037 クエスト難易度10 オーガ討伐
いつもと変わらぬ日常。
千尋とリゼは武器を作り、蒼真とミリーは他の冒険者とクエストを受ける。
アルテリア襲撃からだいぶ日も過ぎ、近場のクエストも落ち着いてきた。
クエストとしてミノタウロス討伐が時々出ているが、ハウザー達パーティーが請け負っている。
キラーアントのクエストを他のパーティーが受け、ハウザー達と同行という形を取っているようだ。
蒼真とミリーは街の冒険者パーティーと同行するのをすでに一巡している。
どのパーティーもランクを一つずつ上げ、同時に実力も上がっている。
お金を稼いだ冒険者は新しい武器の追加と千尋のエンチャントなどをして、さらに実力を上げている。
チュリやアザレアも左右にミスリル武器を装備し、格段に戦いやすくなったと言う。
お金はパーティーで協力して工面したようだ。
千尋に装飾依頼したリンゼは、その完成度に驚いた。
作りがシンプルだったスタッフは、彫りを深くして全てに三角の面を作り、陰影をはっきりとさせて鏡面に仕上げる。まるでクリスタルのような輝きだ。
そして近接戦闘もできるようにと、千尋は勝手に先端側に刃を付けた。アックスのような形状の刃だが、重くないように刃は薄く、細く作られている。刃と言うよりは装飾に近いのだが。
部分的に模様を入れ、全て着色して完成。
まるで宝飾品のようなスタッフ(アックス)になった。
代替えに関しては、ハウザーパーティーが二日間の休みをとる事で不要となったのだが。
「千尋…… これはやり過ぎだ……」
ハウザーは項垂れる。
「一級品以上に仕上がってる……」
ベンダーも項垂れる。
千尋は喜ぶリンゼを見て満足している。
「これしか用意させてねーよ……」
1,000万リラが千尋の前に積まれる。
「ええ!? そんなにもらうつもり無いよ!?」
「いや、千尋のこの装飾だともっと払わないといけない」
一級品武器の相場は安くても5,000万以上。
リンゼの武器は1,500万ほどで購入したというが、千尋の装飾により計2,500万リラ。
どう考えても安すぎる。
強く説明されて千尋も納得するしかない。
ハウザーからの1,000万リラを受け取り、金額をこれで請け負う事に決めた。
千尋の友人である事を条件に装飾依頼は受ける事となった。
ハウザーも装飾したいようだが左用ミスリルダガーを購入した為、今後お金を貯めて来るという。
ここ最近ではどのパーティーも余裕を持ってクエストを受注し、役所側から難しいと判断された場合に同行を頼まれるようになった蒼真とミリー。
朝八時から様子を見て、十時までに無ければ自分達でクエストを受けるという形をとっている。
冒険者の中には隣街のクエストを受けに行く者もいるが、しっかりとした実力を身につけているので心配もいらない。
そんなある日、遂に出た高難易度クエスト。
難易度10。
難易度10ともなればゴールドランクが最低条件。
この街にはゴールドランクの冒険者は一人もいない。
クエストボードを見つめる蒼真とミリーに声がかけられる。
「蒼真君、ミリー君。その難易度10のクエストを受けるかね?」
所長アブドルだ。
「受けたいけどランクが足りません!」
「ふふふ。君達の強さなら問題はないだろう。どのタイミングでゴールドランクにしようか悩んでいたんだよ」
「受けれるのか? そらなら千尋とリゼ呼んでくるか」
「ああ、そうしてくれ」
蒼真は風を纏って街を疾走する。
普段歩けば十分ほどかかる距離を一分とかからず走破する。
工房にたどり着くと、千尋とリゼはミスリルの加工をしていたが、内容を伝えると準備して向かうと言ってエイルに着替えをしに戻っていく。
着替えを終えた千尋とリゼ。
蒼真同様、風を纏って走り出す。
すぐに役所へとたどり着いた。
「所長室に来るようにとの事ですよ!」
ミリーが待っていて一緒に所長室に向かう。
「まずは君達をゴールドランクに昇格する。この街では初のゴールドランクだ。私も感慨深い!」
嬉しそうに語るアブドル。
以前王国に、アルテリアが魔族の襲撃があった事を報告した。
その際に魔族を打ち倒したのが千尋達パーティーと報告し、ゴールドランクへの昇格を認められていた。
もちろんロナウドの耳にも届いており、審査などは不問と指示されている。
ロナウドが自分と同等と位置付けた冒険者。
他の誰が審査などできようかという理由だ。
「ではカードをゴールドに更新するまで少し待ってくれ。で、今回のこの難易度10のクエストだが少し遠い」
クエスト内容:オーガ討伐
場所:アルテリア北部山岳地帯
報酬:一体につき7,000,000リラ
注意事項:物理、魔力耐性が高い
報告手段:魔石を回収
難易度:10
「東に山なんてあるのか?」
「森林地帯に道があるのは知っとるな? その道をずっと進んでいくと山に入るんだ。隣の国ゼスに行くにはそのまま山道を行かなくてはならん。その山道の中腹に横に逸れる道があって、その先には洞窟がある。そこにオーガが巣食っているようだが行商人が襲われているらしい。冒険者の護衛をつけた行商人が一人だけ生きて帰って来た為このクエストが発注されたんだ」
「護衛の冒険者はどうなったんですか?」
「帰還したという情報が一切無いことから…… 犠牲となったと考えられる」
「ゼス側と連絡は取れているのか? 向こうに冒険者が戻った可能性もあるだろう」
「このクエストはゼス王国とザウス王国の合同で発注されたものだ。あちらとの連絡は本部の通信用の魔石によって可能だ」
「なるほど。向こうでもクエストは出てるだろうからすぐに行かないとね!」
「野営の準備もしないといけないわね」
「野営か……」
蒼真はすっごく嫌そうな顔をしているがとりあえず無視しよう。
オーガを倒すのも早い者勝ち。
というわけで、早速野営に必要な物を買い集める。
昼の弁当と食料や水、テントを購入し、アルテリア北部へと向かう。
森林地帯ではゴブリンが多少襲っては来るものの、敵のうちに入らない。
ただただ長い道のりを歩き続ける一行。
途中昼休憩をとって弁当を食べる。
この後からの食事は作らなくてはならないが、千尋や蒼真は料理ができるわけではない。
学校の授業で多少なりとも習ってはいるものの、野外で作る料理などカレーくらいしか経験がない。
リゼとミリーはどうか。
実は二人とも料理ができる。
リゼはレイラから料理を習っていた事があり、ミリーも家にいた頃は両親ともに忙しかったこともあり、姉と一緒に朝昼晩と食事を作っていた。
昼休憩も終えて歩き続ける事およそ六時間。
目的地はまだまだ遠いが、そろそろ暗くなってくる頃なので今日はここで野営をする事にした。
テントを張り、地属性魔法で石を集め、火の魔石を設置して簡易コンロを作る。
今夜料理をするのはリゼだ。
四人用の鍋を置き、レイラ直伝のトマト系のスープを作る。
簡単なスープではあるが、外で食べる料理は普段とはまた違った美味しさがある。
スープに干し肉と固めのパンが今夜の夕食だ。
歩いて来た事でお腹も空いていた為、すぐに食べ終わった。
皿や鍋は水魔法と風魔法で洗い、食事を終える。
もちろん千尋の魔法の洗剤を使用。
ポットを火の魔石に置いてお湯を沸かして食後のコーヒーを淹れ、夜空を見上げながらくつろぐ。
光の魔石は虫を集めるが、千尋が魔法で近寄れないようにしてあるので問題はない。
「見張りはどうする?」
「オレが周りを魔力球で覆っておくよー」
「千尋さんのそれ汎用性高いですね!」
「練らなくても使えるとかズルいわよ!」
見張り役も必要なくなったので寝る事にした。
朝起きるとテントの周りをゴブリンやオークが囲んでいた。
やはり魔力球を警戒して入ってこれないようだ。
千尋の魔力球を上空に上げると襲ってくるが、リゼはテントの正面側をルシファーで一薙ぎ。
蒼真もテントの後ろ側を一薙ぎしてあっさりと片付いた。
朝食はミリーが作る。
また簡単にスープを作る事にした。
クリームスープを作り、パンを添えておしまい。
千尋がパンをちぎってスープ皿に放り込み、スープ内にパンを沈み込ませている。
一方蒼真はパンをちぎってスープに付けて食べる。
それに倣いリゼとミリーもパンをちぎって付けて食べてみる。
(美味しい!)
今度はちぎってスープに沈めてみる。
千尋が少し待っていたので同じように待ち、スプーンですくって食べる。
(これもまた美味しい!)
リゼはつけパン、ミリーはひたパンがお気に召したようだ。
スープの残りを水筒に入れて昼食用として持っていく。
コーヒーを飲んで片付けをしたら出発だ。
この日も一日中歩き通し。
途中で昼食をとった以外は休憩をせずに歩き続けた。
日が暮れる頃には山が見えるあたりまでたどり着き、今夜はここで野営する事にする。
翌朝目覚めた時、前日のように魔獣に囲まれているという事もなく朝食をとった。
また昼食用のスープを水筒に入れて持ち歩く。
この日も一日中歩き続け、夕方には山の麓までたどり着く。今夜はここで野営する事にした。
翌朝、歩き出す事二時間。
山道を登り続ける。
行商人が行き来するだけあってしっかりとした道で、足を強化している為上り坂でも苦にはならない。
横に逸れる道が見えて来たところで、オーガが高台から飛び降りて来た。
「誰から行きますか?」
「じゃあオレから行くよっ!」
千尋がいつものように素手で挑む。
オーガは人型のモンスターで、首が肩より低い位置にあるが体長はおよそ3メートル。
体型や大きさ的にはサイクロプスよりも一回り大きいくらいだろうか。
石柱を持つ腕は膝下まで伸び、恐ろしく太い。
千尋は構えてオーガに向かって走り出す。
オーガは石柱を横薙ぎに振り抜き、千尋は伏せて躱すが物凄いスピードだ。
左の掌底をオーガの腹部に打ち込んで爆破。
しかし魔力が通りにくく、ダメージがほとんどなさそうだ。
すぐさま飛び退く千尋。
オーガの左フックが千尋の立っていた位置を突き抜け、直後に振り下ろされる石柱が千尋を襲う。
オーガの顔面に十発の炸裂弾を打ち込んでオーガを蹌踉めかせ、石柱の軌道を逸らして回避。
オーガの顔に当てた炸裂弾は全て500ガルドの魔力球。
相当な威力があるはずだが、オーガの顔を黒く焦がした程度。
やはりダメージとしては少ないようだ。
「リク! 行くよ! 」
千尋はエンヴィとインヴィを地属性魔法で抜き、強化した剣に炎を纏わせる。
「千尋が初めて剣で戦うな」
「手には持たないのね」
「剣術は使えないからって言ってましたね」
オーガの大振りの一撃が千尋の頭上から向かってくる。
左の剣でガードして爆破し、ギリギリで受けきる事ができた。
しかしその一撃は重く、受ける続けるのは不利と判断して千尋も攻撃に出る。
再び襲いくる左フックに加速させた右のエンヴィと風の刃を放つ。
左の拳を切り裂かれて蹌踉めくオーガ。
千尋は魔力球をインヴィに集めてオーガの頭を叩き斬る。
同時に風の刃に爆破を乗せる。
真っ二つに切られてオーガは絶命した。
「半端な攻撃は通らないねー。蒼真とかミリーの戦い方が良いかも!」
「なるほどな。オーガは臭くなかったか?」
「ん? 臭っさいよ!」
「全力でやる」
「蒼真さん……」
「相変わらずね……」
横道に入って少し進むとオーガがこちらへ向かって来る、四体いるようだ。
「オレから行くぞ! ラン!」
蒼真が風を纏って最初のオーガに詰め寄る。
石柱と蒼真の刀が打ち合い激しく火花を散らし、風魔法で受けているが弾き返せない。
蒼真と対峙するオーガは石柱を両手で使う。
恐ろしいほどに速くて重い一撃。
オーガと斬り結ぶ事数合。
石柱を斬り落とす蒼真。
右手を振りかぶって殴ろうとするオーガに蒼真の横薙ぎの一閃。
ランの生み出す風刃がオーガを両断した。
「行くわよシズク! リッカ!」
リゼはルシファーを振りかぶって、次のオーガに全力で振り下ろす。
弾丸並みの速度の剣尖がオーガを襲う。
石柱で頭を守るオーガ。
ルシファーの切っ先が石柱ごとオーガの上半身を凍りつかせ、魔力を放出して氷を砕こうとするオーガにルシファーによる乱撃と氷の弾丸を放つ。
ダメージを蓄積するオーガは体表を引き千切って氷を砕き、リゼに向かって駆け出す。
再度振りかぶったリゼは頭目掛けてルシファーを振るう。
腕でガードするオーガも耐えきれずに腕ごと頭を貫かれた。
貫いた刃は頭部から凍りつき、薙いだ刃が頭を砕く。
次のオーガをミリーに譲る千尋。
「ホムラ!」
ミリーは魔力をミルニルに溜め込んで、オーガの石柱と打ち合う。
爆破に一撃で破壊される石柱と、ブレスの如き炎がオーガを襲う。
堪らず蹌踉めいたオーガに向かって飛び上がるミリー。
全身から放出した魔力を集めて頭を爆破。
安定の強さを誇るミリーだった。
千尋は残った一体に銃を向ける。
リクを介して地属性魔法を発動し、直径1メートルを超える岩を複数浮かび上がらせて発砲。
何が起こったのかもわからないオーガは、防御もする事なく岩の弾丸に叩き潰された。
そのまま洞窟まで突き進むが、もうオーガはいない。
洞窟の中も調べたがオーガどころか魔獣は一体も居なかった。
盆休み期間は短編【ヒーラーでも強くなれますか?】全9話を投稿します。
よろしければそちらもご覧ください。




