第七話
長い廊下を進んで行く。
四人で。
沙羅、青龍、玄武、朱雀。
廊下から見える庭では霞がかった中に誰か、居る。
「あれ…」
「ああ…」
青龍は前を歩く沙羅に近づき、話した。
「あれは、これから……そうだな、あと二千年くらいしたら…人によっちゃあ四千年くらいか。俺達が死んだ後に四神となる奴らだ」
「え…?」
「四神は神だが、永遠じゃない。残念ながら寿命もあるんだ」
「そう…なの」
予想外だった。神様は生きて…それでみんなを守っていてくれると思っていた。
それが…
「どうした?黙り込んで」
「ひどい話ね…」
「ん?」
「もう…自分が神様になった時には次が決まっているなんて…」
すると、青龍は他の二人に聞こえないように言った。
「そうでもない…俺達が神になった理由ってのはちゃんとあるんだ」
「理由?」
「ああ」
「それって…」
「また…今度教えてやる」
「意地悪」
沙羅はぷうっと頬を膨らませた。
「何やってる?着いたぞ」
玄武の言葉に、沙羅は身を強張らせた。
一番奥の部屋。
障子の入口の右には龍。左に虎。上に亀。そして、床には鳥が描かれていた。
「きたか」
奥から声だけが響いた。
「入れ」
青龍は何のためらいもなく開けた。
「やっと来たか。随分待ったぞ」
「すまんの。井戸端会議が続いてしまってのう」
「そんなことはどうでもいい。玄武の帝も待ちくたびれているぞ」
「遅せーぞ、沙羅」
中央の一段高い所に座った審神と思われる男性の真下に、純は座っていた。
「純…!」
「いやいや…随分と愛らしい媛だこと…青龍は見る目があるな」
審神はニヤリと笑った。
「それにしても、朱雀、白虎、早く気づいて欲しいものだな」
すると、背後の簾から一人の少年が現れた。
「どうでしょう。本人は気づかない方が幸せかもしれませんよ」
その少年の年齢は青龍と同じくらいに見えた。
短い髪はぎりぎりで結ってあった。
「何が。本当は気づいて欲しいんだろ」
青龍は白虎を馬鹿にした。
すると、白虎はふふっ…と笑って見せた。
「そうですねぇ…何となく気づいてほしいでくけど…現代にも行きたいし」
「この野郎…」
「いい加減になさい」
落ち着いた声が二人に掛かる。
「ほんっと。見苦しいったら」
朱雀も審神に同意した。
そうして、沙羅に純の隣に座るように促した。
沙羅はゆっくりと座布団に腰を落ち着けた。
それを見計らった後、四神はその正面に腰を下ろした。
「さて…やっと本題に入れるな」
上座にあぐらをかいていた審神は、正座に直した後で言った。
「二人ほど…媛と帝が足りないが…まあいいか」
その言葉にあと二人、人間がいることを悟った。
「そなた達も聞いているな?我々の役目を」
「えっと…この神界と人間界を守れって話ですか?」
沙羅は先ほど青龍から聞いた話を思い出す。
「ああ。その通りだ。さて、ここからが問題…」
審神は考えるように腕を組んだ。
「その神擬き等をどう処理するかが問題な訳だ」
「処理…」
「そうだ。……これからそいつ等に狙われる可能性が高くなるな」
「なん…?」
純の表情が曇った。
意味の理解できない沙羅は純に訝しそうな顔を向けた。
「どう考えても、俺達は邪魔だって事だろ」
「邪魔?」
「神擬きは分かってるって事だろ?俺達が自分の中の四神に気づいた。と、言うことはその俺達がそいつ等を殺そうとする。だったら、俺達がいなければ四神は霊体でも現代に出てくることができない。じゃあ俺達、四神の主を殺しちまえって寸法だろ」
「……っ」
純の読みは当たるだろうと玄武は低い声でうなった。
「もちろんそんな事にはさせない。だが、朱雀と白虎の主がまだ気づいていない。二人は夢でも自分の存在を気づかせないからな…」
「え…?」
沙羅は思わす驚いた声を上げた。
「四神って、必ず夢に出てくるものじゃないの?」
「ああ。自分の主に気づいて欲しい奴だけが夢に現れる。こいつらが何で夢に出て行かないのかは明白だけどな」
青龍はそういって二人を指さした。
「どうして夢に出ないんですか?」
純は朱雀と白虎に向かって言った。
すると、朱雀の方が早く口を開いた。
「やっぱり巻き込みたくないのよ。大切な人をね…危ない目に合わせたくないの」
「これ以上人が傷つく所を見たくないんですよ…」
続けて白虎が言った。
「いいですか?神界でも傷つくことがあるんですよ。そして、その傷はそのまま現代に帰ったときに残る…分かりますか?神界で死んだらもう二度と人間界には戻れないってことですよ」
「――――っ」
二人は絶句した。
「これは夢じゃありません。どうします?そこまで危険を犯してでも神界と人間界を守るって言えますか?」
二人は黙って俯いた。
予想外な事を強いられてしまった。
沙羅は考えた。
これからのことを。
人間界を救うと言うことは、世界を救うこと。
無理だ…
正直言って無理だ。
それでも…
「やります」
四神と審神、純は沙羅の言葉に顔を上げた。
「私、やります。頼りないかもしれないけど…っ…でも…」
沙羅は恥ずかしそうに自分の長い髪を右手で透いた。
「助けてくれるよね…青龍」
彼女は青龍を真っ直ぐ見つめた。
青龍は優しく微笑んで沙羅を見つめ返した。
「ああ」
「さあ、お前はどうじゃ?純。無理にとは言わんぞ」
すると、純は苦笑いした。
「沙羅がやるって言ってんのに俺だけ逃げられんねーよ…」
そして、自分の髪をくしゃっと掻き上げた。
「有り難う…純」
「おう」