第八話
「で。とりあえず私は何をしたらいい?」
人のいない中庭で沙羅と青龍は話していた。
そこには小さな池があり、花が浮かべてある。それを綺麗だと呟く。
「ああ。忘れてた」
青龍はそう言って懐から何かを取り出した。
青龍の手のひらにあったもの、それは。
「宝石?」
「ああ。俺の色だと言われている薄氷色だ。ここに来る前にもらった桔梗印の首飾りにはめ込んでおけ」
「う、うん…」
沙羅は制服のポケットからペンダントを取り出した。
「あ。ほんとだー…真ん中に入れられる…」
青龍は沙羅の行動を、目を細くして見ていた。その視線に気づいたのか沙羅が声をかけてきた。
「何?」
「いや…」
「それで…どうやったら青龍を現代に呼び出すことができるの?」
「あー…」
青龍はめんどくさそうに頭をかいた。
「呪文があるんだが…長いぞ」
「げっ」
「詠唱破棄できるんだが…慣れないと無理だ」
「分かったわ。言って」
しょうがないかぁ、と言って、青龍は言い始めた。
「復唱しろ」
「うん」
『東の地に馳せし龍神よ、蒼の色を持つ神よ、四神の主である我に神を使わせよ。出陣・青龍!!』
最後の言霊を唱えた途端、足が中に浮いた。
「―――んな――っ」
落ちてゆくような感覚に捕らわれた。
「っわ!!」
視界が回復した時には、もう地面がすぐそこだった。
「っつ…」
落ちる、と言う恐怖で目をきつく閉じる。
しかし、暫くしても落ちた衝撃は感じない。
恐る恐る目を開くと青龍に抱かれていた。
「なん…っ!?」
「大丈夫か?」
「っ…まあなんとか…」
青龍はそっと沙羅を地面に下ろした。
「お帰りなさいませ、沙羅さん」
声の方に顔を向ければ、愛美が立っていた。
「それと…」
愛美は青龍の方を見ていった。
「初めまして、青龍様。巫女の愛美と申します」
そう言って深々と頭を下げた。
「お前か…沙羅たちを神界に送ったのは」
「その通りです」
「ち…っちょっと青龍!!」
沙羅は青龍の袖を引っ張った。
「何だ?」
「あんた、他の人間にも見えるの!?」
「いや。見えないはずだ。お前や純のような霊力の強い奴にしか見えない」
「そう…なの…?」
あまりに青龍がさらりと言うので返って可笑しかった。
その時――――
「っきゃ……!!」
いきなり砂埃が辺りに舞った。
何事かと思い、目を凝らすと二人の少年が見えた。
「済まん済まん。着地に失敗してもうて」
古い言葉遣いにその正体はすぐ分かった。
「ってぇ…」
「大丈夫か?純」
「大丈夫なわけねぇだろ!?むちゃくちゃな着陸しやがって!!」
「やかましいがな。どうでもいいだろうが」
「よくねぇッ!!」
すると、沙羅が口を挟んだ。
「あの…聞きたい事があるんだけど…」
未だ揉め合っていた二人にも話題を振った。
「呪文を唱えれば、四神って誰でも呼び出せるの?」
沙羅の問に答えたのは青龍だった。
「誰でも…と言うわけではない。四神用の首飾りを所持していて、尚かつ全ての呪文を唱えなければならない。詠唱破棄は通用しない」
「そうなんだ…でも、知ってた方が便利じゃない?」
「第一、自分の主以外の奴に呪文は教えない。常識だ」
あっさりと青龍に否定された。
「分かったわ…」
すると、隣で愛美が青龍に尋ねた。