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第二話

月明かりの下では剣が打ち合う音と罵声と悲鳴、そして火花が飛び散るのが見えた。

エリカを筆頭とした特別機動騎士隊の面々はエリカ本人がスカウトした精鋭中の精鋭である。

数に勝る騎士隊はあっという間にグリズ一味の手下を捩じ伏せ、切り伏せるのだが、その中でも一際に凄まじかったのはエリカであった。


「死にさらせ!!」

「ふっ!!」

「ぎゃあ!?」


四方を囲まれても一斉に襲い掛かられても目にも止まらぬ速さで次々に切り伏せており、その体から放たれるプレッシャーには誰もがエリカの存在に恐怖した。

グリズは今頃になって己の犯したミスを後悔し、頭の中では逃げる算段を懸命に考えているのだが、その頃にはエリカが目前に迫っていた。


「貴様だけは、斬る」

「い、い、来るな!! 近寄るんじゃねぇ!!」


エリカが中段に構えてにじりよるとグリズはカトラスを乱暴に振り回しながらこれ以上エリカを近付けないように牽制していた。

剣を乱暴に振り回している人間に近付く事は生半可な腕では出来ない事なのだが、エリカはあっさりと剣で受け止めるとそのままぐるりと剣でカトラスを回すようにして巻き上げると重たいはずのカトラスがいとも容易くグリズの手から奪い取られてしまい宙へと舞った。


「ふっ!!」

「ぐああああ!?」


呆気に取られていたグリズに情け容赦なくエリカは袈裟斬りで倒すと、その頃には制圧し終えており、エリカは剣に付着した血を振り払い胸元にしまっていた紙で拭うと鞘にしまい一息ついた。


「隊長大丈夫でしたか?」

「おう、怪我人はいたか?」

「捕縛に協力した兵士が何人かですが、軽傷でした」

「そいつは良かった」

「ただ、ラビだけが溝に嵌まって足を捻らせてしまい…」

「アイツか、全くドジな野郎だ」



エリカに駆け足で近付いてきたのは副隊長のカリウスである。

茶色く短く清潔に整えられた髪に泣きぼくろが特徴のいわゆるイケメンなのだが、物腰が柔らかく男女に好かれる好青年である。

剣の腕前は中々で、エリカの右腕的存在の一人である。

二人は遠くの方で担ぎ上げられていた若手のラビが喚いている姿を見て苦笑していたが、すぐ横に連れられてきたアリスティアを見て表情を引き締めた。


「隊長」

「御苦労」

「ちっ…!!」


もう一人の副隊長であるルーデリアは先任で、特別機動騎士隊の中では古参の女性騎士である。

スマートながらもガッチリとした体格、異国情緒溢れる褐色肌と銀色の髪は誰もが見放せなくなる位に魅力的であろう。

そのルーデリアにしっかりと腕を取られ、身動き出来ないでいたアリスティアにはもうあのか弱い少女の面影はなく、エリカを視線で殺さんとばかりに睨んでいた。


「アリスティア・ランカスター男爵、今は公爵令嬢様か? いや違うな“紅薔薇のアリスティア”と呼ぶべきか?」

「!?」


エリカは見下ろしながら口角を上げてアリスティアの裏の名で呼ぶと表情が一転し、驚愕していた。


「お前が誘惑し、抱き込んだランカスターも今頃は禁制品の密輸と人身売買でお縄になってるだろうよ」

「なん、で…」


アリスティアはエリカが全てを見通していた事が理解できなかった。

アリスティアとエリカは貴族社会でこそは知ってはいるが、本性の事を知る人間などごく一部しか知らないはずなのだ。

しかしエリカは全てを知っていた。


「まぁ同じ狢、って言えばいいか? たまたま猪熊のグリズの手下の人間を知っていた奴が居てな。 そっからは芋づる式でお前に辿り着いたのさ。 お前さん、その界隈では引き込み女としては有名らしいな?」


ククッと喉を鳴らして笑えば、小さなミスから始まった出来事が最終的に自分達全員に被害がおよび、そして計画が成功する寸前まで行っての失敗であった。

いや、顔を知られていた人間に見られていた時点から既に勝敗は決していたのだ。


「…なんでよ」

「ん?」

「なんでよなんでよなんでよなんでよなんでよなんでよなんでよなんでよ!!」


アリスティアがポツリと呟くとそこから最後の抵抗とばかりに暴れまわり、ルーデリアとカリウス、その他で押さえても暴れまわりちょっとした騒ぎになったのは言うまでもなかった。

その姿を見てエリカは目を細めながら何を思ったのだろうか?







王城に押し込み強盗を働こうとした“猪熊のグリズ”一味の残りは翌日になって即刻ギロチンによる処刑が行われた。

この一味の被害は全体でどれ程になったかは不明であるが、分かっているだけでも地方の商店が三件、旅の行商人が六件、犠牲者は五十名以上、被害総額は金貨五千枚にも及ぶとされており、大凶賊が討ち取られたと聞いた国民達はこれで枕を高くして眠れると口々で語っていた。

ランカスター元男爵も同様で様々な悪事に加担して巨万の富を得ていた罪から反逆罪で裁かれ、同じ日に絞首刑に処された。

“紅薔薇”ことアリスティアは立場故に後日表舞台での処刑ではなく王族同様に己で毒を飲み干し自害したと言われている。

よって近隣諸国、世間を騒がせたこの大事件はエリカ・ハンヘイム公爵令嬢指揮の元に無事解決し、その手腕と名を轟かせたのであった。

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