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042 乗り物

 魔族の話も終わり、コーヒーを飲んで一息つく。


「千尋君。剣をありがとう」


 剣を返す朱王。


「エンヴィはどうだった?」


「魔力が溜められる剣はやはり良いね! もう少し出力が欲しいところだけど…… 私も魔剣が欲しいなと思ったよ」


「朱王さんも作れば良いんじゃない?」


「さすがに一人じゃ作れないよ」


「千尋、作ってやれば良いじゃないか」


「え!? 朱王さんほどの技術のある人に作るのは少し恥ずかしい!」


「千尋君の武器なら是非欲しいね。もし作ってくれるなら私も何か支払わないとね……」


「千尋。オレは乗り物が欲しい」


「蒼真が欲しいだけじゃん!」


「私も欲しいです!」


「私も竜車には乗りたくないわ」


「乗り物が欲しいのかい? 私の家にあるので良ければ譲ってもいいいけど見にくる?」


「バギーの他にもあるのか!?」


「運搬用の車は譲れないけどそれ以外なら譲っても良いよ」


「どんなのがあるの?」


「バイクが二台あるよ。バギーと同じ魔力エンジンだけど魔力鍵は別に付けてあるから、魔力登録も難しくないし」


「四人乗れるの?」


「一台に二人ずつかな。一台はサイドカー付きで荷物もたくさん運べるし、もう一台はパニアケースが付いてるから荷物も少し入るよ」


「朱王さんは二台譲っても良いの?」


「そうだね、バギーあるし二台でも良いよ。私の持ってる素材で作って欲しいんだけどどうかな?」


「交渉成立だ! 今すぐ朱王さんの家に行こう!」


「蒼真が決めるの!?」


「千尋、良いじゃない。私も手伝うわよ」


「あれ? 朱王さんは買い物に来たって言ってませんでしたっけ?」


「うん。食料を買ったら家に戻るよ。君達が歩きで向かえば同じ頃には着けると思うけど」


「朱王さん、剣のデザインはどうするの?」


「うーん…… じゃあ私の家で決めようか」


「わかったー。先に向かうねー」


「早く行こう」


「蒼真、落ち着いてよ」


「私は朱王さんの後ろに乗って行って良いですか?」


「ああ。迷惑かけるなよ? ミリー」


「んな!? 迷惑なんてかけませんよ! ねえ?」


「あはは。仲良いね君達は」


 朱王とミリーはバギーに乗って買い物に向い、千尋達は戸締りをして歩きで北へ向かう。


 向かう途中で昼食を摂ってから行く事にした。




 アルテリアの北部にある店で食事をする三人。

 パンに肉を挟み、味付けや野菜を自分で選べるハンバーガーのような食べ物だ。

 野菜スープもついて、一人分1,000リラと安めだが、味は自分好みに変えられるとあって美味しい。


「ねぇ蒼真。ミリーを朱王さんに取られちゃうんじゃない?」


 ニヤニヤしながら言うリゼ。


「取られるも何もミリーが気に入ったみたいだし応援しているぞ。ここ数日なんてアルテリア北部のクエストしか受けてないしな。オレとミリーは毎日朱王さんに会いに行ってたくらいだ」


 蒼真が言うように配達クエストの後からは、毎日北部のクエストしか受けていない。

 ミリーが選ぶクエストは北部のものばかりで、嬉しそうに差し出してくるので断りにくい。

 クエスト後は朱王の家に寄り、朱王の作るお菓子を食べれるので蒼真も喜んで向かうのだが。


「やっぱりミリーはそうなのよね!? 最近様子がおかしいもの!」


 嬉しそうに問いかけるリゼ。


「あの目は間違いないね。あのミリーがあんな表情をするなんてねー」


「今夜はアニーとリンゼを呼んで女子会ね! レイラは勝手に来るでしょ!」


 頬を紅潮させて嬉しそうに言うリゼに、そっとしておいてやれよ…… と思う蒼真だった。






 買い物が終わった朱王とミリー。


「食料はこれでいいかな! 今夜料理するとして冷気の魔石は…… リザードマンを狩るか。じゃあミリーさんそろそろ昼食にしようか」


「はい! 何が食べたいですか?」


「そうだね、美味しいとこならどこでもいいけどミリーさんは何が食べたいの?」


「お肉が食べたいです! 少し高いですけど良いですか?」


「よーし、一番良い肉を食べよう! 私はそのお店知らないから案内してくれる?」


「わーい! こっちです! 行きましょう!」


 アルテリアにある焼肉店の最高級の肉は100グラムで30,000リラ。

 好きなだけ食べて良いと言われて1キロの肉を食べたミリー。

 野菜やご飯も食べて満足したミリーだが、支払い金額を見て青ざめた。

 ミリーの手持ちが少なかった為だ。


「美味しかったね。また来ようか!」


 言ってお金を払う朱王。


「ごめんなさい…… 値段知らずにいっぱい食べちゃいました……」


「ミリーさん美味しかった?」


「はい! すっごく美味しかったです!」


「あはは。それなら良かった」


「なんだか朱王さんはいつも余裕ですねぇ」


「ふふふ。大人だからね!」


「私だって大人ですよ!!」


「ソーダネー」


「んなっ!? 何ですか今の言い方は!?」


 揶揄いながら歩く朱王と、表情をコロコロ変えながら楽しそうに話すミリー。


「蒼真君達も私の家に着く頃だろうしそろそろ行こうか」


「そうですね。もう少しお話ししたかったですけど……」


「私は明日から隣の国、ゼスに行くんだけど帰りに何かお土産を買ってくるよ。帰って来たらまた話をしようね」


「ゼスに行くんですか…… 良いですね、私も行ってみたいですけど…… では今度他の国のお話も聞かせてくれますか?」


「私が見てきた国の話で良ければいくらでも!」


「はい! 楽しみにしてます!」


 バギーに乗る前に紙袋を渡す。

 防具屋に寄ってミリーの装備に合う腰布を朱王が選んだものだ。


「どうですか? 似合いますかね?」


「うん。似合ってる。可愛いよ!」


「えへへ。今度は可愛いと言われました」


 赤面して喜ぶミリー。


 ミリーはピンクの髪に黒い髪飾り。

 白いノースリーブに黒い胸当て。ベルトは白地に赤い模様。スカートは黒字に白のフリル付き。

 そして黒いブーツを履いている。

 全体的に黒い装いの為、腰布も黒地に赤いラインの入ったものを選んだ。

 襟元に赤いリボンをしているので全体的にバランスがとれている。


 バギーに跨り走り出す。




 アルテリアの北側から抜けて十分程で家まで着くが、森林の道を少し入ったところで蒼真達に追いついた。


「皆さん先に行ってますね! 行きましょう朱王さん!」


「ええ!? いいのか?」


「行けー!!」


 掛け声とともに加速するバギー。


「ミリー楽しそうね」


「早くバイクを貰いに行こう!」


「蒼真も早く乗りたいんだね」


 そこから十分ほど歩いて朱王の家に着く。




 玄関で待つミリー。


「皆さんこっちですよ! 早く行きましょう!」


 ミリーに促されて車庫へ行く。


 大扉が開かれており、中に置かれてあったのはさっきまで乗っていたバギーとバイクが二台。

 そして大きなオフロード車が一台。


「めったに乗らないから汚れているね…… 綺麗にするから少し待ってね」


 朱王は風魔法と水魔法を駆使して磨きあげる。

 ものの数秒で輝く外装。




 黒い外装に金色のフレーム。

 前後金色のディッシュホイールに太めの黒いタイヤ。

 エンジンなどの機械的な部分も金色のバイク。

 パニアケースも黒地に金の縁取りとなっている。

 黒や金も艶ありと艶消しに分けられている為、ただの二色とはまた違った美しさがある。

 この黒金のバイクはヴェノムという名前だそうだ。




 もう一台のバイクはサイドカー付き。

 外装は艶ありのメタリックブルーでフレームは黒。

 エンジンは顔が映り込むほど磨かれた銀色。

 前後ワイヤーホイールでタイヤはやや太め。

 サイドカーは黒いボディにブルーメタリックのラインが入り、シートの後ろには多くの荷物も積めそうだ。

 青黒のバイクはゼノンという名前だそうだ。




「綺麗になったけどこの二台でどうかな?」


「すごー! カッコイイ!!」


「早く乗ってみたい!」


「千尋も蒼真もはしゃぎ過ぎよ! まずは私から乗るわ!」


「リゼさんもじゃないですか!」


「えーと。じゃあ魔力登録しようか。まぁ魔石に魔力を込めるだけなんだけど…… これね」


 朱王から全員に二個ずつ魔石を渡される。


「じゃあ手で握って魔力を流し込んでみて」


 各々魔力を魔石に流し込む。


 バイクのタンクはダミーだが、給油口の代わりにアナログな時計が付いている。

 朱王がハンドルを握って時計を捻るとその部分が上に開く。


「これは私が作ったから真ん中に私の魔石が入ってるけど、その周りに空いてる窪みに君達の魔石を入れてくれれば登録ができるよ」


 各々魔石を一つずつ入れ、二台とも登録を済ませる。

 簡単に乗り方も説明し、乗る順番を決めることになる。


「ミリーはさっきまで後ろ乗ってたから順番後な」


「えー…… 良いですよ!」


 良いらしい。


「千尋と蒼真で最初に行ってきていいわよ。その後は私とミリーね!」


「わかった! 行ってくるねー!」


「千尋、帰りはバイク交代しよう」


 アクセルを煽って走り出す千尋と蒼真。


「無茶しないといいけど…… じゃあ朱王さん、私達は武器のデザイン決めましょう!」


「じゃあ中に入って」


 朱王に促されて家に入るリゼとミリー。


 朱王がコーヒーとクッキーをテーブルに置き、早速ミリーはクッキーを一口。


「おいしー! サクサクなのに中はしっとりしてます!」


 ミリーが嬉しそうに食べるのを見てリゼも一口。


「すごく美味しいわね。プリンも美味しかったしお店出せそうね!」


 両手にクッキーを持って食べるミリーとリゼ。


「あの…… 武器を……」


「む、ふおーはん。絵は描けまふか?」


「んん? 絵を描けばいいの? じゃあイメージだけ……」


 サラサラと紙に絵を描いていく朱王。


「朱王さん絵も上手いのね…… 蒼真と同じ日本刀?」

「うん、やはり日本人の男としては刀に少し憧れるよね。まぁ正直言うと戦い方とかよくわからないけど」


「え!? 戦い方わからないんですか!?」


「嘘でしょ!? あの剣捌きは何なの!?」


「ん? ただの騎士達の真似だよ。まぁ自己流にアレンジしてるけどね」


「ほんっと千尋みたいね……」


「剣を使う千尋さんですね!」


 千尋を見るように呆れ顔で朱王を見るリゼ。


「千尋君も強そうだよね。なんだか底が見えない感じがするし」


「千尋の強さは未知数なのよね……」


「変な事してきますからね……」


 千尋について語るリゼとミリーは遠くを見るような目をしていた。


「彼等もそろそろ戻ってくる頃だし素材用のミスリル持ってくるね!」


 部屋を出て行く朱王。




「ねぇミリー。今夜は覚悟してね?」


「何がですか?」


「ミリーの為の女子会を開くわよ!」


 意地悪な表情で言うリゼ。


「…… 何でですかね?」


 本当にわからないといった表情のミリーにガクッとするリゼ。

 遠くからエンジン音が聞こえてくる。


「来たみたいね! 私達も行きましょう!」


「ついに運転できますね! 」




 戻って来た千尋と蒼真は出て行った時と乗るバイクを交代していた。


「ただいま! すっごく楽しかったよ!」


「これは目的なくてもどこか行きたくなるな」


 千尋も蒼真も満足そうにバイクを降りる。


「ミリー。私達も行きと帰りでバイク交換しましょう!」


「はい! そうしましょう!」


 気をつけてねーと見送る千尋と蒼真に手を振って走り出すリゼとミリー。

 やや安全運転気味にゆっくり出て行ったので心配はないだろう。




「あれ? ミリーさんとリゼさん行っちゃった?」


 玄関からミスリルを持って出て来た朱王は、家にあがるよう促す。


「このミスリルは魔剣に使えると思うから確認してみて」


 机に置かれた大きなミスリルの塊。

 魔力を流して確認する千尋。


 朱王は二人のコーヒーを淹れてソファに座る。

 千尋と蒼真も向かいに座り、朱王は先ほど描いた絵を見せる。


「あのミスリルのブロックだと数本分の日本刀が作れそうだけど一本でいいのかな? たぶん魔力の溜め込み続ける日本刀になるね」


「オレのと同じか。練度が低いと扱いにくいが朱王さんなら平気そうだな」


「一振りでいいよ。装飾や色なんかは千尋君に任せる」


「重量のバランスとかはどうするの?」


「そこも千尋君の好みでいいよ」


「このクッキーも美味いな」


「あ! オレも食べる!」


 朱王の描いた絵を元に、寸法などを書き込んでいく千尋。




 遠くからエンジン音が聞こえてきたので外に出る朱王と千尋と蒼真。

 リゼとミリーが戻って来てバイクを降りる。


「バイクって楽しいわね! 風も気持ちいいし最高だったわ!」


「リゼさんスピード出しすぎですよ! リザードマンとか容赦無く刎ねるから私ビックリしましたよ!」


 ワイワイ騒いでいるが楽しかったのだろう。

 頬が紅潮してテンションも高い。


「交渉成立かな?」


 朱王が問う。


「「「「もちろん(よ)(です)!」」」」


 サイドカーの後部にミスリルを積み、街に戻る事にする。


「帰って来たら工房に行くからね」


「はい! 待ってます!」


「十日くらいだっけ? たぶん魔剣も出来てると思うよ」


「それは楽しみだね!」


「朱王さんお土産待ってる」


「あはは。わかったよ」


「ちょっと朱王さんこっち来て!」




 皆んなから離れたところにリゼに引っ張られていく朱王。


「今日は攻撃してしまってごめんなさい」


「平気だよ。君にも事情があるんだろう?」


 朱王の問いに頷くリゼ。


「明日は何時に出発するの?」


「朝の八時くらいかな」


「じゃあ八時に工房寄ってくれない?」


「ん? いいけど…… なるほど。君は優しいね!」


 ミリーの方を見て察した朱王。


「え!? もしかして気付いて……」


「まぁ気付くよね、普通」


「…… 気付かないのは普通じゃないわよね」


「千尋君かい?」


「え!?」


「彼は鈍そうだよね。普段から周りに好かれるだろうから、自分に対する特別な好意に気付かないタイプだよ」


「そうなのよ! 朱王さん、帰って来たら千尋の事相談していい?」


「あはは。私で良ければね!」


「お願いします」




 また皆んなのところに戻るリゼと朱王。


「リゼさん…… 何を話してたんですか?」


「気にしないで? ちょっと相談よ」


 顔を少し赤くして戻って来たリゼが気になるミリー。


「魔族の事でも聞いてきたんだろう。ミリーは気にしなくてもいい」


 蒼真が気を利かせて誤魔化す。


「帰りはオレ運転していい?」


「オレも青い方乗りたい」


 リゼが千尋の後ろに乗り、朱王が二人乗り(タンデム)の仕方を説明する。

 後ろは慣れないうちは外側に振られるからと、千尋の腰に手を回すよう指示を出す。

 千尋はそういうものかと納得するが、リゼの為に朱王が嘘をついただけだ。

 顔を赤くしたリゼに笑顔を向ける朱王。

 リゼもこっそりと笑顔で返す。


 蒼真はバイクに跨り、ミリーはサイドカーに乗り込む。

「とても快適です!」と言うミリーは、サイドカーでも満足そうだ。


 朱王に別れを告げて街に戻る一行。




 十分で街につき、工房を開けてバイクを停める。

 空いていたスペースに丁度よく収まった。




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