040 朱王が会いに来た
蒼真達が配達クエストをして五日後の朝。
「よし、お土産も積んだし蒼真君達のところに行こうかな」
時刻は九時半を過ぎたところ。
朱王は遠出をする為の準備と、今日は食料の買い出しに街へ出かける。
先日配達に来た冒険者二人。
蒼真とミリーに誘われた朱王は、まずは宿屋エイルに向かう。
ドルルン!
ドッドッドッドッ!
今日もエンジンは調子が良さそうだ。
今日朱王が跨るのは四輪バギー。
魔力で駆動するエンジンを積んでおり、魔力鍵を取り付けてあるので誰でも乗る事ができるわけではない。
今日は食料の買い出しに行くだけなのでバギーで充分と判断し、荷台にお土産を積んで走り出す。
魔力エンジンは音が大きい為、魔獣を集めやすい。
スピードを上げて魔獣を振り切って進むのだが、時々行く手を阻まれる時もある。
そんな魔獣を、バギーに魔力を込めて硬度とスピードを上げて弾き飛ばす。
この世界では魔獣は敵。
倒して良し。
問題はないのだ。
朱王の操るバギーの最高速度はせいぜい時速120キロ程度。
この世界には道はあっても舗装路はない。
王国に行けば石畳の地面はあるが、舗装路とは比べられるものではない。
この世界の移動手段として主流なのが、ドラグバードに乗用車を取り付けたものとなる。
通常時で時速約15キロ、急いだ時でも人が乗っているとなれば時速30キロが限界だろう。
そう考えれば悪路であっても時速120キロを出せる乗り物であれば、この世界においては充分な速度と言えるだろう。
自宅から出ておよそ十分で街までたどり着き、北側からは入らずに西から回り込んで街に入る。
街に入ってからはゆっくりと走り、宿屋エイルへと向かう。
「ねぇ、なんかエンジン音が聞こえない?」
テラスでお茶を飲みながら朱王を待つ四人。
「もしかして朱王さんですかね!?」
「あー、あり得るな。あの人なら既に乗り物くらい作ってそうだ」
「なんか二人とも嬉しそうね」
少し待つと。
「蒼真さーん! ミリーさーん! ロビーにお客さんですよー!」
食堂から顔を出して呼ぶレイラ。
「やはり朱王さんですね!」
「そうみたいだな。行こうか!」
ロビーに行くと朱王が荷物を持って立っている。
「おはよう蒼真君、ミリーさん」
「おはようございます! 何ですかその荷物は? 美味しい荷物ですか!?」
「ミリー。言ってる事がおかしい」
「あはは。そうだよ。美味しい荷物だ。宿屋って事だからこちらにもどうかなって持って来たんだ」
「レイラさん! 朱王さんからこんなに戴けましたよ!」
「え? なになに? 何を戴けるの?」
「美味しい荷物です!」
「ガトーショコラな」
「それです!」
「もし良ければ食べてみてください。お口に合うといいんですが……」
気恥ずかしそうに荷物を渡す朱王。
「とっても美味しいんですよ! 茶色くて甘くてトローっとしててすごく美味しいんです!」
「落ち着けミリー。レイラ、別にオレが全て受け取ってもいいんだぞ?」
「いいえ! 私が有り難く受け取らせて頂きます! 朱王さんありがとうございます! 今日の夕食で出してみますね!」
お礼を言って荷物を食堂に持って行くレイラ。
「へー…… いい宿だねぇ。なんだかいい香りもするし」
ロビーをキョロキョロと見回す朱王。
「朱王さんもここに宿をとればいいですよ! あ、持ち家でしたね……」
「お、ミリーさん早速使ってくれてるみたいだね! やはりとても綺麗だ。それと…… 君がリゼさんかな?」
「はいっ! 私まで貰ってしまって…… ありがとうございます!」
緊張したように話すリゼ。
ミリーは赤面して照れている。
「それと君が千尋さんかな?」
「うん! 朱王さんがこのドロップ作ってるんでしょ? 細工が綺麗で驚いたよ!」
「あはは。ありがとう。私も千尋君の作る武器には驚かされたよ」
「男の子か……」と小声で漏らす朱王。
「さっきエンジン音が聞こえたけどあれは朱王さんか?」
「そうだよ。今日はバギーで来たんだ」
「バギー!? 見たい!!」
「何の事かわかりませんけど私も見たいです!」
「じゃあ外に停めてあるから出ようか」
朱王に促されて宿を出る千尋達。
「うっわぁ! この世界には似つかわしくない物がある!」
「千尋。オレはこれが欲しい」
宿の前には二人乗りの四輪バギーが停めてあった。
外装は艶のないメタリックレッドでアルマイトのような仕上がりだ。
太く大きめのタイヤを履き、悪路でも走行が可能な作りとなっている。
「すごい! 何ですかこれ!?」
「こんなのこの世界にあったの? 私も初めて見たわ……」
リゼもこの世界に来て七年にもなるが、バギーなどの機械的なものは初めて見るようだ。
「私は仕事柄いろいろと旅をしていてね。乗り物が必須だったからそこそこ時間と手間をかけて作ったんだよ。まぁこのバギーは荷物がそんなに積めないから普段の足になっているけどね」
「燃料とかはどうするんだ?」
蒼真からは最もな質問。
この世界にはガソリンスタンドはない。
「魔力エンジンを開発して組み込んであるんだ。ハンドルを掴んでアクセルを回せば魔力が吸われる仕組みさ。アクセルの開度によって魔力を吸われる量も変わるよ」
「千尋。オレはこれが欲しい」
また言う蒼真。
「オレだってこんなのそう簡単には作れないよ? 上手く作れるかもわからないしさぁ」
「朱王さん! これ乗れるんですか? 私も乗ってみたいです!」
マジマジと見回しながら言うミリー。
「私の後ろで良ければ乗るかい? 一応盗難防止用に厳重な魔力鍵をつけているからね。エンジンをバラしてミリーさんの魔力も組み込まないと運転はできないんだ」
「二人乗れるんですか? 私は後ろでも全然構いません!」
「じゃあ少しミリーさんを乗せて走って来てもいいかな? すぐ戻っては来るけど……」
「オレ達は千尋の工房に行ってるから後で来てくれ。そこの青とピンクの建物だ」
「わかった。じゃあミリーさん後ろに乗って…… あ、ミリーさんスカートだね。走り出すと捲れちゃうかもしれないし、私ので良ければこれを巻くといいよ」
「そ、そうですね…… お借りしても良いですか?」
赤面しながらミリーは朱王の腰布を受け取り、腰に巻いてベルトを締める。
ミリーは後部席に座り、グリップを掴むよう指示される。
背中には小さいが背もたれも付いているので安心だ。
朱王はまだ積んであった荷物を蒼真に渡す。
「これにはプリンが入っているから食べててもいいよ。器が五つだけしかないから宿屋には持って来なかったんだけどね」
受け取った蒼真は朱王が帰って来たら食べると言って見送る。
エンジンをかけ、その振動とエンジン音に期待を膨らませるミリー。
「じゃあ行こうか」
アクセルを捻る。
街の中ではゆっくりと走る為、急な加速はないがミリーは喜んでいる。
「すごいですね! 風が気持ちいいですー!」
「街を出たら加速するからね? ミリーさんしっかり掴まっててね!」
「はい! 楽しみです!」
ゆっくり走る事一分程。
「そろそろ街を出るよ! あ、そうそう。曲がる時は少し体重を移動して欲しいんだけど…… わかるかな?」
「わかりません!」
「曲がる時は曲がる方向に身体を傾けて欲しいんだ。じゃないと外側に投げ出されそうになっちゃうからね!」
「うぇぇえ!? それは怖いですね!」
「片手を私の腰…… ベルトあたりを掴んでくれるとわかりやすいかもしれない」
「なるほど! では失礼して」
右手で朱王のベルトを掴むミリー。
街を出たところから加速するバギー。
アルテリアの西側から出て南下し、街の南から回って東へと向かう。
ミリーが振り返るとどんどん遠ざかっていくアルテリアの街。
朱王は急に曲がる事はせずゆっくりとハンドルを切り、ミリーに体重移動を慣れさせていく。
「すごい速いですね! アルテリアの街がもうあんなに小ちゃくなっちゃってます!」
「ミリーさん怖くはないかい? 言ってくれればスピードを落とすよ?」
「すっごく楽しいですよー! このまま行ってください!」
「それは良かった。アルテリアから王国まで一時間ほどで行けるけど、彼らをあまり待たせるわけにはいかないからね。もう少ししたら戻ろうか」
「王国までそんなに早く行けるんですか!? まぁこの速度なら納得できます!」
アルテリアを出てから三十分ほどで工房に戻ったバギー。
「ただいま戻りました! 楽しかったー! すっごく速かったですよ!」
「皆さんお待たせしちゃったね。へー…… ここが千尋君の工房か。ずいぶんとお洒落だね。なんだかお店みたいだよ」
工房内を見回す朱王。
完成した剣や槍、作りかけのスタッフを手に取りながらじっくりと観察する。
朱王の紅茶を淹れたリゼはソファに座るよう促す。
「武器を見せてもらったけどすごい良い腕だね! 君達が言う魔剣は作ってないようだけど……」
「魔剣は必要がない限りは作らないよー」
武器をいくつか作ったが、デュランダル以降は魔剣は一つも作っていない。
「朱王さんもミスリルの性質を理解してるって本当?千尋に言われなかったら私も知らなかったし」
少し疑ってしまうリゼ。
「うん、わかるよ。魔力の溜めや方向も判断できる」
「朱王さん、もしかして魔石も作れたりしないか? ドロップに入っている少し黒っぽい魔石は朱王さんが作ったんじゃないかと思うんだが」
この前から疑問に思っていた事を聞いてみる蒼真。
「え? 君達は魔石を作れる事も知ってるのかい?」
驚いたように質問で返す朱王。
「ああ、この千尋が作れるからな」
千尋の肩に手を置く蒼真。
「なるほど。魔石を作れるうえにミスリルの性質にも気付くのか…… 私と千尋君は少し似ているね」
朱王が千尋を見ると笑顔が返ってくる。
「これで朱王さんも強かったら完璧ね」
「そういえば朱王さんの技術を見る限りだとかなりの魔力練度だと思うんだが、実は相当強いんじゃないか?」
「この世界に来て五年だっけ? レベルも10になってそうだよねー」
「…… 実はまだレベル5なんだ」
苦笑いで答える朱王。
「五年いてまだ5なの!?」
「なかなかレベルは上がらないんだよね」
お手上げみたいな仕草で答える。
「千尋もレベル上がりにくいじゃない」
「で? お強いんですか?」
「さぁ? 強さの基準がわからないんだけど……」
何となく嫌な予感がする朱王。
「手合わせして欲しい」
何故か嬉しそうに立ち上がる蒼真。
「ええ!? 何故戦うんだ!?」
「皆んな気になってるのよ。特にミリーと蒼真が」
「強いといいですねぇ!」
「私は武器を持ってないよ!?」
「じゃあこれ使う?」
エンヴィとインヴィを渡す千尋。
受け取った剣を確認する朱王。
「…… あれ? これも魔力を溜めれるね?」
「うん! 魔石で魔力を溜められるようにしたんだー」
「ふーん、なかなか面白い事をするね。それなら少し試してみたいかな」
「よし、戸締りして岩場に行こうか」
工房内にバギーも入れて戸締りし、五人は西口の岩場へ向かう。




