると聖騎士長ヴォッヂが訓練場へとやって来る。
「警鐘が鳴ったから来てみたけど、何かあったのか?」
頭を掻き毟りながら近づいて来るヴォッヂ。
「ヴォッヂ、遅いぞ」
「うぉっ!? カミン様!?」
ヴォッヂはかなりマイペースな男のようだ。
これで聖騎士長というのも俄かには信じ難い。
「朱王様とお連れ様がおいでだ。ご挨拶を」
「聖騎士長ヴォッヂでーす。よろしくお願いしまっす!」
「やぁヴォッヂ。久しぶりだねー」
各々自己紹介しつつ少し蒼真を警戒する千尋達。
ウズウズしているのが目に見えてわかる。
「じゃあ千尋君から説明してくれる? 千尋君の魔石が一番重要なわけだし」
「え? あ、うん。えーと、皆んなミスリル製の武器は用意してあるかな? まずはミスリルの武器にオレのこの魔石で、魔力を溜め込めるように能力付与させる。そうするとミスリル武器が精霊の器として使えるようになるから精霊魔術師になれるんだ。はい、次は朱王さん」
「ん? 私も言うのか。次に私の魔石でミスリル武器に魔法陣を能力付与させるんだ。これも器が必要になるから精霊と契約した武器には下級魔方陣を、他のミスリル製の武器や防具にも魔力を溜め込む能力を付与して上級魔法陣を組み込むよ」
というわけでさっそく全員の魔力練度を確認する。
さすが魔法の国クイースト王国。
全員魔力練度が高く、訓練を重ねたザウス王国の聖騎士と同等の練度を誇る。
そしてヴォッヂはその態度とは裏腹に、魔力練度はリゼやアイリ以上。
残念ながら朱王はヴォッヂの魔剣は用意していない。
前聖騎士長カミンのしか武器を知らない為だが。
クイーストにはまだしばらく滞在する予定だしあとで作ろうと決める朱王だった。
千尋と蒼真が聖騎士を、リゼとアイリが大魔導師の武器に魔力量2,000ガルドをエンチャントしていく。
ニシブから説明を受けていたとは思うが、大魔導師も近接武器を持って並ぶ。
魔力を溜めるエンチャントが終わった者から朱王の元へと並び、自分の求める属性魔方陣を組み込んでいく。
そして精霊契約。
大魔導師達は魔杖から移すだけだが、全員が両手武器を用意し、契約する精霊を増やしていた。
炎帝レイヴは短めの真っ赤な髪をした勝気な顔の女性で二十代後半だろうか。
両手のダガーにサラマンダーと下級魔方陣ファイア。
ドロップには上級魔法陣インフェルノ。
風帝セイラはセミロングの白髪に毛先が黄緑色の髪をした女性。まだ二十歳前くらいに見える。
双剣にシルフと下級魔方陣ウィンド。
ドロップに上級魔法陣エアリアルを組み込む。
雷帝ネオンはミディアムショートな金髪の青年で二十代中頃といったところか。
双剣にヴォルトと下級魔方陣サンダーを。
ドロップには上級魔法陣ボルテクス。
水帝リアスは腰まで伸ばした水色の髪で、少しツンツンしてそうな顔つき。
二十代前半かと思われる。
両手のチャクラムにウィンディーネと下級魔方陣ウォーターを。
ドロップには上級魔法陣アクアを組む。
氷帝エイジは白髪で糸目の男性だ。
歳の頃は二十代後半だろうか。
左右に真っ白なダガーを持ち、フラウと下級魔方陣アイスを。
そしてドロップにはウィンディーネと契約し、下級魔方陣ウォーターも組み込む。
左右につけた腕輪には上級魔法陣アクアとブリザードを組み込んむ大量盛りだ。
地帝サイファは長い濃紫色の髪をした小柄な女性。二十歳前後ではなかろうか。
両手のナックルにはノームと下級魔方陣グランド。
そして千尋が地属性仲間と言う事でまたも全部盛りをした。
両足のミスリルブーツに上級魔法陣インプロージョンとグラビトンを。ドロップにはアースを組み込んだ。
大魔導師は全員同じ白いローブを着ている。
金の装飾が入り、それぞれ内側の色が属性ごとに分けられているようだ。
魔術師団は全員黒のローブをを制服として着用が義務付けられているとの事。
聖騎士長ヴォッヂは屈めば自分の体がすっぽりと覆える程の巨大な盾を持ち、右手には長大な戦斧を持つ。
ミスリルの鎧を着た重戦士といった装いだ。
実はこのヴォッヂ、聖騎士長となる前は地帝として大魔導師の座に就いていた。
カミンが聖騎士長の座を退く際に指名したのがヴォッヂだ。
それまでは大魔導師から聖騎士長へと就任する者はいなかったのだが、ヴォッヂの戦闘は大魔導師のそれとは違い、強化した武器での防衛を得意とした。
国の防衛の要としてカミンはヴォッヂを指名したのだった。
ヴォッヂの戦斧には精霊ノームと下級魔方陣グランドを。
巨盾には上級魔法陣アース。
双剣にはグラビトンとインプロージョンを組み込む。
地属性のヴォッヂに千尋も嬉しそうだ。
聖騎士レイドとケインは火属性。
ロッサとナイルが雷属性。
セレスが氷属性を選んだ。
聖騎士は全員が両手直剣にミスリルの鎧を着込み、黒いマントを羽織っている。
クイースト王国では装備が統一されており、唯一ニシブだけが違う装備を着ている。
全員ドロップに上級魔法陣を組み込んで、エンチャントと精霊契約は完了した。
大魔導師の方が強力な装備が揃った形になるが、これまで近接戦闘をしてこなかった彼らは一から鍛え直さなければならない。
その点、聖騎士はこれまでの近接戦闘での威力が爆発的に上がった事で、今後は威力を抑える方向に訓練する必要が出てくる。
一番能力が上昇したのはヴォッヂだろう。
彼は元々が大魔導師。
そして聖騎士長という立場から近接戦闘もできる為、その実力は計り知れない程となる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は数日前に遡る。
朱王達が邸に来たその日の夜。
カミンとマーリン、メイサは朱王の部屋に呼ばれてこれまでの調査結果を報告していた。
そして報告を終えて部屋を出ようとしたところで呼び止める朱王。
鞘に収められた直剣をカミンに差し出す。
「朱王様、これは?」
「魔剣ティルヴィング。カミンも随分と強くなってるみたいだし君に丁度いいんじゃないかな? 私が作ったものだが聖剣よりもかなり性能は高いから大事にしてね」
「聖剣よりもですか!? そのようなものを朱王様がお作りになったと言うのですか!?」
驚愕の表情で問うカミン。
聖剣以上と聞いては魔剣を受け取る事ができない。
「一緒に来た千尋君達から作り方を教わってね、私の刀も彼らから作って貰ったんだよ。それより早く魔剣を受け取ってよ」
「いえ、しかし……」
聖剣以上という魔剣を受け取るのはカミンも躊躇う。
「マーリンとメイサは武器を持って来てくれたかい? 君達の武器は強化するから少し貸してくれ」
なかなか受け取ってもらえない魔剣をテーブルに置く朱王。
マーリンとメイサは自分達が使用する一級品の直剣を朱王に手渡す。
魔石を取り出した朱王は魔力を溜め込むでエンチャント。
千尋から貰った魔力量2,000ガルドの魔石だ。
そして再び魔石を取り出して下級魔方陣をエンチャント。
二人の得意属性を知っていたので問題はない。
武器を返してその魔力量に驚きの声をあげる二人。
カミンもメイサの剣を借りて確認する。
メイサの直剣は魔力を溜め込む事ができる魔剣となっていた。
「あとは精霊と契約すれば精霊魔導師になれるからね。メイサは元々大魔導師だし精霊契約できるよね? マーリンにも教えてやってくれ」
その後貴族用ドロップにもエンチャントを施し、上級魔方陣も組み込んだ。
カミンは恐る恐る魔剣を受け取り、その性能に驚く。
マーリンやメイサに与えた能力以上に魔力を溜め込む事ができる。
そして能力付与に何がいいかと朱王は考える。
カミンは聖騎士長時代から水魔法を得意とし、水帝に劣らない程の水溶性質研究の第一人者だった。
それならばと朱王は千尋から貰った魔石で条件をエンチャント。
「魔剣に付与する能力は爆水にしたよ」
「…… 睡眠系の能力という事ですか?」
「いや、違う。爆発する水と書いて爆水と読むんだよ。カミンが水質変化が得意ならこの能力かなって思うんだけど」
爆水とはあくまでも造語。
千尋が能力付与する際に、能力の名前を漢字でつける事を真似して爆水とした。
「爆発する水ですか。想像はつきませんが朱王様が私にと選んでくださった能力であれば、その威力は計り知れません。ありがたく使用させていただきます」
よくわかっていないようだが朱王のイメージが込められた条件だ。
魔力を通して水魔法を発動すれば大爆発は起こるので問題はないだろう。
後日試してその威力に驚愕するのだが。
下級魔方陣を組み込み、マーリン達同様に貴族用ドロップにも上級魔方陣を組み込んだ。
朱王はカミンが使用しなくなる一級品のミスリル剣をもらい、また少し改造しようと考える。
寝る前に少しずつ加工を進め、鏡面仕上げの白銀の刃に装飾部は黒地に緑に着色した。




